No.370 早期肺がんの治療判断の難しさ
2026年9月21日
秋の検診シーズンになると、胸部のX線検査で異常が指摘された、という理由で受診する方が多くなります。偶然、発見された肺がんは、多くは初期の段階であり、手術治療にまでもっていける可能性があります。わが国での検診体制は、欧米の医療専門家グループの中でも高い評価を得ています。
臨床医学におけるトップジャーナルの一つ、New England Journal of Medicine誌に肺がんの検診に関する論文が掲載されました[1]。
わが国を含め、欧米諸国では、それぞれの医療事情が異なることを背景にして、肺がんの診療ガイドラインが決められています[2]。本論文で、取り上げている内容は、呼吸器医だけでなく多種職の医療者に向けた解説です。
いま、早期発見を目的とした肺がんの検診はどのような評価となっているのか、具体例を挙げ、解説しています。記載の中で、もっと注目されるのは、医師が患者さんにどのように説明し、対応するか、について述べているところです。説明を受ける側の患者さんにとっても参考になる点が多い、と思われます。
Q. 肺がんの治療法をどうするか、その具体例。
・67歳、男性、呼吸困難と咳が続く理由を調べるために胸部CT撮影 (CT) を受けた。彼は28パックイヤー(箱数x年数)の喫煙歴があり、45歳で禁煙し、他のがんの既往歴もなく、真菌感染が流行する特殊な地域に住んでいない。それ以外は健康で、臨床的に顕著な心臓や呼吸器疾患はなく、2マイル(1マイル=約1.6km)を休まず歩くことができ、定期的にゴルフをしていた。
右肺下葉の頂端節の周辺部で最大軸径19mmの淡い結節状の陰影が発見された (図1A) 。臨床検討の後、CT撮影が計画され、6か月後、12か月後にそれぞれ再検査を実施した。
6か月後のCTスキャンでは変化は見られなかったが、12か月後の検査では結節の軸径が21mmに増大し、すりガラス状の病変内に固体成分がみられるようになり、部分的に固体結節となってきたことが判明した (図 1B) 。

図説明:
図1A:発見時の胸部CT像。腫瘤の最大径は19mm。
図1B:12か月後の胸部CT像。最大径は21mm。発見時には淡い陰影であったが追跡中に明確な陰影となった。
腫瘍陰影に連続する線状陰影も特徴の一つである。
本論文の目的:
この患者の肺結節をどのように管理するか?
Q. 肺結節陰影とは何か?
・結節は胸部CT像など形態的な特徴に基づいて分類される。
・2年間安定している固体型(塊状の陰影)と亜固体型(一部が塊状の陰影)に分類される。➡管理方針は結節の種類によって異なる。経過で大きく変化のない固体状の結節は良性とみなされる。
・亜固体結節が良性とみなされるまでに、より長い安定期間 (4年間以上) の観察が必要である。➡経過観察には長い期間が必要である。
・肺結節が悪性である可能性を推定するための予測モデルが開発されている。
・低リスク結節には定期的なコンピュータ断層撮影 (CT) による監視が適切である。高リスク結節ではさらにPET、生検を実施する。一部の例では生検による確認なしで手術を優先する場合がある。
・肺結節の生検サンプルを取得する方法には、外胸から針生検または気管支鏡検査がある。これらの手技では、診断精度は同等であるが、気管支鏡検査の方が合併症の発生率は低い。
・肺結節を持つ患者の肺がんの有病率は、結節が発見される「環境」によって異なる➡利用できる医療機関により決まる。
➡スクリーニング検査で結節が検出された患者では、肺がんの有病率は3%~4%の間である➡これは米国の2つの大規模なコホート研究で偶発的に検出された結節を持つ患者の有病率と類似している。
➡医療システム全体で検出された軸径8mmを超える結節の患者では、有病率は10%であった➡8㎜を越える結節では肺がんの可能性が高まる。
➡肺結節陰影が指摘された場合は、呼吸器内科医を受診する➡うち25%が肺がん疑いとして呼吸器外科へ紹介されたが 70%が肺がんであった。
Q. 悪性か、良性かの鑑別は?
・肺結節の検査と管理における課題は、悪性疾患と良性疾患の区別にある。
➡肺がんを示す結節の患者の転帰は腫瘍の成長とともに悪化し、迅速な診断と治療の必要がある➡早期診断、早期治療が原則である。
一方、良性結節の検査は侵襲的処置による合併症や心理的苦痛などの害をもたらす可能性がある➡検査そのものによるリスクが避けられない。
・固形結節の診断評価と評価CTで検出された肺結節については、可能であれば過去の画像検との比較が、結節のサイズの安定性 (または大きくなった場合の成長速度) を評価する上と、悪性リスクを判断する上で重要である。
