2020年10月15日
米国のCDC (疾病予防管理センター) は、COPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)の患者さんが増加し続けていることに危機をつのらせています[1]。
現在、米国には約1,600万人の患者数といわれ高齢者に多いのが特徴です。65歳以上では12.5%に対し、45-54歳では6.5%の人がCOPDと言われ、その医療費の総額は、巨額で年間、約490億ドルに達しており社会問題化しています(2020)。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の大流行の中で、COPDの患者さんは重症化しやすいと云われています[1]。
COPDの症状は、重症度と、病状が安定しているか、一時的に悪化した増悪かで、症状はかなり異なります。
中等症くらいは息切れ、咳が中心で痰がでることも出ないこともあります。
COPDの重症化とは、肺の組織にどのような変化を起るのか。ここで紹介する論文は、COPDで肺がんとなったり、あるいは肺移植となり不要となった肺組織にどのような変化を起こっているかを数値化し、肺機能検査と対比し、さらに重症化の機序に迫った論文です。
著者のHoggは、1968年、Maklem , Thurlbeck,と共に、COPDが内径2㎜の細い気管支から進んでいくことを提唱したことで知られています[2]。以来、半世紀以上の研究を経て、この研究は治療に向けた集大成とも言えそうです。
Q.COPDの重症度とは?
・肺機能検査で重症度を評価している。その異常は、肺の構造が広い範囲で壊れてしまった肺気腫と細い気管支が狭くなった閉塞状態を反映している。
・現在、気流制限の程度により重症度を5段階に分類している。
・肺機能検査は気管支拡張薬を吸入する前、及び後の2回実施、後の測定値で判定する。
・分類は肺機能検査によっており1秒間に吐き出せる空気の量(1秒量)と肺活量(FVC)で示す。
Q.どのようにしてCOPDが発症するか?
・COPDは有害な煙や微粒子を長く吸い続けることにより発症する。中でも、喫煙習慣が関係している。
・初期病変は、有害物質を継続的に吸い込み続けることにより自然免疫および獲得性免疫の両者が傷害を受けることによる。
・肺の自然免疫の傷害とは、粘液線毛クリアランス系(気道表面)、気道の表面を覆っている上皮細胞、気道に急性炎症反応が生じこれを修復する生体反応である。
・肺組織に起こるこれらの生体反応は、急性に生じ、特殊な変化である。生体に記憶されない反応である。
・他方、獲得性免疫は、免疫反応のうち、身体の液性免疫、細胞性免疫として生じ、緩慢に進行し、特殊な炎症であり、生体に記憶が残る特殊な生体反応である。
・COPDは、急性反応+慢性反応として、上皮細胞の構造、微細な毛細血管構造の回復に加えて結合組織が増生し、長い時間の経過で、肺の組織構造が大きく作り変えられていく。
本研究では、内径2㎜以下の小気道で分岐数では4次から12次までの気道構造を定量的に解析した。
Q.本研究の方法とは?
・カナダ、米国の医療機関の協力を得て収集したCOPDの肺。解剖例や肺がんの手術、肺移植で摘出された肺など。
・肺組織を一定の圧でホルマリン固定。組織標本を作製し、細胞などの種類別に染色。気道に見られた組織を定量化した。
Q.結果は?
・159例のCOPDを解析。COPDのガイドラインで定める重症度を示すGOLD分類で
0 期 (39例), I期 (39例), II期 (22例), III 期 (16例), IV期 (43例)
・COPDが重症化するにつれ細い気道の壁が肥厚、気道の腔内に炎症性も浸出物が溜まる。
重症化に伴いリンパ球、マクロファージ、CD4細胞、CD8細胞、B細胞が気道の周囲に増加していく。
出典:Hogg JC. et al. The nature of small-airway obstruction in chronic obstructive pulmonary disease. N Eng J Med 2004; 350:2645-53.より一部改変
図説明
A: COPDが0からII,III期を経て最重症のIV期になるに伴い好中球、マクロファージ、好酸球がどのように増加していくかを示す。好中球、マクロファージが重症化と共に増加するが好酸球は増加しない。
B:CD4細胞, CD8細胞、B細胞は重症化に統計的な有意差なし。
C: 細い気道の厚さが重症化に伴いFEV1の減少と共に増していく。
D: 細い気道の壁の構造が重症化に伴いどのように変化するかを示した。
*=0期との有意差あり(P<0.001)
†=I期との有意差あり(P<0.001)
‡=II期との有意差あり(P<0.001)
・IV期では著明な気道壁の肥厚が見られた。これは炎症と修復をくり返していると推定された。
・気道の内腔には急性炎症反応が著明であり、免疫反応に伴うCD4, CD8, B細胞がわずかに増加していた。
・COPDの症状で見られる咳、痰の強さは、病気の進行とは関係しない。
・III期、IV期の重症になると気道腔に炎症細胞が増加する。
・細い気道が炎症を反復して肥厚していく状態は実験的にインターロイキン1を過剰発現させたときのマウスの気道病変に酷似している。従って、IL-13 を抑制するような治療が重症化を抑制できる可能性がある。
現在のCOPDの治療の考え方は、肺機能検査で重症度を決め、それに合わせて気管支拡張薬や、吸入ステロイドを使うのが基本的な考え方になっています。本研究では、0期からIV期に同じように進行していくのではなく、III期、IV期では炎症の病理学的な変化がI, II期と大きく異なっていることを示唆しています。また、その治療薬として抗IL-13製剤が効く可能性を示しています。
肺機能だけでCOPDを評価していくことの限界を示したこと、将来の薬物治療の可能性を示唆したことだけでも本研究の意義は大きいと考えます。
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