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No.340 雷雨、黄砂、地球温暖化、気象変動、山火事と共に悪化する呼吸器症状

  • 執筆者の写真: 木田 厚瑞 医師
    木田 厚瑞 医師
  • 9 時間前
  • 読了時間: 10分

2026年1月20日


 多くの呼吸器疾患の悪化が、気象と密接に関係することは知られています。黄砂被害や、花粉症、あるいは梅雨のころに喘息症状が頻回となり、COPDが一時的に悪化する「増悪」が多くなることは、しばしば、経験します。さらに温暖化が警戒される中での猛暑の頃や、逆に厳寒のころの増悪も多くみられ、その都度、呼吸器内科医は多忙になります。同僚の医師たちからは呼吸器内科医は季節労働者だね、とからかわれたことがありました。


 喘息の転地療法が勧められた頃もありましたが他方で、高地、高山でかえって喘息症状の悪化を報告した論文があります。2,000m級の高地であってもPM2.5などによる大気汚染が見られることがあり、警告されています。気候や、大気の安定性は、呼吸器疾患だけでなく脳神経系を含む恐らく全身が、安定した健康状態の維持に関連しています。


 皮肉なことに喘息の治療薬そのものが大気汚染の原因となると指摘された時期がありました。喘息やCOPDの治療として広く一般的に処方されているのが吸入薬です。用いられる計測型吸入器(MDI)には主薬とともにこれを運ぶ推進剤が必要です。かつてはクロロフルオロカーボン(CFC)が使用されていましたが、オゾン層破壊のリスクからハイドロフルオロアルカン(HFA)に変更されました。しかし、HFAは強力な温室効果ガスであり、MDIの使用は2014年から2024年の間に米国で推定2,500万メトリックトンの炭素排出をもたらした、と言われています。この対策として用いられているのがドライパウダーやソフトミスト吸入器の代替品ヘの変更であり、MDIの使用と炭素排出量の削減に効果的な戦略となっています。

 

 雷雨のあと、急に喘息の悪化が増え、救急外来がパンク寸前となる現象は、雷雨喘息(Thunder storm asthma)と呼ばれ、オーストラリアに特有とされていました。2016年11月にオーストラリアのメルボルンでの例は、記録に残るものとして、同市の救急システムと一部の地元の病院を圧倒し、救急外来を訪れる喘息の症例数は、普段の平均の10倍に増加し、10人が死亡したと報告されています。広大な平原に起こる原因不明の現象とされ

ましたが、以降、オーストラリアのウォガウォガ、イングランドのロンドン、イタリアのナポリ、米国のアトランタなどからも同様の報告があります。わが国でも冬季になり表日本で山火事被害が多くなっています。


 ここでは、初めに気候変動に関連する健康被害の概要を述べ、雷雨喘息、気候変動、山火事被害による呼吸器障害について概要を述べます。

黄砂は、乾燥化した地域から発生した微小粒子状物質が風に乗って大気中に飛散し、周辺地域に影響を及ぼす現象です。特に、中国の砂漠地帯から発生した黄砂は日本まで飛来し、西日本や関東地区までの広い範囲で健康被害を起こします。




Q. 気候変動に関連する健康被害の概要は?


多くの健康関連の危険が気候変動に起因する。以下はその概要である。


・暑さと干ばつ被害が増強している。

・嵐の強度と頻度の増加およびそれに伴う洪水。

・山火事の頻度増加。

・アレルゲンの増加。

・蚊など病気の媒介者への曝露増加。




Q. 雷雨喘息が発症する機序は?


・現象は、「雷喘息」あるいは、「雷雨喘息」と呼ばれてきた。


・嵐の開始に伴い湿った環境が花粉を細かく砕き、散布し、アレルギー反応性を高め、喘息の悪化例を増加させる。

➡嵐の発生時に屋外にいることはアレルゲン曝露を増加させるため、雷雨喘息のリスク要因となる。

➡雷喘息の最悪の発生例は2016年のメルボルンで発生した壊滅的な流行がある。数千件の緊急受診と複数の喘息死亡を引き起こし、これから雷雨が一般的な環境アレルゲンを突然の大規模な喘息悪化の引き金へと変貌させることが判明した。また、これにより喘息関連の入院数が過去3年間と比べて99.2%増加し、医療施設が過負荷状態となった。


