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No.345 成人喘息に対する新しい治療薬 ― 抗サイトカイン生物学的製剤の効果 ―

  • 21 時間前
  • 読了時間: 8分

2026年2月19日


  喘息の症状やこれに伴う肺機能が悪化するエピソードは、喘息の急性悪化と呼ばれています。これらは喘息の症状として現れることもあれば、ウイルス性上気道感染症、アレルゲン、大気汚染やその他の刺激物への曝露、コントロール治療薬の不遵守(指示されたように治療薬を使っていない)、または未知の刺激などの「引き金」に反応して既知の喘息診断を受けた患者さんに起こることがあります。


 喘息として治療を受けている人が急に症状が悪化する「急性喘息の悪化」は患者さんにとっても医療者側にとっても大変な負担であり、危険な状態です。若いころ、病院で当直をしていると夜中に救急車で搬送されてくる患者さんが2,3人はいたものです。それも深夜帯から夜明けに多く、緊急検査を行い、ステロイド薬の点滴や酸素吸入などの救急治療の指示を出すまでには1時間近くかかります。当直明けはヘトヘト状態で、続く日勤帯の業務を行わなければならない。呼吸器内科医の希望者が少ない理由の一つでした。実際、急性発作による喘息死が多かったのもこの時代でした。


 教科書には次のように書かれています。

「急性喘息の悪化を管理する最善の戦略は、発作が深刻で命に関わる可能性がある前に早期に認識し介入することである」。


 致命的な喘息の状況に関する詳細な調査では、患者と臨床医の双方が病気の重症度を認識し、適切に治療を強化しなかったことがしばしば、あるといわれます。つまり、不幸な喘息死を回避するためには、臨床医と患者の双方が、急性発作のリスクとこれを避けるための治療方針を日常的に決めておかなければならない、ということです。


 現在では、急性発作による喘息死の予見、予防の時期を越えて喘息は、治癒を目指す時代に入ってきています。近年、抗サイトカイン生物学的製剤が使われるようになり喘息は、難治性の喘息発作の予防から喘息そのものを治す時代に大きく変わってきました。


 ここでは急性喘息悪化の管理について簡単に説明し、重症喘息の予防・治療に著しい効果を上げている抗サイトカイン生物学的製剤について紹介します。




Q. 喘息の問題点は?


・2021年には、世界中で推定2億7000万人が喘息と診断された。

➡同年、喘息が原因で亡くなった人は全世界で45万人に上った。


・吸入コルチコステロイドによる抗炎症療法は、長時間作用型ベータ刺激薬と併用されることが多く、この疾患の治療の基盤となっている。

➡しかし、患者の3~10%は、現在利用可能な吸入療法では疾患をコントロールできていない

➡そのような場合の喘息は、特に吸入コルチコステロイドに対する反応が悪い患者において、肺機能の急速な低下と関連している。




Q. 重度の喘息の状態とは?


喘息患者の約3~10%は、現在、利用可能な吸入療法では完全にコントロールすることができない。


・重度の悪化の兆候は以下である。

➡重度または生命を脅かす喘息悪化の特徴を持つ患者(例:安静時でも息切れがあり、完全な会話ができない、心拍数>120/分、呼吸数>30/分、酸素飽和度<90%、ピークフロー値≤予測または自己ベストの50%などの患者)は緊急救急外来へ搬送すべきである。




Q. 喘息の気道炎症とは?

 

・喘息は全体的または部分的に2型(T2)炎症によって引き起こされる可能性がある。T2炎症は通常、粘膜表面への刺激に対する免疫反応によって引き起こされる。




Q. 喘息のリスク評価とは?


・現在の喘息の寛解の定義は、疾患の進行を促す生物学的メカニズムを見落としている。➡リスクのある喘息の枠組みは、症状の負担から生物学的活性へと焦点を適切に移し、不可逆な構造リモデリングが起こる前に重要な治療の適期を特定するための多角的評価が必要である。

➡これらの概念を日常の臨床診療に適用することである。


・リスク概念は、早期生物学的療法の恩恵を受ける可能性が最も高い喘息患者のプロファ イルを臨床医が明確に判断することを促している。


 臨床研究によれば、寛解率は生物学的開始のタイミングと患者の特徴に依存する。

➡しかし、ほとんどの臨床試験では、頻繁な増悪、肺機能検査の1秒量(FEV1)の低下、気管支拡張薬を吸った前後での可逆性を伴う患者が登録されている。しかし、後者は世界中の喘息患者の15%未満にしか見られない。

➡すなわち、現在までに発表された臨床的な効果判定は必ずしも適切であるとは言えない可能性がある。


・通常の生活の中で息切れ症状のある喘息患者は、肺機能が保たれているため、臨床試験から除外されることがよくある。その結果、研究コホートは実際の人口を反映していないことが多く、既発表の喘息ガイドラインはこれらの狭い基準によって制限される可能性がある。

