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No.342 COPDで寝たきりにならないための工夫

  • 執筆者の写真: 木田 厚瑞 医師
    木田 厚瑞 医師
  • 2 日前
  • 読了時間: 10分

2026年1月30日


 喘息とは異なり、COPDは中高年に多い慢性疾患であることは世界に共通しています。しかし、発症年齢の比較では、米国では50歳代の半ばから多くなりますが、わが国では60歳半ば頃から多くなり、高齢者層に多い病気となっています。従って、COPDに特徴的な症状は、高齢者に多い他の慢性疾患と共通する問題点と重なり合ってくることになります。

 COPDは、わが国では、咳、痰の症状が強い慢性気管支炎型よりも階段を昇る時が苦しい、というような肺気腫型が多くみられます。後者は、日常の生活で買い物や散歩などわずかな運動で息切れが起こり、患者さんの日常の活動性をしだいに低下させていき、日常生活を次第に不自由にしていく、やっかいな状態です。


 加えてCOPDの治療で問題となるのが併存症、すなわちCOPDの悪化と並び、経過中に加わってくる高齢者に共通する呼吸器以外の慢性の病気です。COPDの治療経過では次の3つのパターンが危険視されています。これらは、いずれもCOPDの重症度には必ずしも関係しない形で起こることが知られています。


1)カゼなどの気道感染がもとでスタートする重症の気管支肺炎、あるいは誤嚥性肺炎。

2)心血管病変。脳血管や冠動脈の動脈硬化が進み、急性の心筋梗塞を起こし、脳梗塞の原因となる動脈硬化性の病変。

3)経過中に発症する肺がん。


 食べたものを飲み込む、嚥下は頸部にある多種の筋肉の協調作用による高度の機能ですが呼吸が苦しいCOPDでは誤嚥を起こしやすくなります。その結果、生ずるのが誤嚥性肺炎です。


 治療経過ではこの3つのリスクをつねに考えながら見守る必要があります。


 高齢者では、COPDに特有な問題点のほか、高齢者一般に共通した症状が加わることが多くなります。それが、四肢の筋力低下、骨粗しょう症などです。下肢の筋力低下が進めば日常生活は不自由となり、また転倒など外傷のリスクが高くなります。

 息切れが強くなれば、外出は次第に難しくなり、また、日常生活で不自由さを感ずることが多くなります。怖いのは、外出ができなくなり、家に閉じこもりきりの生活となり、やがてベッドから出るのが億劫になる、すなわち寝たきり生活に近くなることです。喘息の長期治療とその根本的な考え方が異なるのが、このような経過です。


 下肢の筋力低下は、歩行など日常生活の活動性を低下させる主な原因です。COPDは、ほぼ全身にわたる炎症性病変を伴う、と報告した古い論文がありますが、炎症の概念が広がってきた現在では言い当てている部分があります。COPDは、肺組織だけでなく、様々な太さの動脈や四肢の筋肉など広範囲に炎症関連の病変が広がるのが特徴の一つです。全身の炎症を抑えこむような薬物治療が理想ですが、残念ながら現在は、四肢の筋力低下を避け、回復させる方法はリハビリテーションのみです。リハビリテーションは、運動だけではなく、栄養改善も含む重要な治療目標です。

 高齢者では、軽症のCOPDにも拘わらず、著しく日常の活動性が低下した患者さんを時々、診ることがあります。

 ここでは、必ずしも重症ではない高齢のCOPDの患者さんにどのように運動療法を勧めていくかについて現在の考え方を紹介していきます。




Q. COPDの医療上の問題点は何か?


・急に悪化して救急受診となり、重症であれば集中治療室(ICU)での治療が必要となる。


・COPDの発生率は上昇し続けている。最新のGOLD 2025レポートによると、COPDの有病率は11.7%で、全死亡原因の第3位


・2060年までに世界で毎年540万人の患者がCOPDとその合併症で死亡すると推定されている。

➡ COPDは、高い有病率、発生率、および死亡率により、重大な公衆衛生問題であり、解決策は医療システムの重要な課題である。

➡ COPDの高い発生率と死亡率は、治療費の大幅な増加をもたらし、経済的負担をもたらしている。

➡ したがって、患者の生活の質を向上させつつ、疾病負担や経済的影響を軽減するためには、早期予防が不可欠である。




Q. COPDの治療で重症な栄養療法と運動療法とは?


・COPDにおける栄養状態の異常は、主にエネルギー需要の増加不十分な栄養摂取による。COPD患者では栄養状態の異常頻度が高い。


・COPDの栄養障害(低下、失調)は、COPDの経過と生活の質(QOL)の両方に悪影響を及ぼし、筋萎縮、免疫機能の低下、骨格筋量の低下、合併症の増加、および死亡率につながる可能性がある。




