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No.335 重症肺炎の治療 ―議論が続くステロイド薬投与の利点と難しさ―

  • 執筆者の写真: 木田 厚瑞 医師
    木田 厚瑞 医師
  • 2025年11月25日
  • 読了時間: 7分

2025年11月25日


 晩秋となり咳や痰の症状をもつ人が急に増えてきました。日常の生活の中で発症する肺炎は市中肺炎と呼ばれています。癌や心筋梗塞など、他の病気で入院中に発症する院内肺炎とは治療に対する考え方が異なるので区別されています。肺炎は、このほかに、施設に入居中の人が肺炎になる場合の3つに分けて治療方針が立てられています[1]。


 市中肺炎は、世界中で病気の罹患率および死亡率において主要な原因疾患です。市中肺炎の症状は、咳、痰、発熱、呼吸困難など多岐にわたります。発熱と湿性咳嗽を特徴とする軽度の肺炎から、呼吸状態が今度に窮迫した敗⾎症を特徴とする重度の肺炎まで様々です。また、ほぼすべての呼吸器疾患の症状と類似しているので区別する鑑別診断は治療の出発点として重要です[2]。


 肺炎は医療が発達した現在でも治療が難しい疾患であり、しかも高齢者に問題点が集中しています。ここで紹介する論文は、従来から使い方が難しいとされてきた、重症肺炎に対するステロイド薬の使い方の問題点を指摘した論文[3]と、医療事情が不十分で治療での選択肢が少ないケニアで重症肺炎に対してステロイド薬を治療目的で使った結果をNew England J. Medicineに報告したものです[4]。





Q.市中肺炎はどのように発症するのか?


・市中肺炎の主な感染経路は飛沫感染や接触感染である。すなわち、鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染や、感染者と接触したりすることによる感染(接触感染)とされている。




Q. 肺炎の対策の重要性と問題点は?


・科学と医学の進歩にもかかわらず、肺炎は依然として世界中で主要な死亡原因となっている。2021年には、肺炎を含む下気道感染症により、世界中で2億1,800万人が死亡

した。その多くは5歳未満の乳幼児と70歳以上の成人、そして肺炎に対する感受性の⾼い人(抗がん剤の投与中や免疫不全など)である。




Q. 高齢者の死亡原因としての市中肺炎とは?


・市中肺炎は、入院患者、特に65歳以上の患者における下気道感染症の主な原因である。


・2019年の世界における下気道感染症の死亡率は10万人あたり6.46人であった。過去30年間(1990~2019年)にわたって、55歳以上の死亡率は減少傾向を示したが、絶対値では85.8%増加し、85歳以上の患者で最も⾼い率が観察された。


・重症の市中肺炎は、集中治療室(ICU)入院、機械的人工呼吸器、または血⾏動態サポートを必要とする疾患で、死亡率は16~36%である。


・市中肺炎は、免疫抑制や加齢に伴う合併症を有する⾼齢者に多く、適切なタイミングでの抗⽣物質療法にもかかわらず、治療成績が不良となる。

➡局所および全⾝の炎症反応を弱めるコルチコステロイド療法は、市中肺炎患者の転帰を改善するための補助治療として提案されている。




Q. これまで報告された論文の検討は?


 論文1は、重症の市中肺炎に対するステロイド薬の投与効果について、英国の英文雑誌に掲載された論文であり、英語圏+中国語圏からこれまで発表されてきた論文のまとめである。


背景:

重症の市中肺炎を患う⾼齢患者におけるコルチコステロイドの使用については、依然として議論の的となっている。そこでメタアナリシスの手法により、⾼齢患者で市中肺炎に対するコルチコステロイドの有効性と安全性を評価することを⽬的とした。


⽅法: 

重症の市中肺炎におけるコルチコステロイドの使用のテーマでPublic Medline、Excerpta Medica Database、など英語論文+中国語論文において、入⼿可能な古い論文から2024年9月15日までの記録を網羅的に検索した。主要評価項⽬は30日目の全死亡率とし、安全性評価項⽬には消化管出血、⼆次感染、急性腎障害を含めた。


結果

1) このメタ分析には、2,034名の患者を対象とした9件のランダム化比較試験(RCT)のデータが含まれており、コルチコステロイド療法は30日以内の全死亡率の低下と関連していることが示された(リスク比(RR)=0.67; 95%信頼区間(CI) 0.52-0.86; p=0.002)。

2) コルチコステロイドの使用は、入院期間および集中治療室在院期間の短縮、人工呼吸器の必要性の減少、血管収縮薬への依存度の減少、C反応性タンパク質(CRP)値の低下につながる。

3) 安全性に関しては、コルチコステロイドにより重複感染(RR=0.78; 95% CI, 0.54‒1.13; p=0.19)、上部消化管出血(RR=0.71; 95% CI 0.35‒1.44; p=0.34)、急性腎障害(RR=0.71; 95% CI 0.23‒2.21; p=0.56)のリスクは有意に増加しなかった。


