2022年6月29日
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療が難しい点は3つあります。1つ目は、増悪と呼ばれ、経過中に症状が悪化することです。風邪などが契機ですが治療が不適切であれば長期にわたり悪化したままの生活となります。2つ目は、治療が効果を上げなければ活動度がゆっくり低下していきます。家から出られないhome boundとなり、さらに悪化すればベッドから出られないbed boundとなります。3つ目は、COPDと共存する病気です。併存症と呼ばれています。重い肺炎、肺がんに心血管病変です。
心血管病変が問題となるのは、鬱血性心不全と呼ばれる心臓の病気でも良く似た症状が起ることです。しかも、COPDと心血管病変が共存することが多く、特にCOPDが一時的に悪化する増悪の時に心不全も悪化することはしばしば見られます。その結果、診断、治療法は複雑になり死亡リスクが高くなります。
ここではCOPDと心不全の合併を巡る問題点を解析した論文を紹介します[1]。
最初に、現在までに判明しているCOPDと心不全の関係を説明します[2]。
Q. COPDと心血管病変との関係とは?
・COPDと心筋梗塞の原因となる冠状動脈性心臓病、閉塞性動脈硬化症など末梢動脈疾患、および脳血管疾患である脳梗塞、脳出血などは、心血管疾患(CVD)と呼ばれるがこれらに共通する危険因子が喫煙習慣である。COPDとCVDは一般的に共存する。さらに、CVDはCOPD患者の主要な死因である。
Q. COPDとCVDの共存を示す疫学データは?
・進行したCOPDの351人を対象とし冠動脈を血管造影により調べた結果、狭窄が60%で見られ、53%で潜在性だった。
・メタ解析ではCOPDでは非COPDよりも心血管病変の頻度は2.46倍であった。心血管病変には虚血性心疾患、不整脈、心不全、全身性動脈疾患が含まれていた。
以上、文献[2]による。
Q. COPDの症状悪化で心血管病変の悪化が高まるか?
・COPD 5,696人の調査で、COPDの悪化後にリスクの増加が数日から数週間で認められた。心筋梗塞の発症(発生率比[IRR] 2.58)、脳卒中の発症(IRR 1.97)。
・中等度から重度のCOPDの911人の患者を対象とした調査では、死因は少なくとも27%が心血管系であった。
・1秒量(FEV)が10%減少するごとに、心血管死亡率は28%増加し、冠状動脈イベントはほぼ20%増加する。
・COPDの悪化の症状は、心不全の急性悪化と重なる。148人の患者のうち46人(31%)がCOPDの悪化と心不全の悪化の両方が見られた。
以上、文献[2]による。
Q. COPDと心不全の合併を巡る問題点を解析した論文はどのような研究か?
研究目的:COPDと心不全が共存する場合に治療上の問題点は何か?
方法:英国で実施。2006年から2016年までの後ろ向きコホート研究。国立病院および死亡率データにリンクされた全国的なプライマリケアの電子医療記録を使用した。
心不全と診断された患者の中でCOPDもある可能性の高い患者を抽出して解析した。COPDを軽度、中程度、重度、非常に重度に分類した。
主な結果:COPD患者、計86,795人のうち、心不全なし(n=60,047)、心不全疑い(n=8,476)、新たに診断された心不全(n=2,066)。
・心不全がないCOPDの患者と比較して、心不全の可能性があり、または心不全と診断されたCOPDの患者は、高齢で、元喫煙者であり、肥満であり、重度から非常に重度のCOPDで増悪の既往歴が多く、過去に心血管疾患の病歴が多い。
➡これらの結果は、COPDの診療にあたっていたプライマリケアで心不全の早期診断見落としの可能性があり、早期診断と最適な治療が行われていればCOPDの増悪リスクを軽減できた可能性があることを示唆する。
Q. 問題点の考え方は?
・慢性の心不全があると肺がうっ血状態となるため、これにより気管支の中を流れる気流の低下を起こす可能性があり、COPDも悪化状態となる ➡しかし、心不全によるうっ血(すなわち肺水腫)を適切に管理することで、COPDで生ずる気流の閉塞を元に戻すことができる。
・肺水腫、および心不全により酸素輸送の障害を起こすが、COPDの肺は過膨張状態となっており、呼吸困難を悪化させ、その結果、心不全によりすでに存在する運動能力をさらに低下させる可能性がある。
・心血管障害で見られる心臓肥大では、肺胞での酸素・二酸化炭素の拡散を悪化させ、拘束性肺パターンと肺胞容積の減少をもたらす可能性がある。
・肥満と糖尿病は、心不全の危険因子であり、心不全を伴うCOPDの患者によく見られるが、肺機能の低下と気道が狭くなる活動亢進を起こす。その結果、息切れが強くなる。
➡これらの結果は、心不全がCOPDの悪化を引き起こす根本的な要因である可能性があることを示唆する。
・COPD、心不全の患者の治療において心不全と重複する症状は、息切れの理由を誤診しやすい。
・心不全の徴候と症状は非特異的であり、多くの心不全の患者は、最初は他の疾患による悪化と考えられ治療を受けることが多い。
・COPDと心不全は、共通の危険因子(例:喫煙)と症状(例:呼吸困難、倦怠感、運動不耐性)を共有している。一方が他方の存在下で診断するのが困難になる可能性がある。
・COPDの患者では、英国のプライマリケアにおける初発症状から心不全の診断までの期間の中央値は3年以上であると云われているが、COPDのない患者ではわずか2.4年である。
結論:COPD集団では心不全を管理することで、長期的には悪化のリスクを減らすことができる。心不全の診断と管理を改善するための早期治療が見逃されている。
この論文で明らかにされているようにCOPDの患者さんの多くに心血管疾患の合併を認めます。時間をかけて症状を十分に聴く。胸部の聴診や診察で心臓、肺の状態を把握する。血液検査で心不全の兆候を知る。心電図での不整脈の有無。心臓超音波検査で心臓の状態を確認するなど、により肺の変化と同時に心臓の状態を把握することが大切です。
重い心血管病変が発見された場合には連携病院へ紹介し、共同で診療を進める方針としています。
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