・洪水は室内の湿気を悪化させ、特に沿岸地域で室内のアスペルギルスおよびペニシリウム種の増加と関連する。洪水による室内カビ曝露の増加は、喘息の発症、悪化、子どもの喘息コントロールの低下と関連する。




Q. 気温上昇と喘息の関係は?


・気温上昇は呼吸器の健康にも悪影響を及ぼす。

➡1999年から2008年までのアメリカ合衆国213郡のメディケア患者データの分析によると、日中の気温が5.6℃上昇すると、呼吸器疾患による当日の緊急入院数が4.3%増加することが示された。

➡気温上昇が喘息発作の増加にも影響する。例えば、イギリスの大規模な全国データセットの分析では、夏の気温が1℃上昇するごとに喘息入院リスクが全体で1.11%増加することが示された。




Q.  中国における雷⾬喘息の報告は?


・雷雨喘息は気象学、気象生物学、呼吸器の健康が最も顕著に交差する現象である。


・数十年にわたり、中国はそのような出来事をほとんど経験しなかった。しかし、過去3年間で地域ごとによく記録された流行は変化しており、雷雨喘息の発生頻度が増加している。


・2018年9月、陝西省珠林市で局所的な雷雨喘息の発生があり、56人の子どもが入院。そのうち半数以上が初めての発作であった➡アルテミシア花粉の感作が優勢であった。


・2023年9月1日、内モンゴルのホフホトで極端な雷雨が発生し、155件の入院が起こり、そのうち55%は喘息の診断がなかった人であり、92%はアルテミシア花粉に感作されていた。


・2024年4月、重慶の病院を拠点とした症例対照研究で雷雨喘息の症例が57例確認され、アレルギー性鼻炎が独立したリスク因子であると特定された(オッズ比=13.129、95%信頼区間2.782–61,960)。


・最近では、2025年に中国北部で再発した事例が、こうした発生がもはや散発的ではないことを示唆している。特に、中国での単一の出来事が数千件の緊急病院受診を数時間以内に発生させ、サービスが圧倒されるほどに増加し、公表された症例数が雷雨関連の緊急事態の実際の負担を過小評価していることを示した。

➡これらの発生は、中国北部の秋のアルテミシア花粉の季節一致している。北部ではアルテミシアやその他の雑草花粉がエアロアレルゲンスペクトルを支配しているのに対し、中国南部はダニやカビなどの多年生アレルゲンが特徴である。

南部は年間雷雨が多い(例:年間>70日、北部の多くでは<30日)にもかかわらず、ほぼすべての雷雨喘息は北部で花粉のピーク時に報告されており、アレルゲン負荷と感作の重要性が浮き彫りになっている。

➡花粉のモニタリングは断片的で、連続したネットワークはほとんどなく、気象予報との統合もほとんどない。




Q. 雷雨喘息に関わる医療問題とは何か?


・雷雨喘息では、重症喘息発作が急増する ➡対応する医療体制能力の不足、吸入性気管支拡張剤やコルチコステロイドの在庫不足、病院前医療サービスとプライマリケアサービスの連携不足に直面する。

➡これらの弱点は、軽度の雷雨による喘息の急増でも起こりうることである。

➡中国では将来、起こりうる同じような医療災害に備え三つの優先事項を決めた。

1)北部草原、華北平原、四川盆地などの高リスク地域に、調和されたネットワークとオープンデータアクセスを用いて花粉と胞子のモニタリングネットワークを構築する。


2)次に、気象予報と医療準備を統合し、熱波や大気汚染警報に類似した段階的な早期警報システムを構築する


3)高リスク集団に対しては、喘息やアレルギー性鼻炎患者に対して吸入性コルチコステロイド、鼻内コルチコステロイド、抗ヒスタミン薬の季節的な使用と、嵐時の回避に関する教育を組み合わせて的を標的とした予防策を実施する。これらの取り組みには、中国疾病予防管理センター、中国気象局、地方の公衆衛生当局、三次医療および一次医療レベルの臨床サービスなど、複数の関係者の協調的に関与する。


・中国における雷雨喘息は、過去3年間で稀な現象から再発現象への対策へと変化した。


・中国では、膨大な感受性人口、生態系の変化、激化する極端な気象により、同国は呼吸器と公衆衛生の二重の脅威に直面している。

➡監視、準備、予防への早期投資は、オーストラリアで見られる壊滅的な結果を回避できる可能性がある。メルボルンからの教訓は明確である。大規模な災害が起こるまで行動を起こすのを待つことは、人的にも医療システムにもあまりにも大きなコストを伴う。

