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No.367 高齢者の誤嚥性肺炎

  • 2 時間前
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2026年8月18日


 痰が多くなってきた、あるいは痰の切れが悪くなってきたという患者さんの中にものを思うように飲み込めない、むせることが多くなったという訴えの方がいます。多くは高齢の患者さんです。抗生物質をはじめ、医療技術が進んできたはずなのにどうして高齢者の肺炎は少なくならないのですか、と聞かれることがあります。また、高齢者の肺炎の多くは誤嚥性肺炎であると、いう報告も多くみられます。誤嚥性肺炎とはなにか?

 ここでは、厚生労働省最新情報によるわが国誤嚥性肺炎の実態を述べ、老年医学の研究の歴史が長い英国から発表された論文[1]を参考にその治療、予防に触れます。

 



Q. わが国の誤嚥性肺炎の実態は?


・厚生労働省最新情報における誤嚥性肺炎の実態調査。

 ➡2025年の人口動態統計月報年計(概数)によると、誤嚥性肺炎は死因第6位で、死亡数は前年より減少したが、死亡率は前年と同水準で推移している。


2025年度の統計概要

 ・死亡数:1,589,489人(前年より15,889人減、5年ぶり減少)。

 

 ・死因順位:脳血管疾患(4位)誤嚥性肺炎(6位)

 

 ・死亡率(人口千対):13.3(前年と同じ)。

 

 ・誤嚥性肺炎は死亡数・死亡率ともに前年を上回る傾向が続いていたが、2025年は死亡数が減少した 。


 ・2003年に100万人を超えて以降、増加傾向が続いていたが、その流れが一時途切れた 。




Q. 誤嚥性肺炎の背景と傾向は?


・肺炎全体の約7割が高齢者、そのうち7割以上が誤嚥性肺炎である。


・誤嚥性肺炎は高齢者を中心に増加しており、特に80歳以上で増加している。


・原因の多くは摂食嚥下障害で、脳卒中の後遺症が約6割を占める。




Q. 今後の見通しは?


・高齢化の進行に伴い、2030年には誤嚥性肺炎による死亡者数がさらに増加するという予測がある。


・予防には口腔ケア、嚥下機能訓練、食事工夫など医療者では、多職種間の連携が重要である。




Q. 英国から発表された論文の要旨は?

 

・目的:嚥下障害の管理を改善するために、特定の神経学的知見と老年医学の原則を統合する神経老年医学的視点を提唱する。


1)嚥下障害とは何か?

・ものを飲み込みにくいという状態は、嚥下障害、dysphagiaと呼ばれる。

 ➡dysphagiaは古代ギリシャ語のdys (乱れた) とphagein (食べる) に由来し、食物、飲み物、薬、または唾液が口腔から胃へ輸送されるプロセスが障害される状態を指す。

 ➡この状態は脳梗塞など神経疾患をもつ高齢者に特に多く見られる。


・主に食べ物を口に入れ、飲み込む動作である嚥下の口腔期とこれに続く咽頭期に影響を及ぼす。これらは総称して口腔咽頭嚥下障害と呼ばれる。


・口腔咽頭嚥下障害は、加齢に伴う神経血管障害、神経変性障害、神経筋障害、および神経免疫障害によく合併する。



2)高齢者の口腔咽頭嚥下障害とは?

・高齢で、神経老年患者に多く見られる口腔咽頭嚥下障害は、栄養失調、肺炎、死亡のリスクを高める。


口腔咽頭嚥下障害は、多様な表現型を示す多病因症候群である。

 ➡疾患ごとに特徴的な神経学的嚥下障害では症状による的確な診断が大切であり、従って口腔咽頭嚥下障害は神経学的治療の潜在的な標的として認識して治療に臨むことが必要である。

 


3)悪化に関係する他の要因とは?

・咽頭感覚の低下、サルコペニア、神経可塑性の低下を含む老人性嚥下障害などの加齢関連因子は、口腔咽頭嚥下障害の病態生理にさらに悪化に寄与する。



4)治療の方針は?

・疾患横断的な治療戦略には、口腔衛生、栄養サポート、食事療法、嚥下機能を改善するための個別介入、そして現在、研究中の新たな神経刺激技術が含まれる。




Q. 文献にみる口腔咽頭嚥下障害の実態は?


・脳卒中を起こした人の42~75%が急性期に口腔咽頭嚥下障害を示し、パーキンソン病患者の35~82%が時間の経過とともに発症する。


・口腔咽頭嚥下障害は、80歳以上の急性期入院患者の大多数および介護施設の入居者に影響を及ぼす。


・他に健康上の問題のない高齢者(つまり70歳以上の健常者)の間でも、約50%が軽度の嚥下障害を示す。

 ➡軽度の病的状態が加わることでも代償予備能が低下し、誤嚥が悪化することがある。




Q. 口腔咽頭嚥下障害が起こす問題点は?

 

罹患率が高いことに加えて、栄養失調、脱水、誤嚥性肺炎、窒息、および服薬困難のリスクを高める。

 ➡これらの合併症は、早期死亡、生活の質の低下、医療費の増加につながる。




Q. 嚥下障害の診断は?

 

・嚥下障害の診断は、急性および慢性での口腔咽頭嚥下障害において、通常、咳、喉のクリアリング、嚥下後の声質の変化などの間接的な指標を評価することによって行われる。


・種類の異なる食物の粘稠度を評価する容量粘稠度嚥下テストは、誤嚥の特定だけでなく嚥下効率の評価にも有効であることが検証されており、個人の経口摂取能力を把握できる。