Q. フレイルとは何か?


フレイルとは加齢に伴い、外的ストレスに対し脆弱性を示す状態で、要介護状態とは区別される。


フレイルの予防・介入は健康長寿の鍵となっている。


・高齢COPDは、COPDのない患者と比較して転倒を経験する可能性が有意に高い

➡ フレイルに近くなる。




Q. 高齢者の誤嚥性肺炎とは?


・肺炎死亡者の多くは65歳以上の高齢者が占めており、2020年の人口動態統計では、肺炎と誤嚥性肺炎の死亡者数は、死因の第4位となった。


・高齢者の誤嚥性肺炎は、突然、発症するのではなく、前段階として全身およびフレイルが予兆となる。




Q. 嚥下のフレイルとは?


・加齢に伴う嚥下機能の低下は嚥下のフレイルとも呼ばれている。


嚥下機能のうち、以下の3つが加齢とともに悪化し、誤嚥、誤飲を起こしやすくなる。

1)嚥下に不可欠な喉頭挙上運動の障害(飲み込みの際にのどぼとけがいったん上がって下がることの障害)

2)嚥下の呼吸相と嚥下相のタイミングのずれ(通常嚥下の際には呼吸は一瞬停止している)。

3)咽喉頭粘膜の感覚の加齢に伴う低下(食べ物がのどに残っていても気づかない、そのため咳反射が起こりにくい)。


 嚥下のフレイルは未病の状態といえるが全身の予備能力の低下に伴い状況が起こっているが、それを自覚していない。




Q. 転倒リスクと誤嚥リスクが高い高齢者のCOPDの問題点とは?


・高齢者COPDでは虚弱性の増加による転倒リスクの増加、歩行障害、転倒や骨折などの怪我は、救急外来の受診や入院につながる可能性があり、患者のQOLを低下させ、医療費を増加させる。


・呼吸困難に伴う嚥下困難、嚥下障害が起こりやすい。

 ➡ 誤嚥性肺炎を起こしやすくしている。


・COPDは米国で6番目に多い死因であるにもかかわらず、これらの患者の終末期の転倒事故についてはほとんど知られていない。わが国でも問題にされることは少ない。


転倒の原因となる危険因子の1つに薬物副作用がある

➡ ベンゾジアゼピン、鎮静催眠薬、降圧薬、その他の精神活性薬などの転倒リスク増加薬(FRID)を含む薬物原因が多い。

➡ COPDの患者では、不安、うつ病、糖尿病、高血圧など、フレイルの原因となる併存疾患の有病率が高い。

➡ 多重処方(ポリファーマシー)の負担が増え、さらに不眠症や痛みに対する薬を追加投与される。




Q. 高齢者の活動度低下の問題点は?


・高齢者人口の増加に伴い、変形性関節症、骨粗鬆症、サルコペニア、関節リウマチといった筋骨格系疾患の有病率が急増している。


・高齢者(60歳以上)の障害率の上昇、生活の質の低下、そして医療制度への負担増大につながっている。

➡ 高齢者に対する現在の筋骨格系ケアは、合併症、虚弱、分断されたケアなど、多くの制約に直面している。

➡ 具体的には、55歳以上の年齢層における変形性関節症の有病率の高さ、骨粗鬆症性骨折による経済的負担の増大、筋量減少への懸念の高まり、そして対策の不十分さが課題である。

➡ 米国では、1億2,100万人以上が筋骨格系疾患に罹患しており、全疾患群の中で最も高い障害率を占めている。このため、対象を絞った戦略の必要性が浮き彫りになっている。

➡ 高度な薬理療法、再生医療、デジタルヘルス技術(人工知能を含む)といった有望な解決策が存在するが、現在のケアモデルでは十分に活用されていない。



図1:米国における主要な筋骨格系疾患の推定罹患数(年齢層別、1990~2021年)。

出典:Nguyen A. et al. Lancet Healthy Longev2025; 6: 100707を一部修正
出典:Nguyen A. et al. Lancet Healthy Longev2025; 6: 100707を一部修正

 

主要な筋骨格系疾患を患っている人の総数(6つの世界疾病負担グループに分類:関節リウマチ、変形性関節症、腰痛、頸部痛、痛風、その他の筋骨格系疾患、年齢層別の変化)。



図2:米国における主要な筋骨格系疾患の年齢別累積有病率(2021年)

出典:Nguyen A. et al. Lancet Healthy Longev2025; 6: 100707を一部修正
出典:Nguyen A. et al. Lancet Healthy Longev2025; 6: 100707を一部修正

関節リウマチ、変形性関節症、腰痛、頸部痛、痛風、その他の筋骨格系疾患の有病率を年齢別にまとめたものである。骨粗鬆症は、世界保健機関(WHO)の統計では別個に分類されているため、ここには含まれていない。