➡雷雨喘息を予防可能な季節的危険として認識することが、中国の呼吸器医学と公衆衛生の次のステップであるべきとした。




Q. 気候変動に関連する地球温暖化とは?


・地球温暖化により平均気温と極端気温の両方が上昇した ➡平均気温はヨーロッパで最も速く上昇しており、世界平均の2倍に達している。


・熱波の頻度、持続時間、強度は増加している。

2018年には、1986年から2005年と比べて、世界的に2億2,000万件の熱波曝露(1回の曝露は65歳以上の1人が1回の熱波に曝露されたと定義)が観測された。

米国の熱波発生頻度は、1960年代の年間平均2回から2010年代と2020年代には年間6回に着実に増加している。今後も増加が予想されており、30年から50年以内に10億から30億人の人間が極熱の中で暮らす可能性があると推定されている。




Q. 気候変動の原因は何か?


・化石燃料(例:石油、石炭、ガス)の燃焼増加や、自然および人為的な化学物質(例:農薬、爆発物、溶剤、誘電体)、金属、その他の汚染物質の環境への放出は、地球の健康とすべての生物に悪影響を及ぼしている。


・地球温暖化の主な要因は、化石燃料の燃焼増加と温室効果ガス(GHG)の排出が原因である。


・温室効果ガス排出に寄与するその他の活動には、畜産、石油・ガスの生産、肥料使用、バイオマス燃焼、フッ素化ガスの合成などがある。


・温室効果ガスの中で、二酸化炭素が最も多い(76%)。その他にはメタン(16%)、亜酸化窒素(6%)、フッ素化ガス(2%)が含まれる。


・温室効果ガスが地球温暖化に与える影響は、その存在量、大気中に存在する期間、そして地球温暖化の可能性に依存する。例えば、メタンは二酸化炭素の28倍の地球温暖化潜在力を持っている。しかし、大気中の寿命ははるかに短い。


・温室効果ガスの影響は、森林伐採による自然の炭素吸収源の喪失によってさらに悪化している。




Q. 山火事による呼吸器被害は?


・山火事により生ずる粒子状物質への曝露は、肺機能障害や入院、救急外来受診、通常受診回数、喘息およびCOPDの増悪原因、肺炎など呼吸器感染症の呼吸器イベントのリスクを増加させる。特に喘息症状の悪化要因となる。


・山火事の粒子状物質への曝露は、都市部の粒子状物質への曝露よりも喘息関連のリスクにより強い影響を与える可能性が示唆されており、これは山火事粒子状物質に含まれる酸化作用や炎症促進成分が豊富にあるためと考えられている。


・山火事から発生する酸化ガス(オゾンや二酸化窒素)が、山火事の微粒子状物質による健康リスクを増幅させる可能性がある。




 温暖化が進む中で、気象医療・気象医学は災害医療と並ぶ重要なテーマとなってきています。急激な気候変動は、呼吸器疾患だけではなく脳血管障害、虚血性心疾患の増加とも関連します。複数の臓器にわたる疾患があり、しかも、ほぼ全てが慢性疾患となっているので相互の関係は重要です。例えば、慢性呼吸器疾患が重症化すると、多くの患者さんで多血症がみられることが多くなります。慢性的な低酸素血症によるものですが中には体質的に多血症となっている方もいます。多血症は、脳梗塞、心筋梗塞のように細い血管が詰まる原因となります。


 医学、医療が発展したというものの人間は改めて弱い存在で、全ての人が環境に依存して生活していることを実感します。

 雷鳴喘息は、幸い、わが国ではオーストラリア、中国とは異なっています。喘息あるいは喘息類似の症状をもつ人は都内でも少なくありません。不安定な気象の中でカゼ症状が治らない、という理由で受診する患者さんが増えてきています。恐らくウィルス感染によるものでしょうが、不安定な気象との関連が気になります。

 表日本で多発している山火事被害は、大気汚染の原因であり、喘息被害の増加を強く懸念させます。




参考文献:


1. Overview of health effects of climate change.

UptoDate 2025,12.05


2.Li X. et al.,

Thunderstorm asthma in China: An emerging clinical and public health concern. Lancet Resp, November 28, 2025.


3. Xu R.,

Wildfires, global climate change, and human health. New Eng J Med 2020; 383: 2173-2181.


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