・嚥下は外部から直接観察できないため、口腔咽頭嚥下障害の診断は困難である。

 ➡嚥下障害は気づかれない状態で発症している可能性がある。

 ➡とくに誤嚥があるのに咳などの防御反射がない場合には本人および臨床医に気づかれない可能性がある。

 ➡したがって、嚥下を視覚化する機器を用いた手順が最も信頼性の高い診断ツールと考えられる。特に、ビデオ透視嚥下検査軟性内視鏡嚥下評価(FEES)は、いずれも嚥下障害の病態を正確に検出し、その重症度を段階的に評価し、嚥下障害の表現型を詳細に特徴づけ、治療介入の指針となる。

 ➡実施できる医療機関が限られている。




Q. 嚥下障害の診断上の問題点は?


・嚥下障害は均一な状態ではなく、嚥下障害のパターンは基礎となる生理学的欠陥に応じて異なる。

 ➡従来の分類は、誤嚥、咽頭残渣、経口摂取能力などの重症度指標に主に焦点を当てていたがこれは不十分である。


・疾患特有の神経学的側面効果的かつ安全な嚥下は、咽頭収縮、鼻咽頭閉鎖、気道閉鎖、喉頭挙上、上部食道括約筋の開口などの動きの正確な協調運動によっている。




Q. 高齢者で悪化する嚥下障害とは?


・正常な加齢に伴う口腔咽頭嚥下の障害は、口腔咽頭嚥下障害のメカニズムである。

 ➡85歳以上の被験者を対象とした研究では、嚥下の測定されたすべての側面において加齢に伴う変化または障害が確認された。

 ➡これらの変化または障害は、一次性加齢性嚥下障害と呼ばれ、加齢の自然な一部と考えられている。

 ➡この低下した代償予備能が疾患関連の障害が加わり悪化すると、口腔咽頭嚥下障害が発生する。

 ➡これは二次性加齢性嚥下障害と呼ばれる。


・加齢性嚥下障害と嚥下困難の間には連続性があると考えられる。

 ➡この一時的な見解によれば、ある閾値を超えると、状況要因に応じて、加齢に伴う嚥下機能の変化が病理学的意義を持ち、健康に悪影響を及ぼす可能性がある。

 ➡加齢性嚥下障害の役割を明確にし、生理的老化と疾患を区別する閾値を定義するためには、健常者の年齢調整済み嚥下データや関連する転帰を調査する研究など、さらなる研究が不可欠である。




Q. 高齢者の誤嚥予防の問題点?


とろみをつけた液体は誤嚥を減らすことができるが、肺炎予防や死亡率への影響に関する科学的データは依然として不足している。


食感の調整は、あらゆる集団における嚥下障害の深刻かつ致命的な合併症である窒息リスクの軽減にも役立つ可能性がある。

 ➡食感調整食は、脱水、尿路感染症、生活の質の低下、食欲不振などの悪影響をもたらす可能性がある。

 ➡これらの要因は、栄養状態の低下につながる可能性がある。

 ➡したがって、長期的な食感調整食を推奨する場合は、慎重に行い、その利点を確認する個別の機器評価に基づいてのみ行う必要がある。

 ➡総摂取エネルギータンパク質の摂取量、および水分摂取状態のモニタリングは、栄養ニーズが満たされていることを確認するために不可欠である。




Q. 口腔咽頭嚥下障害の診療課題は?


・口腔咽頭嚥下障害は、医学、言語聴覚療法、看護などさまざまな専門分野に

またがり、神経学、老年医学、耳鼻咽喉科、消化器科などの複数の専門分野に関わって

いる。

 ➡しかし、臨床の現実では、口腔咽頭嚥下障害は単一の専門分野で管理されることが多く、時には完全に見過ごされることがある。

 ➡このレビューでは、口腔咽頭嚥下障害を独立した神経老年症候群として認識することを提唱し、その神経学的基盤と老医学的側面を強調し、診断を改善するための統合的な神経老年医学的視点を提案する。


・その他の潜在的な要因としては、嗅覚や味覚の低下、咽喉頭、食道周囲の靭帯の弾力性の低下、歯の状態の悪さ、頸椎の異常などが挙げられる。




 老年病学は、gerontology と呼ばれています。歴史的に老年病学を進化させてきた国は英国です。医師だけでなく社会学方面の研究者の層は厚く、彼らの目を通して発信される情報は、科学にもとづく老年病学を支えてきたと思われます。

 誤嚥は、gerontologyに含まれる多くの課題の中では、最重要に位置するテーマです。


 誤嚥を起こしやすい高齢者を早めに見つけ出し、予防対策を講じることの大切さを、この論文は教えています。誤嚥➡誤嚥性肺炎の繰り返し➡不適切な栄養指導➡低栄養➡さらに感染にかかり易くなる、の悪循環をどのように断ち切るべきか、の解決策は、現時点では、論文の最後に提言している誤嚥予防チームによる治療介入がもっとも理想的です。

 しかし、現実の問題点として、地方における高齢者人口比の拡大、必要な医療者数の減少、専門性の高い医療を立ち上げることの困難さ、結果として生ずる医療格差の広がりをどのように改善していくか。私は、ここにこそ、AI利用の医療応用の例がありうると考えています。自宅のTVの前で過ごすことの多い高齢者に予防医療のノウハウを分かり易く配信する番組を期待します。AI時代黎明期のいま、高齢者医療の分かり易い情報提供と実践面を結びつける試みが広がりを持つことを期待しています。「誤嚥予防と治療の実践」は、中でも多くの医療者と高齢患者さん、家族の注目を集めることでしょう。

 



参考文献:


1. Labeit, B., Sriramya Lapa, S., Lueg, G. et al.

 Oropharyngeal dysphagia: a narrative review towards an integrated neurogeriatric perspective

Lancet Healthy Longev 2025; 6: 100794.


※無断転載禁止

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