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No.339 栄養管理が大切な高齢者のCOPD

  • 執筆者の写真: 木田 厚瑞 医師
    木田 厚瑞 医師
  • 2 日前
  • 読了時間: 8分

2026年1月16日


 COPDは、中高年に多い疾患ですが、古くから、体形により太ったCOPD、やせたCOPDの2つのタイプがあることが知られています。太ったCOPDはblue bloater型, やせたCOPDはpink puffer型と呼ばれてきました。極端な、太りすぎも痩せすぎもCOPDの治療を難しくさせます。

当初は、blue bloater型は痰が多い慢性気管支炎型であり、pink puffer型は肺気腫型と考えられていました。現在では、体形から分類されることはありませんが、肥満を伴うCOPDは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を伴うことが多く、CPAP治療が必要となることが多く、他方、やせたCOPDでは、息切れが強く、しかも重症化とともに低酸素血症がみられることが多く、治療として在宅酸素療法が行われることが多いようです。

 以前の分類であるblue bloater型も、pink puffer型も呼吸器系の治療と同時に栄養管理が共通して大切です。

pink puffer型では、主にエネルギー需要の増加と栄養摂取不足により、栄養状態の異常が頻繁に合併症として認められます。特にpink puffer型にみられる栄養失調はCOPD患者の状態と生活の質の両方に悪影響を及ぼし、筋萎縮、免疫機能の低下、骨格系の健康問題、合併症の増加、死亡率の増加につながる可能性があります。


 問題点は、栄養障害が、高齢化に伴ういわば自然の変化と、COPDという病気に伴う場合が重なりあって治療方針が立てにくい状況を起こしていることが多いことです。共通で問題となるのが栄養状態です。


 ここでは、最初に高齢に伴う栄養障害の問題を取り上げ、次いで高齢COPD、栄養障害が重なる場合の問題点を取り上げた論文を紹介します。




Q. 栄養失調と栄養不足の違いとは?


・栄養失調と栄養不足はしばしば同義語として使われるが、同義語ではない。


栄養失調とは、世界保健機関 (WHO) によると 、栄養不足だけでなく、過体重の状態や肥満も含むより広い概念を指す。


・GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準は、2018年に世界の主要な臨床栄養学会が協力して策定した成人の低栄養の診断基準である。この基準は、従来の食物摂取不足による低栄養に加え、疾患関連性の低栄養も考慮しており、世界共通の評価基準として位置付けられている。特に高齢者やCOPDのような慢性疾患患者において、早期発見と早期介入が重要な課題となっている。


・GLIMの基準による診断には少なくとも1つの病気の表現型と1つの病因基準の組み合わせで行われる。表現型基準では、非意志的な体重減少 (過去 6か月以内に>5%または低体格指数 (6か月以降 >10%)などが参考となる。



 

Q. 高齢者の栄養障害は?


・高齢者の体重減少は死亡率の予測因子である。


・高齢者の栄養障害のリスクは、病気の重症度や摂食困難など、さまざまな理由による食事摂取が不十分など、社会的、医療的、心理的要因の問題が、長期的かつ持続的となり、体重減少を引き起こすことがある。


・高齢患者の急性入院に関する研究データによると、最大71%が栄養リスクや体調の状態にあると示唆されている。手術入院期間などのデータでは、高齢者の栄養不足はより一般的であり、身体活動度、再入院などに大きな影響を与える可能性がある。




Q. 高齢者の栄養障害の原因は?


社会的要因

65歳以上の1/3、 85歳以上の半分が一人暮らしをしており(米国データ)、食事の楽しみやカロリー摂取が減少している。他の人と一緒に食事をする高齢者は、一人で食べる人よりも多く摂取することが報告されている。


・食料調達に影響を与える経済的制約 ➡高齢者の貧困線付近で暮らす割合が大きい。


医療的要因:

悪性腫瘍では栄養障害が多い。

うつ病 ➡高度の食欲低下による。

嚥下障害 ➡高齢者に多い。嚥下障害は急性脳卒中やパーキンソン病など摂取困難に伴うことがある。

その他:急性または慢性疾患は食欲や消化器機能に影響する。また身体の麻痺、重度の関節炎、手の震え、認知症による摂食困難は摂取量の制限となる。

口腔の問題➡咀嚼困難、歯の問題、口腔痛では摂取不良のリスクを増す。




Q. 高齢者COPDの問題点は?


・高齢COPD患者が多いがその診断率が低い。日常の健康状態で呼吸困難や咳嗽を引き起こす可能性があるため、適切な検査による評価と診断なしに対症療法だけとなっている可能性がある。


・COPD は呼吸困難、急性増悪などによる頻繁な受診があり、複数回の病院入院、慢性的な治療の必要性など、医療費高額化の理由となる




Q. 本論文の概要は?


目的: COPDは、世界中で罹患率および死亡率の主要な原因であり、特に高齢者において顕著であり、集中治療室(ICU)への入院率の上昇につながっている。栄養失調は高齢患者に多く見られることが多く、特にCOPD患者の予後不良の原因となっている。しかし、重症化でのICU利用と栄養障害の影響は未だ十分に解明されていない。本研究の目的は、老年栄養リスク指数(GNRI)で測定した栄養失調と、ICUに入院中の高齢COPD患者の予後不良との関連性を検証することである。

 


方法:

