2019年10月11日
喘息がどのくらい重症かは、患者さんの日常生活がどのくらい影響を受けているか、発作によりいのちに関わる危険がないか、の判断が必要になり大切です。
ここでは、欧州呼吸器学会・欧州呼吸器財団が喘息の予防・治療に従事している看護師や理学療法士など医療者向けに書かれている論文を紹介します[1]。
Q. 喘息を疑う場合
・胸がしめつけられる、ゼイゼイする(喘鳴がある)、長い階段で息切れがある、就寝中に苦しくなって目が覚める、というような症状がある。
・症状を起こす原因としての環境要因(ほこりが多い、花粉が舞う、強い香水のにおい)がみられることが多い。職場での化学物質や特殊な物質を吸うと悪化する。
くり返して症状が起こっていることも特徴です。
Q. 重症の喘息の定義が変わってきた
今から20年くらい前には重症喘息とは、発作をコントロールする吸入薬の2種類(炎症を抑える吸入ステロイド薬、気管支を広げるβ2刺激薬)を必要としているか、吸入ステロイド薬は通常使用する量よりもはるかに上回る量が必要であるかで重症喘息が定義されていました。
現在では考え方が以下のように変わってきました。
Q. なぜ治療が困難になっているかを決める
・アレルギー症状を起こす特定の原因がないか。
・喘息以外の合併症があり、それが治療効果を妨げていることはないか。
・薬、とくに吸入薬の使い方が間違っていないか。
・飲酒や喫煙などの生活習慣が関わっていないか、運動で苦しくなることはないか。
Q.重症喘息の種類を決める
・近年の研究で喘息は従来、考えられてきたような単一の病気ではなく、いくつかの異なる病型があることが判明してきました。これらは区別して治療することが推奨されています。
・症状がよく似た呼吸器疾患は喘息以外にも多数あります。そこで、欧州呼吸器学会、米国胸部学会では胸部の高感度CT (HRCT) 撮影で肺の微細な構造を確認しておくことを勧めています。喘息では気道の壁があちらこちらで厚くなっている状態が見られます。
Q. 重症喘息の病型
次の3つの病型を区別して治療することが求められています。
・幼少時発症のアレルギー型
症状が小児期から続いており特定のアレルギーで悪化します。
・成人発症の肥満型
肥満が喘息を悪化させることは特に注目されています。
・成人発症で好酸球数が増加型
広い範囲の気管支の壁に好酸球が中心となる炎症を引き起こしており、増えている状態は間接的に血液検査から推測できます。
Q. 重症喘息の治療方針
・注射によるステロイド薬
重症喘息では通常使用する量では改善しないことが問題です。
・吸入ステロイド薬(ICS)および経口のステロイド薬
気道の広い範囲に起こった炎症や浮腫(むくみ)を改善します。重症喘息では通常の量よりも多量が必要です。
経口ステロイド薬は吸入ステロイド薬よりも強力であり、重症喘息が一時的に悪化したときに使います。服薬を開始する時期や少量を服薬することが良いかどうかの正確なデータは不明です。
副作用は、骨折を起こしやすくなること、体重が増えること、小児では発育の遅延がおこることがあります。このため、体重や血圧測定、血糖値、白内障を起こす可能性があるので定期的な眼科受診、骨密度などを定期的に調べること、小児では発育遅延が起こっていないかをみるため身長、体重の定期的な測定が必要です。
・短時間型β2刺激薬(SABA)、長時間型β2刺激薬(LABA)吸入薬を組み合わせて使用する。
ICSを使わずSABAのみをくり返し、使うと喘息は次第に悪化していくといわれています。ICSとLABAを合わせた吸入薬が便利です。
・徐放性のテオフィリン薬
テオフィリン薬は経口薬ですが、ゆっくり腸で溶け吸収されるような徐放性の薬剤が朝方に発作を起こすような喘息に有効です。しかし、重症喘息に効果的というデータはありません。ICSと組み合わせることで有効です。
・抗LT製剤
ロイコトリエン(LT)は気管支を縮め、痰を多くし、肺をむくみ状態とし、炎症を悪化させる物質ですがこれを抑え込む経口の薬剤です。ICSと併用することで有効ですが重症喘息の有効性は証明されていません。
・長時間作用型ムスカリン受容体阻害薬(LAMA)
喘息では気管支壁の平滑筋の締め付けをきつくするムスカリン受容体が細胞の中にあることが知られています。そこで、これを抑えるチオトロピューム・ブロマイドの吸入薬をICSと併用します。多種のLAMAがありCOPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)には使われていますが、重症喘息に効果的なLAMAはスピリーバ・レスピマットRだけが知られています。ICSと併用するのが原則です。
・特殊な治療
血液中の好酸球が増えている重症喘息で効果的な注射薬があります。使用経験の豊富な医療機関で血液中の好酸球の数、肺機能検査や呼気中の一酸化窒素(NO)濃度を参考に効果を予測して決めます。
現在、重症喘息の治療法は複雑になってきました。喘息の診断が正しいか、他の呼吸器の病気が合併していないか、重症になっている原因はないか、などを厳密に調べ、治療法の中で有効と思われるものを厳密に選ぶということでしょう。
ここに書かれている治療以外にも免疫抑制剤、マクロライド系抗生物質、カビを抑える抗菌剤や炎症を起こし、むくみが強くなった気管支の内面を部分的に加熱治療するサーモプラステイと呼ばれる治療法なども知られています。
Comments