No.358 重症喘息を難治化させる多病状態とは何か?
2026年6月4日
喘息は、幼少時から高齢期まで広い年齢にみられ、頻度の高い慢性の呼吸器疾患の一つとして知られています。性差があり、男性ではCOPDが多いのに対し、喘息は、女性に頻度が高いという特徴があります。幼少時からずっと、喘息と共に暮らしてきたという方や中高年で発症したという喘息の患者さんもいますが90歳過ぎに、初めて重い発作を認めたという方がいました。喘息は、どの年齢でも新たに発症しうることが知られています。
高齢者の喘息の治療が特に難しい、と感ずるのは喘息以外の病気が重なることが多くなるからです。例えば、高血圧、心不全で喘息治療中の人をしばしば診ますが、心不全の悪化による症状もゼイゼイし、痰が多くなることが共通していますので判断が難しくなります。治療は、つねに両者に目配りしたものでなくてはなりません。
慢性の病気が重なる状態は、多重併病ともいわれ治療を難しくする状態として知られています。高齢者の治療ではつねにありうることです。以前、NHKラジオの番組で視聴者からの相談というコーナーを担当していたことがありました。70歳代の女性で急に喘息症状を認めるようになったという質問です。詳しく話を聴くと、視力障害を起こし、眼科を受診した頃から喘息が悪化してきたという相談です。緑内障の診断で点眼薬を使いだしたところ、数週間ほど経った頃から喘息が悪化気味となってきたというものでした。緑内障の点眼薬のβブロッカーという種類の薬は、喘息を悪化させることがあることが知られています。その放送後、同じような症状、経過の患者さんが多数、受診し、相談を受け、こんなに多いのか、とびっくりしたことがありました。担当の眼科医と連絡を取り合い、緑内障の点眼薬を変更してもらい、並行して喘息の治療を行うことにより、ほとんどの方の症状は改善しました。喘息の悪化原因に緑内障の点眼薬治療が原因となることが少なくないことを改めて知りました。多重併病は、喘息治療の上では注意を払うべき要点の一つです。
重症喘息における多重併病の実態は十分に理解されていません。ここで紹介する論文[1]は、ヨーロッパ全域の重症喘息における多重症併存表現型(喘息以外にいくつかの疾患が併存している状態)とその問題点を、併存疾患の共存性を特定し、その特徴を明らかにしようとしたものです。いくつかの点で日本人とも共通点があります。
この論文は、喘息の中で、Th2-highと分類されているグループでは近年、抗体薬による治療が劇的な効果を挙げていることを念頭に、新しい治療を導入するために必要な情報という見地から研究を進めました。
Q. 研究の目的は?
・汎ヨーロッパでの重症異質喘息共同研究グループ(SHARP)に登録している患者のデータベースの解析である。
・患者はヨーロッパの4つの地域(北部、南部、東部、西部)でグループ分けされた。しかし、最終結果の解析では著者らが属するイタリアが半数を占めていた。
・これらの地理的地域内で最も一般的な10種の併存疾患の相関構造を特徴づけるために、併存疾患の階層的クラスタリングを実施した。
➡さらに、その後、多重疾患表現型(MMP)とその臨床的特徴を研究した。
Q. 調査結果は?
11か国から2,690人の重度喘息患者と23の併存疾患のデータを集積した。
・ヨーロッパの4地域で共通して、以下の併存症クラスターが見られた。
➡大まかに次の4種類に分類できた。
1) 骨粗鬆症とステロイド治療による体重増加を来した喘息
➡重症の喘息の治療として頻回の全身ステロイド薬(経口薬、注射薬)による副作用と考えられる場合。
2) 湿疹と鼻炎を合併した喘息
3) 慢性副鼻腔炎と鼻ポリープを合併した喘息
4)さらに4つの併存疾患 (肥満、気管支拡張症、胃食道逆流症、心理的要因など) との合併型喘息。