Q. 安定した陰影とは?
・2 年間安定していれば良性と判断され、追加の追跡は不要である。
・胸部CT解析で安定と確認された患者は、少なくとも1年間の追跡観察が推奨される。
・良性結節と診断する場合
➡形態的特徴として、特定の石灰化パターン (例:中心性または層状石灰化)がある。➡肺内リンパ節の典型的な特徴 (例:均質なレンズ状または三角形構造、胸膜の隣接する裂孔や位置への付着) 、直径5mm未満または体積が100mm3未満であること。
➡しかし、直近のCT画像検査以降に新たな結節が出現した場合 (例:スクリーニングラウンドの合間) 、結節を安全に無視できる閾値より低い体積 (直径約4mmまたは 30mm)。
➡安定性、形態的特徴、または大きさを理由に肺がんの可能性が否定できない固形結節については、その結節が悪性であるリスクの評価が管理の中心となる。
Q. 悪性リスクの判断基準とは?
・効果的な早期発見を勧めるため、これまで発表された6つの研究を比較し、考察している。
➡中ではBrock University Modelが肺がん診断の精緻性がもっとも高い➡その場合に胸部CTで認められた結節陰影の経過観察で重要な8項目は以下の通り。
➡サイズ、肺気腫があるか、肺がんの家族歴の有無、結節の形、性別(男性)、陰影に凹凸があるか、肺の上肺野にあるか、結節の数➡これらに相当する項目があれば肺がんの可能性が高いので厳重、観察とする。
Q. 患者とのコミュニケーションのあり方は?
・肺結節を診断する評価中に苦痛が40~50%の患者で発生する。
➡ただし、担当医と質の高いコミュニケーションを取っている患者では、その割合は低い。
患者は結節が悪性であるリスクを過大評価しがちである(悪い方を考えやすい)。
➡医師ががんのリスクについて明確に説明し、話し合わなければ混乱や苦痛を感じることが多い、と報告されている。
➡一部の臨床シナリオでは、結節を評価するためのガイドラインに沿った複数の戦略が利用可能であり、患者に適した戦略を選ぶ際には共同の意思決定が不可欠である。
Q. 患者による判断が難しい場合とは?
・他の診断方法が可能な場合、死亡リスクが競合する場合、または部分的に固形の小さな結節が成長や進行が遅い場合などがある。
➡90歳以上など超高齢の患者では、手術ができないことがある。また、結節が悪性でも治療されずに放置された場合、結節のさらなる検査は適切でない場合もある➡あるスクリーニング研究の報告では、検診で検出された悪性結節の48%が以後、4年間の経過で臨床的に関連性がなかったと推定された➡すなわち、早期診断=早期治療とならない場合がある。
➡この長いリードタイムは、偶発的に検出された小さな結節に当てはまる。
➡診断が確定するまでの時期は「不確実性の領域」と呼ばれているが、このCT監視中に、初期段階から転移が進み進行期へ移行した、という報告がある。
・しかし、スクリーニングで結節が検出されたコホートおよび偶発的に結節が検出されたコホートでは、がんの有病率は約34%である。
➡小結節の段階で検査を先に進める場合、良性疾患を持つ患者が侵襲的検査を受ける割合を大幅に増加させる可能性があり、それに伴う害や費用も高まる可能性がある。
➡結節が悪性である前検査リスクが非常に高い場合、生検が陰性であっても残存するがんリスクがあるため、手術が依然として必要となることがある。例えば、検査前リスクが95% の結節でも、報告された検査の性能や特性に基づき、非特異的または診断性のないロボット支援気管支生検後も検査後リスクは80%となる。
➡経過観察、あるいは積極的治療の両者で、内容が異なるリスクが発生する可能性がある。
➡ 肺結節の評価と管理に血液中の腫瘍マーカー(バイオマーカー)を活用することへの関心が高まっている➡バイオマーカーの臨床的有用性を証明した研究はほとんどない。
Q. AI人工知能を用いた早期肺がんの発見とは?
・CTで検出された良性と悪性肺結節に対し、AIを利用した診断技術は、今後数年で大きな注目を集める見込み分野である。
➡AIシステムにより画像評価、症状、体重など臨床変数、そして最近では分子バイオマーカーを統合し、高い識別性能でがんリスクの予測を生成できる可能性がある。
➡これらのツールにより診断精度を高め、偶発的に検出された結節を管理するワークフロー内で効果的な意思決定支援システムとして機能する可能性がある。
➡結節管理にAIを使うには 、これまで報告されてきた回顧的研究の多様さ、外部検証の限界、潜在的なバイアス、多くのディープラーニングモデルのブラックボックス的な性質が臨床解釈可能性や信頼性を複雑にしている。