➡ガイドラインの記載が実態と必ずしも合致しないことがある。




Q. 喘息に対する抗体薬治療とは?


T2炎症プロセスを標的とするモノクローナル抗体の導入は、この患者層にとって重要な治療選択肢となる。


・過去10年間で、特定のT2炎症性サイトカインを阻害する5種類の抗サイトカイン生物学的製剤(ACB)が導入された。

➡メポリズマブ、レスリズマブ、ベンラリズマブという3つの生物学的製剤は、IL-5またはIL-5受容体経路を阻害する。

➡デュピルマブはIL-4受容体αへの作用を介してIL‑4およびIL‑13を阻害する。

➡テゼペルマブは胸腺間質性リンパ球形成因子(TLP)サイトカイン産生カスケードの活性化を阻害する。




Q. 抗体薬治療の効果とは?


・抗体薬製剤は、喘息増悪の既往歴があり、T2炎症の兆候がある患者において、増悪を軽減し、肺機能と患者報告による喘息QOL(生活の質)を改善する。


・また、喘息コントロールのためにこれらの治療に依存している患者において、経口コルチコステロイドの減量または中止を可能にする。


抗サイトカイン生物学的製剤(ACB)の効果はT2炎症の程度によって異なる。




Q. 抗体薬治療に必要な評価とは?


・最も簡単に評価できるのは血中好酸球数呼気中一酸化窒素である。

➡これらのバイオマーカーと重症喘息患者の表現型特性に基づいて ACBを使用すると、改善の可能性を高める個別化医療アプローチが可能となる。




Q. 生物学的療法の治療を選択する基準の問題点は?


・新たな証拠によれば、血中好酸球数(BEC)呼気中一酸化窒素分画(FeNO)などの2型炎症のバイオマーカーの上昇は、頻繁な増悪のない患者でも肺機能の低下が加速することを予測する。


・早期の生物学的介入に適したリスクのある喘息表現型には、軽度から中等度の喘息、持続性 2型炎症  (BEC≥150個/µLまたはFeNO>25 ppb)、頻繁な増悪や肺機能障害がなくても日常的な呼吸器症状がある患者が含まれるべきであるという意見がある。

➡最適化された標準治療にもかかわらず気道炎症が持続する場合に生物学的療法を考慮する、加速された生物学主導の治療アプローチを提唱する意見がある。

➡このアプローチでは、治療を導くために臨床評価と統合された体系的なバイオマーカーモニタリングが必要である。

➡早期生物学的製剤の使用は優れた安全性プロファイルによって裏付けられているが、医療費が高額化する医療システムのコストやこれらの介入に伴う経済的負担への影響については、さらなる評価が必要である。

リスクの高い喘息をどのように選択するかは、生物学的製剤の選択と実際の診療、すなわち臨床管理を橋渡しする機会の方法が大切である。




Q. 生物学的療法の治療の選択の意味は?

 

・喘息の生物学的活性を重視した疾患評価を軽視することはもはや許容されず、生物学的療法の遅延は時代遅れの治療となる可能性がある。

 ➡バイオマーカーに基づく積極的な戦略は、喘息における真の疾患改善を達成するための論理的な次のステップ である。


 


 冒頭に書いたように喘息の治療薬として吸入薬が使用され始めた時期は、多数の喘息死がありました。多くは、夜間の重症発作であり、救急治療が間に合わない状態での死亡でした。コントロールする時代から完治させる時代に入ってきたことは大変な医療の進歩といえます。

 難しいのは一人ひとりの喘息が、年齢、性、発症年齢、経過、治療内容、肺機能、家族歴、合併症などで大きく異なり、さらにそれまで行われてきた喘息治療の内容にも大きく影響されます。

 見逃してならないのは隠れた発症あるいは増悪原因です。例えば、緑内障の治療薬の一つであるβ遮断薬の点眼薬は、副作用の一つとして喘息症状を起こすことが知られています。眼科医が気付かず、また呼吸器内科医が気づかなければ因果関係は不明のまま、患者さんは両方の治療に悩むことになります。私は、昔、NHKラジオの生放送で視聴者の疑問に答えるという番組を10年間以上、担当していたことがあります。その時の質問者の方の喘息がこれに相当するものでした。翌日、病院には午前中だけで700件の受診の問い合わせの電話があったことがあり、その月には、100人以上のβ遮断薬などによる喘息の患者さんを診たことがありました。あまりの多さに驚いた経験があります。

 病気に関する情報を得ることは問診と呼ばれています。問診は、時間がかかるやっかいな診療方法ですが、まず聴くこと、丁寧に診ることの大切さを強く感じています。




参考文献:


1.     Israel, E. et al.

Anti-cytokine biologics for asthma in adults. Lancet 2025; 406: 2282–94


※無断転載禁止

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