結論:

⾼齢の市中肺炎患者におけるコルチコステロイド療法は、特にヒドロコルチゾンを併用した場合、死亡率の低下と関連していた。この効果は、総投与量が少ない(1,750 mg以下)、治療期間が長い(7日以下)、維持療法を1回だけ投与する場合に顕著であった。さらに、コルチコステロイドは、入院期間およびICU在院期間の短縮、血管収縮薬および機械的人工呼吸器の必要性の減少、CRP値の低下と関連していた。しかしながら、有害事象の定義が研究間で不均⼀であるため、安全性結果は依然として不明確である。




Q. ケニアで実施された臨床研究の成果は?


  SONIA試験と呼ばれる。


背景:

1) 市中肺炎は、世界的に合併症や死亡の主な原因の一つである。サハラ以南アフリカにおける市中肺炎の症例致死率は、患者の平均年齢が著しく低いにもかかわらず、高所得地域での3倍から5倍の死亡率である。

2) コルチコステロイドは免疫調節効果から市中肺炎の補助療法として提案されている。最近の2件の試験データおよび集中治療室(ICU)に入院した患者における補助的なヒドロコルチゾンの系統的レビューでこれらの患者の死亡率の低下が観察された。しかし、他の研究論文はこの結果に否定的である(論文1と同様な推論)。

3) サブサハラアフリカのような医療資源の乏しい環境では、他の地域とは異なり、若い世代で重症肺炎が多い。


方法:

実際の診療現場で実施された臨床研究である。実用的・オープンラベルのランダム化比較試験としてケニアの18の公立病院で実施された。

市中肺炎と診断され、グルココルチコイドの明確な適応症がない成人患者に対し、標準治療に加えて10日間の標準治療または経口低用量グルココルチコイドのいずれかを受けさせた。主な結果は、登録後30日以内に原因を問わず死亡率の比較である。


結果:

合計2,180名の患者が調査対象として無作為に2分した。うち1,089名がグルココルチコイド群に、1091名が標準治療群に割り当てられた。患者の中央値年齢は53歳(分布は38歳から72歳)。46%が女性。30日目時点で、死亡報告は530人(24.3%)で、グルココルチコイド群が246人(22.6%)、標準医療群が284人(26.0%) (危険比 0.84; 95%信頼区間0.73-0.97; p=0.02)。有害事象と重症有害事象の頻度は両試験群で類似していた。グルココルチコイド投与に関連するとされる重篤な有害事象は5名(0.5%)で発生した。


結論:

資源の乏しい環境で治療が実施された市中肺炎の患者では、補助的なグルココルチコイド療法が標準治療よりも死亡リスクが低かった。ただし、ステロイド投与の副作用には高血糖が挙げられた。アフリカ人には近年、糖尿病が増加しておりステロイド投与のリスクは高い。




 肺は、内臓でありながら口や鼻から吸い込んだ空気から酸素を取り込み、二酸化炭素を外に吐き出す役割をもつ外界に開放している内臓です。吸い込む空気には、新型コロナウイルスのようなウイルスもあれば、最近、流行している百日咳はBordetella pertussisを原因菌とする感染症です。主な感染経路は飛沫感染および接触感染です。乳児や体力の低下した高齢者で重症化しやすい。細菌やウイルスを吸い込んだから、すぐに肺炎を発症するわけではなく生体には二重三重にも守る作用や機能が備わっています。しかし、守りが弱くなり、細菌にとって都合の良い条件が揃うと肺炎の発症に至ります。免疫能が未発達の乳幼児や、低下した高齢者が感染の犠牲者になることが多い理由です。

 体力が低下し、複数の慢性疾患が共存することが多い高齢者の市中肺炎では、発症から数時間で重症になる場合も少なくありません。重症化して血中の酸素分圧が大きく低下した状態は呼吸不全と呼ばれますが、多臓器に障害が及ぶ多臓器障害となる可能性があります。刻々に悪化していく中でステロイド薬(グルココルチコイド療法)に踏み切らざるを得ないという判断を迫られることは少なくないと考えられます。

従来の報告論文に加え、ケニアで実際の診療現場での調査でも、グルココルチコイド療法の方がわずかに優れているという、統計結果は、なお、一般化してガイドラインに記載する状態に至っていないことを示唆します。





参考文献:


1.       成人肺炎診療ガイドライン、日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会編、2024年。

2.       Ramirez JA. et al. Overview of community-acquired pneumonia in adults.

UptoDate, Literature review current through: May 2025.

3.       Ali M. et al.  Efficacy and safety of glucocorticoids therapy of severe community‑acquired pneumonia in older adults: a systematic review and meta‑analysis.

BMC Geriatrics 2025;25:225

4.  Lucinde RK.et al.

A pragmatic trial of glucocorticoids for community-acquired pneumonia.

N Eng J Med 2025; This article was published on October 29, 2025.


※無断転載禁止

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