➡AIの最適な役割は、代替ではなく、その進歩は将来の検証、透明性の向上、 AIシステムのガイドラインの整備、 現実臨床経路への統合に依存する➡今後の課題である。
Q. ガイドラインにおける問題点は?
・肺結節の管理にはいくつかのガイドラインがある。アメリカ放射線学会の肺-RADS( 肺 CT スクリーニング、データシステム ) ガイドラインは 、低線量CT所見の報告、フォローアップのスケジュール、管理決定に関する標準化された推奨事項を提供している。
欧州胸部画像学会もスクリーニングプログラムで使用する結節管理ガイドラインを作成している。アメリカ胸部医師会そしてフライシュナー協会が偶然検出された肺結節に関するガイドラインを作成、英国胸部学会も発表している➡スクリーニングで検出された結節および偶発的に検出された結節の両方を対象としたガイドラインを公表している。
➡主な類似点は、結節の大きさ、臨床判断、リスク予測モデルの結果に基づくがんリスクの階層化、そして結節の形態的特徴に応じた推奨の調整である。
➡違いは、結節の大きさや成長速度の評価における体積CT解析の重点度、追跡調査のための正確なサイズ閾値、そしてそれに伴う監視間隔が含まれる。
注)わが国にも関連学会によるガイドラインがある。
肺癌診療ガイドラインは、例年11~12月頃に行われる日本肺癌学会学術総会の時期に毎年更新・公表される予定である。2025年版は2024年版までに採用された文献に加 え、2023年12月1日から2024年11月30日までに公表されている文献から重要な情報を追加して作成された。
Q. 本論文の結論と提⾔とは?
・冒頭で記述された患者例の場合、胸部の再CTでは結節の軸径が19mmから21mmに増加し、既存の淡い陰影(グラウンドグラス)病変内に、経過で固体成分が形成され、部分的に固体結節となったことが判明した。
➡結節は浸潤性腺癌であるリスクが高い(>95%)とみなし、経皮生検または診断的切除の選択肢について患者と相談する予定である。術前生検で肺がんの診断が確定したり、術前生検なしで診断切除を選択した場合は、病期診断のためにPET-CTを用いた診断の確定、その後ロボット支援による節摘出術を推奨する。
肺がんは、わが国の現状では、中高年の喫煙歴を有する男性に多いという特徴があります。本論文に説明されている最良の診断と治療法の選択は、なによりも治療を受ける側の患者さんに分かり易く、しかも丁寧な説明が前提となっています。他方、治療薬も日進月歩です。
最新で信頼できる情報は、薬物療法選択にとどまらず,がん全般の治療方針に大きな影響を及ぼします。ガイドラインでは蓄積されてきたエビデンスに基づいた治療方針の重要な根幹が記載されています。わが国では、毎年、暮れに開催される日本肺癌学会が「肺癌診療ガイドライン」として最新情報にもとづく治療指針を発表しています。しかし、こうした側面は,論文を基に作成されるガイドラインには記載が難しいという限界があることも事実です。特に、新しい情報は、裏付けデータが乏しいという限界もあります。
豊富な経験に基づく判断や、少人数の専門家集団で行う臨床討論が、より精度の高い治療方針の決定に結び付く可能性もあります。また、医療者の立場では、抗がん剤による治療選択では、各種の治療薬の特性・副作用を理解すること,そのためには、ガイドラインを適切に用いて適切な治療を提供することです。しかし、新しい薬物療法の実際的な応用には、特に新薬ではタイムラグが生ずることがあり、診療現場での難しさもあります。
早期肺がんの早期発見、早期治療は、担当医と患者さんの双方が別の理由で悩むことが多くなりますが、相互の理解をできるだけ近づけることにより最善の治療を選ぶ、という医療の基本原則に立ち戻ることの必要性を本論文は改めて提言しています。
わが国では、CT検査は大病院だけでなく、一般の診療現場でも広く行われているという特徴があります。本論文でも強調していますが、過去のデータとの比較が判断の重要なポイントとなっています。胸部CTは撮影条件により、画像に微妙な差異がみられることがあります。また、過去の胸部CTは比較のために重要です。同じ条件で撮影されていれば比較は容易ですが撮影条件が異なる場合の比較は難しいことがあります。転居などの理由で受診先が変化する場合には、将来に備え、CD-ROMを作成してもらい、手もとに保存しておくことも必要です。
参考文献:
1) Matthew E.J. et al.
Pulmonary nodules. N Engl J Med 2026; 395: 894-905. DOI: 10.1056/NEJMcp2515063
2)日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン2025 年版 https://www.haigan.gr.jp/publication/guideline/examination/2025/.
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