No.349 難しいCOPD、喘息の区別―MRIによる新しい検査方法―
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2026年3月12日
X線の発見は、ドイツの物理学者、ヴィルヘルム・レントゲン(1845 – 1923年)が1895年に報告し、この功績により、1901年、第1回ノーベル物理学賞を受賞しました。X線という呼び名も彼が命名したと、言われます。現在、使われているようなX線による胸部写真が利用できなかったら呼吸器疾患だけでなく医療における診断や治療の現在は、ほぼなかった、といえる貢献度です。
X線に加えて 磁気共鳴画像法(MRI)は、近年の医療の中では、大切な検査方法の一つとなっています。歴史的には、1970年代初頭、ポール・ラウターバーとレイモンド・ダマディアンが核磁気共鳴(NMR)技術を生物のイメージングに応用し、画像を生成することに成功しました。その後、サー・ピーター・マンスフィールドらによって開発された画像取得、処理の改良により、詳細な解剖学的な可視化が向上し、MRIの臨床応用がより広く可能になりました。ラウターバーとマンスフィールドは、医療画像への貢献により2003年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。
肺の病変は、CT検査とは異なりMRI検査は、通過してしまうので診断には向かないとされてきました。これを補う新しい検査方法が過分極キセノン129磁気共鳴画像法(XeMRI)です。従来の肺機能検査(PFT)と組み合わせ、COPDと喘息を厳密に区別する方法を開発した、という論文です。
喘息とCOPDは症状や経過が類似しています。COPDは喫煙歴のある中高年男性の病気とされてきましたが、女性の喫煙者が増えており、同じ喫煙量では女性の方が重症化すると言われています。他方で、非喫煙者のCOPDが見られ、一部は、幼年期から発症することが知られています。また、喘息で喫煙歴がある人は多数います。しかし、治療薬の使い方では喘息とCOPDは異なり、また治療薬に対する効果も異なっています。さらに、併存症と呼ばれる合併症の種類は両者で異なっています。COPDの診断は、肺機能検査で決めることになっているので診断のハードルはやや高く、そのせいもあり喘息の診断が多くなっています。治療開始後の経過で注意すべき点と、経過中に合併する肺がんや心血管病変はCOPDで多くみられるので両者をできるだけ区別して治療を進めるのが原則です。
ここで紹介する論文[1]は、新しく開発された画像診断システムによるCOPDと喘息を区別して治療にあたる、ことを目的としています。
Q. 喘息とCOPDの区別をする必要性は?
・喘息とCOPDは従来の診断基準では重複している部分があるが、治療の違いは依然として存在する。さらに、喘息とCOPD(喘息+COPD)の両方を持つ人は、単一の喘息、COPDのそれぞれの診断を持つ人よりも臨床経過が悪い、といわれる。
・COPDでは、併存症として肺がん、心血管病変が多いことが特徴である。
・喘息とCOPDでは両者の治療法と経過、予後(病気がたどる経過)が異なるので診療を継続的に進めるという意味では両者を区別しておくことが必要である。
Q. 本論文の要旨は?
目的:
・診療中の患者の喘息か、COPDであるかの表現型解析を判断するためにラベルしたXe(キセノン) MRI(129Xe MRI)と通常の肺機能検査を併用し、診断率を診た。
方法:
・喘息および/またはCOPDの≥16歳患者をプライマリケアから募集した。
・気管支拡張薬を使用後にXeラベルした陽子線MRI((129Xe MRI))、呼気中のNO(FeNO)濃度、肺機能検査、肺拡散能を測定した。
結果:
・本研究では165人の患者が参加、評価された。
129Xe MRIおよび肺機能検査の指標はCOPDと喘息の診断群の間で有意に異なっており、両者を鑑別することができた。
図 典型的なCOPDと健康人の呼吸運動に伴う換気(上段)、肺の細葉構造(中段)、ガス交換(下段)の差異

肺胞に取り込まれた空気が毛細血管を通し、ガス交換が行われるまでを模式的に示した。
・喘息+COPD の方が喘息よりも肺機能が低く、構造異常が強いものの、COPDよりは良好。
・COPDでは喘息よりも肺細葉組織の容積拡大、ガス透過性減少、スパイロメトリー低下、リアクタンス低下、ガス取り込み率上昇がみられた。129Xe MRIでは、COPD患者は喘息患者よりも呼吸面則が有意に減少し、かつ異質化し、細葉の寸法が大きく、ガス体の移動が低く、肺活量が低く、気道抵抗の上昇がみられた。
・129Xe MRIでは、COPD患者は喘息患者よりも呼吸が有意に減少し異質化し、細葉の超偏光キセノン129磁気共鳴画像法(Xe MRI)と肺機能検査(PFT)の併用により肺の機能や構造異常の微細変化が区別できた。
・Xe MRI指標では、1秒で正常な強制呼気量または肺拡散能(TLCO)を比較した場合、COPDの方が喘息よりも異常幅が、大きいことが判明した。
➡肺機能と構造は喘息+COPDの方が喘息より悪く、COPDよりは良好であった。
・結果の有用性:
本研究では129Xe MRI(キセノン129を用いた核磁気共鳴画像法)の有用性を示した。
➡特に喘息および/またはCOPD患者の鑑別で、従来の肺機能検査が正常である場合を含め、正確な診断情報を得るため検査方法となる。
COPDと喘息は、病気の成立の過程が異なり、これに合わせて治療内容が異なり、その結果としての病気の過程が異なります。
喫煙歴を有しないCOPDと喫煙歴がある喘息を区別し、治療方針を立てることは容易ではなく、日常の診療では必ずしも厳密に区別することなく治療が行われています。ここで紹介した論文では129Xe MRIは肺機能検査と組み合わせることで、喘息やCOPDの診断が厳密には可能であることを示しています。
この検査方法を、現在の日常診療に持ち込むことはおそらく不可能ですが、喫煙歴を有しないCOPDと喫煙歴をもつ喘息が明らかに区別されることを示したことは新知見です。
現在では、問診と診察、肺機能検査により鑑別し、治療が進められています。著者たちは、言及していませんが肺拡散能(TLCO)が両者の区別に有用であることは、他の論文での主張もあり、現時点でも精密な肺機能検査により利用可能なデータとなっています。
従来型のMRIを進化させた新しいMRI検査の応用は、認知症の正確な診断など、応用範囲が広がりつつあります。新しい治療薬をピン・ポイントの治療として正確で効率的に使うには精緻な診断方法の確立が不可欠です。今後の更なる発展を見守りたいと思います。
参考文献:
1. Marshall1, H. et al.
Phenotyping asthma and/or chronic obstructive pulmonary disease using 129Xe MRI and comprehensive physiologic testing.
Am J Resp Crit Care Med 2026; 212:72-85.
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