ヨーロッパを大まかに4地区(東西南北)に分類し、それぞれの地域における喘息について合併症の組み合わせの特徴を調べ、グラフ化した。
Q. 危険な喘息の問題点は?
・経過の長い喘息(特に高齢者の喘息)では多重疾患の頻度は高い。
➡患者ごとに併存症クラスターの整合性に基づいて多重疾患表現型(MMP)を決めた。
➡MMP snグループ(鼻病変関連群)とMMP uグループ(特異的なクラスターアライメントなし群)が最も一般的であった。
・MMPステロイド関連多重疾患グループ(MMP群)は経口ステロイド維持使用グループ(m-OCS群)と同様に、体格指数(BMI)が最も高く、肺機能、喘息コントロール、喘息悪化頻度が最も低下していた。
➡ステロイド経口薬による治療が頻回で肥満型であり、肺機能の低下があり、喘息のコントロールが不良で重症発作を起こしやすい患者であり、日常の危険度が高い。
・MMP max(最大多重疾患率)を見ると、経口ステロイド維持使用グループ(m-OCS群)では併存疾患の割合が高く、維持経口ステロイド使用がより多い。さらに生物学的製剤の必要性が示唆された。
➡多重疾患の重症喘息では、積極的な生物学的製剤による治療を行うべきである。
Q. 重症で多重疾患の喘息の治療方針は?
・経過の長い重症喘息では多重疾患が一般的であり、特徴的な臨床的特徴と転帰を持つ再現可能な新規表現型に分類される。
➡重症喘息で多重疾患では、治療による副作用や、急死などのリスクが高い。
Q. 本研究から何が判明したか?
・重症喘息患者の多くは多重疾患である。しかも組み合わせが異なる多重疾患表現型が存在する。それぞれに治療効果が異なり、関連する有害なリスクがあることが判明した。
・治療では、多重疾患の内容を正確に把握すること、生物学的抗体薬の治療効果の予測が大切である。
➡従来、この予測は臨床医の直観に依存していた。ステロイド薬を漫然と長期投薬されることが多かったが、喘息がTh2-highに分類されるか、また喘息と併存している多病、他病の把握が重要である。
➡その上で生物学的抗体薬の治療が有効かどうかの判断がなされるべきである。
➡高度肥満+重症喘息の組み合わせが多くなってきている➡高血圧、脂質異常症、代謝機能障害、糖尿病、不安と鬱状態が問題である。
➡重度喘息の治療管理では経口ステロイド依存を中止すること。これに代わる治療薬として生物学的治療薬を適切に行うことが推奨される。
ここで紹介した論文は、喘息を4種類に分類し、それぞれのタイプの特徴を統計学的に明らかにしています。その中で生物学的抗体薬が効果を挙げる型を絞り込もうと試みた研究です。「多重疾患の重症喘息の中でステロイド薬を常用あるいは頻回に使用する場合は、積極的な生物学的製剤による治療を行うべきである」という結論は妥当な意見です。日常的に喘息の患者さんにあたる担当医は、経験的に分類し治療方針を決めていますが、その枠組みを多数例について分類したことが特徴です。中でも肥満型女性では難治性喘息となりやすいことが知られていますが、それに関連する他の因子を挙げて統計的な解析を行った点がユニークです。
病型の上では肥満型の女性の喘息では、肥満がリスク・ファクターとなることが知られています。高血圧や睡眠時無呼吸症候群の合併頻度も高くなります。
喘息は、呼吸器疾患のうちで頻度が高く、慢性に経過し、日常の生活を不安定にし、時に生命の危機にまで追い詰めることがある厄介な病気です。しかも乳幼児期から90歳以上の高齢者に至るまでの全世代にみられます。1990年代の終わりごろまでは喘息死がしばしば、みられました。喘息の大発作は、夜間に多くみられます。その都度、救急車を呼び救急外来を受診することをためらっているうちに意識がなくなる、というようなことがありました。スタッフが揃っている昼間のうちに受診していれば夜中に救急車で搬送されるようなことがないのにと思いましたが、他方、患者さん側からの意見では、急な受診は迷惑をかけるからなるべく予約した日時にしたい、という配慮があるようです。気兼ねなく相談できる患者―医療者間での信頼感の醸成が鍵と思われます。
近年になり、吸入薬を始め、治療薬が充実してきたことに加えて、患者さん、家族に対する適切な医療情報の提供が治療効果を高めてきました。これも患者―医療者間の信頼関係が問題です。
抗体薬と呼ばれる生物学的製剤の効果が目覚ましいものがあり、これまで重症で治療に難渋してきた多くの患者さんにとっては、生活を劇的に改善した方を目にすることが多くなりました。本論文のようにリスクを伴う喘息の治療方針として重要です。ある患者さんは、これまでは、遠方へ旅行に出かけることは夜中の発作が心配で考えられなかったのに人生が変わった、とまで感想を述べられています。
しかし、新しい薬だけで慢性に経過する喘息が改善することは少なく、従前通り、日常の注意点などの関連情報をできるだけ持ってもらうようにすることが大切であると感じています。
参考文献:
1.Freeman, A. et al.
Multimorbidity phenotypes and associated characteristics in severe asthma: an observational study of European severe asthma registries.
Lancet Regional Health - Europe 2026;63: 101600. https://doi.org/10. 1016/j.lanepe.2026. 101600
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