老年栄養リスク指数(GNRI)は、体重と身長に基づくシンプルな計算式で、高齢者の栄養状態を客観的かつ分かりやすく評価できる。


GNRIの計算式は以下のとおりである。

GNRI=1.489 ×血清アルブミン値(g/L)+41.7 ×(実際の体重(kg)/理想体重(kg)) 。 理想体重の計算方法は性別によって異なる(中略)。

GNRIスコアが98を超える患者は栄養失調リスクがないことを示し、98以下の患者は栄養失調リスクがある。


・本研究では、低栄養を伴う高齢者COPDの院内死亡率、褥瘡の発生、ICU在院期間の延長との関係を調べた。



対象:

ICU入室例(n=7,719人)➡ データが揃った症例、n=2,824。

栄養障害リスクなし(GNRI>98):n=827 (病院で死亡n=65, 生存退院 n=702)

栄養障害リスクあり(GNRI<=98):n=1,997 (病院で死亡n=377, 生存退院 n=1,620)



結果:

・2,824人の高齢COPD患者。うち 1,997人(70.7%)が栄養失調のリスクがあった。


・栄養失調リスクのない高齢COPD患者と比較して、栄養失調リスク群の患者は、BMIが有意に低い(26.8kg/m² vs. 28.8kg/m²、p<0.001)。


・媒介分析の結果、褥瘡は栄養失調と死亡リスクの上昇の関係において媒介因子として機能し、この関連性の影響の約22.9%を占めていることが示された。


・GNRIスコアと、多変量ロジスティック回帰分析の結果、最終モデルでは、栄養失調リスク群の患者は、栄養失調リスクのない患者と比較して、院内死亡リスクが有意に高かった(オッズ比1.48、95%信頼区間1.08~2.05、p=0.015)。また、栄養失調は褥瘡(オッズ比1.51、95%信頼区間1.18~1.94、p=0.005)。



考察:

・COPDは気道だけでなく肺外臓器にも影響を及ぼす。肺外症状の1つとして栄養失調があり、患者の健康に重大な影響を及ぼす。


・本研究は重症患者に焦点を当てているが、高齢COPD患者における栄養失調と死亡リスク増加との関連性を強調した過去の研究と一致している。


・この関連性は、複数の要因の組み合わせに起因する可能性がある。栄養失調は免疫系を弱め、患者を感染症にかかりやすくし、死亡リスクを増加させる。さらに、呼吸筋の強度を低下させ、COPD症状を悪化させ、治療の複雑さと死亡リスクを増加させ、呼吸機能を低下させる可能性がある。


・栄養失調は代謝機能と生理機能に影響を及ぼし、回復力と耐労務能力を低下させ、予後に影響を及ぼす可能性がある。ICUにおける高齢COPD患者に対する栄養失調の影響は重大である。

➡この脆弱な集団の生存率を向上させるために、医療者は個別化された栄養のケア戦略を実施する必要がある。


・適切な管理によって症状(特に呼吸困難)を減少させ、 COPDの増悪頻度と重症度を 減少させ、健康状態を改善し、運動能力を向上させ、生存期間を延長させることができるため、COPDの早期の正しい診断を確立することが重要である。



結論

・栄養不良は、重症化した高齢COPD患者における院内死亡リスクを高める。


・褥瘡リスクの上昇やICU在室期間の延長にも関連している。

➡これらの知見は、COPの臨床転帰に栄養状態が極めて重要な役割を果たしている。

➡したがって、臨床現場における栄養評価と管理への重点的な取り組みを強化することが不可欠である。





 COPDを含む多くの慢性呼吸器疾患は、高齢者に多く、しかも高齢化に伴い重症化する傾向があります。肺の微細な構造が、加齢とともに少しずつ変化し、しかも蓄積されていくことによるものですが、それとともに以前から併存していた多種にわたる慢性の病気が少しずつ悪化していくことが背景にあります。COPDの死亡原因となる主な理由は、肺炎、虚血性心疾患、肺がんですが、いずれも高齢者では治療が難しい疾患です。そのうち、肺炎は、上気道から下気道、すなわち気道の上流で起こった感染による炎症性病変が下流のより細い気管支、さらに肺胞レベルに達する気管支肺炎が問題です。上流は気管に始まる1本の管ですが下流に行くほど2の二乗で数が増えていくので広い範囲で炎症が肺内に広がることになります。肺胞の総面積は戸建ての一軒家に近い広さです。広がった炎症は、栄養状態が低下した状態では強い抗菌薬(抗生物質)も効果がなく、時には副作用の懸念からそれ以上の追加、変更が困難となることがしばしばみられます。高齢者の肺炎の予防は、上流で感染症状を起こさないこと、それが下流へと波及しないようにすることです。この予防戦略は、並行して栄養状態を改善すること、すこしでも運動能力を高めることに尽きます。

 中高年の小太りは、心血管病変を呼びこむことになるリスクが高くなりますが高齢者では痩せ気味は、感染のリスクを高めます。少しでも栄養を改善するよう食べる内容、方法に工夫をすること、並行して運動能力を少しでも高める努力が必要です。これらのバックアップが十分あって、その上に薬の効果を期待することになります。

 



参考文献:


1.Feng M. et al.,

Association between geriatric nutritional risk index and adverse outcomes in critical ill patients with chronic obstructive pulmonary disease: a cohort study of 2824 older adults.

BMC Pulmonary Medicine, 2024; 24:634.

https://doi.org/10.1186/s12890-024-03454-3


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