Q. 高齢者の活動度低下の解決策は?


・整形外科、老年医学、介護・ヘルスケア分野の連携が必要である

➡高齢化社会における筋骨格系疾患の効果的な管理には、診断、治療、遠隔医療を統合した包括的かつ拡張可能なアプローチに加え、予防が鍵となる。




Q. 高齢者の活動度の低下の問題点は?


・身体活動は、高齢者に関連する30以上の慢性疾患の修正可能な危険因子である。

週に150分の適度な身体活動を行うと、身体活動をしない場合と比較して、全死因死亡率を31%減らすことができる。


・身体活動は、虚弱な高齢者や転倒のリスクが高いと考えられ、高齢者を含め、機能的自立を維持または改善するための最も重要な方法の1つである。




Q. 高齢者の身体活動度を高く維持するには?


・高齢期の身体活動のレベルが高いことは、認知機能、精神的健康、および生活の質の改善と関連している。


・座りがちな行動の減少が、内因性能力の改善と前向きに関連していることを明らかにした。高齢者を対象に、身体活動を増やし、座りがちな行動を減らす個別化およびモニタリングされた介入を行うことで、内発的能力を向上させ、ストレス要因に対するレジリエンスを高め、健康的な老化を促進することができる。




Q. 早期スクリーニングと転倒予防の方法は?


・早期スクリーニングプロトコルと転倒予防

50歳以上の成人に対して、検証済みの検査ツール(DEXAスキャンなど)を使用して、 骨粗鬆症と転倒リスクのスクリーニングを定期的に実施する。


・60歳以上の成人の転倒を減らす目的で治療介入を行う。

➡筋力とバランスの運動、座りがちな環境の変更、薬物治療内容の見直しなど。

➡ 多職種ケアモデルの推奨。統合ケアチーム(整形外科専門医、老年医学専門医、プライマリケア提供者、定期的に学際的な症例検討を行う理学療法士や疼痛管理の専門家など)。


・非外科的管理戦略:慢性疼痛と機能低下に対処するために、理学療法、多角的疼痛管理、心理的サポート、ライフスタイルの変更など、人工知能(AI)を活用した個別管理プロトコルを開発する。 




Q. 患者参加型の教育とは?


・患者教育と自己管理

➡ 患者教育プログラムと自己管理ツールを作成し、患者が安心して治療を受けられるよう継続支援する。 

➡ 運動、栄養、服薬の遵守を通して患者が自らの治療に参加できるようにする。

➡ デジタルヘルスの統合。明確なガイドラインとユーザーフレンドリーなインターフェースを備えたデジタルヘルス技術(遠隔医療やウェアラブルデバイスなど)を導入し、高齢者、特に認知障害のある高齢者をサポートするために介護者の関与を確保する。

➡ 医療従事者トレーニングの強化:高度な技術(AI駆動型診断や仮想現実シミュレーションなど)を活用して医学教育を改善し、医療従事者が高齢者の複雑な筋骨格系疾患を管理するために必要なスキルを習得できるようにする。




 わが国のCOPDの発症のピーク年齢は、欧米よりもやや遅く、高齢者医療問題と重なる部分が多くなっています。高齢者の誤嚥性肺炎は、突然、発症するのではなく、前段階として全身およびフレイルが予兆となることが特徴です。肺炎死亡者の多くは65歳以上の高齢者が占めており、2020年の人口動態統計では、肺炎と誤嚥性肺炎の死亡者数は、死因の第4位となりました。肺炎の予防策として肺炎球菌ワクチンが推奨されています。しかし、高齢者の誤嚥性肺炎は、突然、発症するのではなく、前段階として全身およびフレイルが予兆となることはここで紹介した論文が示す通りです。


 高齢者の誤嚥性肺炎、労作時の息切れによる日常活動性の低下、低栄養状態、未診断・未治療のCOPDの解決は、互いに重なりあった形で予防策が求められています。

英国は伝統的に老年病学の進歩の牽引役を果たしてきました。ここで紹介した論文は、対策のヒントを与えてくれているようです。




参考文献:


1.熊井良彦

高齢者誤嚥性肺炎に対する耳鼻咽喉科医としての取り組み 日医ニュース、No.1543 (2026/01/20発行)。


2.Overview of geriatric rehabilitation: Patient assessment and common indications for rehabilitation.

Date of Review: June, 2025. Up Dated: March 7, 2025.


3.Thornton J.S. et al.

Move more, age well: prescribing physical activity for older adults. Can. Med. Asso. J. 2025: 197: E59-67. DOI: 10.1503/cmaj.231336.


4.  Ma L.

Physical activity, sedentary behavior, and intrinsic capacity at older ages: get active! Lancet Healthy Longev. 2025; 6: 100687.


5.  Sánchez-Sánchez, J.L. et al.

Association between physical activity and sedentary behavior and changes in intrinsic capacity in Spanish older adults (Seniors-ENRICA-2): a prospective population-based study.

Lancet Healthy Longev. 2025; 6: 100681.


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