No.343 簡単な血液検査でCOPDの診断ができるか?
- 木田 厚瑞 医師
- 15 時間前
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2026年2月4日
欧米では肺結核の治療方針が一段落した1950年代半ばから、呼吸器疾患の次の大きな課題はCOPDの早期診断と適切な治療に移りました。この時期にいわば暫定病名として提案されたCOPDの診断名が認知されてから70年以上になります。現在でも使われていますが、肺気腫、慢性気管支炎を統合した名称です。わが国では、慢性閉塞性肺疾患と呼ばれていますが、患者さんに病気を分かりやすく説明するのに苦労する病名の一つです。
COPDの治療の目標は、日々、苦しめている症状と将来、さらに問題を起こすだろう、という問題を区別して解決策を立てること、さらに急に悪化する増悪がないように気配りを継続することが必要です。説明をさらに難しくしているのは併存症と呼ばれている病気の種類の多さです。
現在、COPDの併存症として報告されている疾患は以下の通りです。
肺がん、心血管病変、睡眠呼吸障害、糖尿病、腎機能障害、骨粗鬆症、胃食道逆流症、鬱病や不安障害。さらに認知症などが挙げられています。
通常、実施されるような検診でCOPDの早期病変が指摘されることは少なく、人間ドックのデータでも指摘される場合も重症化した時のことが多いようです。
高齢になるにつれ慢性の病気の数が増えていきます。老化は病気ではない、という意見がありますが正常な老化過程と明らかな疾患の一つであるCOPDでの線引きは、治療戦略を立てる意味でも容易ではありません。
COPDの診断は、肺機能検査により気道を流れる空気の閉塞所見(通りにくさ)をみるのが基本です。心電図や血液検査などとは異なり、肺機能検査は、ある程度の熟練度を必要とする検査であり、多忙な外来では簡便な検査方法とはなり難いことが診断のハードルをさらに押し上げています。
簡単にCOPDと判断できるような肺機能検査以外の簡単な指標はないか、呼吸器専門医の課題でした。ここで紹介する論文[1]は、一般に行われている簡単な血液検査で推測が可能となるのではないか、ということを報告したものです。理論的な見地からは、これらのデータのみで治療開始にはとても至らないと思われますが、検診で普通に実施されている血液検査でも見極めができそうだ、という点では朗報と思われます。
Q. COPDの問題点は何か?
・COPDは、進行性の気流制限だけでなく全身炎症や併存症と呼ばれている多重疾患を特徴としている。
・世界的にみて、なお高い罹患率と死亡率を示している。
・早期診断が必要であるが多くの場合はすでに進行した状態での発見となっている。
・COPDはかつては喫煙者に特有の疾患とされてきたが、非喫煙者にも頻度が高く両者ともに未診断、未治療であることが多い。
・呼吸器系だけでなく心血管病変の併存が多く死亡原因となることが多い。共通する病態は肺、心血管系における慢性炎症性の病変である。
・この慢性炎症病変を捉えるためのシンプルで信頼性が高く、アクセスしやすいバイオマーカーの探求は何十年も続いてきたがいまだに結論が出ていない。
Q. 好中球対リンパ球比(NLR)がCOPDの早期診断のマーカーになるのではないか?
問題点:
・簡便な血液検査で実施されている好中球対リンパ球比(NLR)は、がん、心血管疾患、重症疾患など多様な病状で注目を集めている。
➡しかし、安定型COPDにおけるその役割は依然として不明瞭である。さらに、これまでの研究はサンプル数、集団の多様性、臨床的に安定した疾患よりも急性悪化に焦点を当ててきた。
・COPDの発症機序の中心は炎症病変の把握である。しかし、COPDの予後モデルに反映される炎症バイオマーカーはない。好中球とリンパ球の比率(NLR)は、日常診療で容易に入手可能であり、炎症バイオマーカーとなるのではないか?
目的:
・NLRと喫煙状況、COPDの臨床的特徴、将来の有害な転帰(病気の経過)との関連を探ることにより日常の診療体制の中で手軽に得られるNLRのデータの活用方法を探る。
方法:
・これまで多年にわたり実施してきたSPIROMICS多施設観察コホート研究において、現在または過去に喫煙した参加者(n=2,624)およびタバコ未使用対照群(n=187)の全血球数から計算されたNLRを解析した。
・観察開始から6週目および1年後のNLRの安定性、特定の血液バイオマーカーとの関連、喫煙がNLRおよび細胞数に与える影響を評価した。
・参加者をNLR四分位数で階層化し、登録時の横断面臨床的特徴、1年後に前向きに観察された悪化、縦断的追跡時の死亡率を比較した。
結果:
・NLRの四分位数が高いほど、COPDの臨床的特徴がより重症であることが示された。NLR値は6週間(クラス内相関係数0.74)および1年(クラス内相関係数0.62)で再現可能であった。
・喫煙がNLRに与える影響は、気流制限の重症度によって異なり、これは喫煙、予測される1秒の強制呼気量、好中球数(リンパ球数は含まれない)との相互作用によって媒介された。
・最も高いNLR四分位数(>3.11)は、1年で悪化リスクの増加(調整オッズ比1.51;95%信頼区間1.18、1.92)および死亡率リスクの増加(調整後ハザード比1.41;95%信頼区間1.20、1.66)と関連していた。
結論:
・経過が安定しているCOPDにおけるNLRの上昇は、悪化や死亡リスクの増加と関連した広く利用可能なバイオマーカーである。たばこ喫煙がNLRに与える影響は、疾患の重症度によって異なる。
COPDと喘息は、症状が似通っており長期にわたる治療が必要となる場合が多いことは共通しています。両者の経過や、経過中に生じてくる合併症(併存症と呼ばれています)は、類似している部分と異なる部分があります。心血管病変は、喫煙習慣を背景に発症するCOPDに特徴的であると言われてきましたが、高齢女性の喘息では心血管病変が多いことが指摘されています。
COPDと喘息は見分けがつかない場合がありますが、血液検査、肺機能検査や、胸部CT撮影などの組み合わせによりできるだけ明確にした視点で長期治療にあたるべきと考えます。ここで紹介した論文は、簡単な血液検査の結果からある程度、推測が可能であることを示したもので迷いながら毎日の診療にあたっている立場では、目から鱗の感があります。
COPDは、肺機能検査にもとづいて診断されるべきであり、血圧測定が簡便に実施されるようになったように簡便な肺機能検査にもとづく早期診断が基本です。しかし、簡単な血液検査により疑われるようになれば患者さんにとっても医療者にとっても朗報です。さらに見えてくるのは本検査の好中球、リンパ球の組成の比率だけでなく、それぞれの細胞に特有な物質が同定されればCOPDの簡便な診断、それこそ検診データからも推測されるようになるのではないか、と夢は広がります。
参考文献:
1. Hoesterey, DT. et al.
Neutrophil-to-lymphocyte ratio as a biomarker in clinically stable chronic obstructive pulmonary disease SPIROMICS Cohort.
Am Thorac Soc 2025; 22 :1881–1890.
2. LeMaster, WB.
Neutrophil-to-lymphocyte ratio in chronic obstructive pulmonary disease a simple marker with complex implications.
Annals ATS 2025; 22: 1827-1828.
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