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No.122 COPDになる前の段階で発見し、治療を開始する


2020年11月25日


COPD (慢性閉塞性肺疾患)は、わが国の有病率は、40歳以上の8.6%に相当し(2001年)、現在では、約700万人以上と推定されながら実際には治療を受けた人は約26万人です(2014年、厚労省患者調査)。治療が必要な人のわずかしか、必要な治療を受けていない病気です。

 糖尿病や高血圧はありふれた生活習慣病であり、簡単に診断されることから多くの人が日常生活で必要な注意を受け、薬を処方されています。その結果、脳卒中や心筋梗塞のような心血管の病気は減少してきました。前糖尿病、前高血圧と呼ばれるような発症前の注意喚起が効果を挙げることも判明してきました。ガンの健診も早期発見、早期治療が目標です。


 COPDの診断は、スパイロメトリーと呼ばれる肺機能検査によって行います。気道を空気が通りにくいことを確認すること、さらに症状が類似している気管支喘息とは厳密に区別するために気管支拡張薬を吸入してその前、後のデータを比較して変化が少ないことを確認して診断が確定します。しかし、プライマリケアでは実際には2回の検査が必要となるこのハードルが、高すぎることがあります。さらに近年、胸部CTは機器の性能が上がったことにより、これを使ったCOPDの診断技術が格段に向上してきました。これらの検査に、症状や、喫煙習慣など原因情報を組み合わせ、COPD前段階、(Pre-COPD)、を患者さんに伝え、悪化を防ぐようにしよう、という提案が、COPDの国際的な専門委員会(GOLD)から発表されました。ここでは、その概略を紹介します[1]。




Q.現在の問題点は?


・スパイロメトリーによる測定値、1秒量(FEV1)は経過中の症状、悪化現象(増悪)、死亡率と良く相関することが知られている。検査費用が廉価なこと、途上国でも簡単に実施できるという理由で推奨されてきた。


・FEV1の欠点は、COPDの重症度の目安や、進行の予測とならないことである。


・FEV1が正常範囲であっても胸部CTでは、肺組織の損傷が広範であることはしばしば、見られる。


・FEV1の測定値は、これからの治療方針を決める上での有益性が乏しい。




Q.早期COPDとは何か?


・歴史的にはGOLD委員会が、2001年、GOLD 0(ゼロ)をCOPDが起こりやすい状態(at risk)として提唱したことがあった。これは、喫煙歴、症状(慢性の咳と痰)があるがFEV1は正常であることで定義した。しかし、その後の追跡調査で、必ずしも悪化してCOPDにいくのではないことが判明したので取り消された。




Q.スパイロメトリーが正常であっても問題点がある?


・FEV1を含むスパイロメトリーが正常にも拘わらず症状(咳、痰、息切れ)、増悪症状、胸部画像の変化がスパイロメトリーでCOPDと診断された症例と同様であったという研究論文が多数みられる。




Q.症状は進行の目安となるか?


・症状がCOPDに合致しても経過で全てがCOPDとなるのではないことが多くの研究から判明した。


・息切れは、COPDの主な症状であるが心疾患や肥満が原因となる場合がある。




Q.肺機能検査は進行するかどうかの目安になるか?


・多くの子供の肺機能を追跡調査した結果では、成人期に達する前に、肺機能検査では、すでにCOPDの診断範囲に入る人たちがいることが判明した。中には、若くして急速に悪化していく人たちがいることも判明した。


・FEV1だけでなく肺機能検査で拡散能 (DLCO)検査がCOPDへと悪化していく人たちの判別に有用であることが判明した。




Q.CTによる画像診断技術の進歩は?


・肺気腫は、肺胞を含む肺の組織が壊れている病態であるが、肺の上部に多く病変が見られる人では下部に多い人よりも肺機能の低下が進むことが判明してきた。


・気管支、さらにそれより細い気管支の壁が厚く見られる場合には、肺機能の低下が進むことが判明した。また、入院が必要となったり、死亡するリスクが高くなる。


・気管支が肺全体の容積に比べて細めの人がいる。このような気道容積と全体のバランスが悪い状態はdysanapsis(デイスアナプシス)と呼ばれる。これに分類される人では気道の気流が制限され、大気汚染など悪化要因が加わるとCOPDに近くなる。




Q.肺機能はどのように悪化していくか?


・歴史的には、慢性気管支炎という用語は英国学派により使われ、肺気腫は米国学派により使われてきた。英国学派の主張である、咳、痰が多いが息切れが強くないCOPDは、スパイロメトリーが正常なCOPDとして再認識され非閉塞性慢性気管支炎(NOCB)という新病名が提唱されている。




Q. pre-COPDとはどのような考え方か?


・慢性の咳や痰がある。肺機能検査で、FEV1やDLCOが低値、あるいはFEV1の低下速度が速い。胸部CTで肺気腫や気道の壁が厚い。




Q.pre-COPDが新しいCOPDの病名と認知されるために必要な研究領域は?


・病名としての認知は、J.D.Scaddingが1980年代に提唱したように、

1)臨床的な病像、2)肺組織の異常、3)これに相当する機能的な異常、4)共通する原因。これら、4項目が明らかにされなければならないがpre-COPDは、現段階ではこれらが満たされるには至っていない。


・現時点では、今後、COPDとなっていくかも知れない特に若年者のデータが不十分である。


・喫煙歴がないのにCOPDと同様な症状、経過を示す人たちがあり、このデータを確認していく必要がある。




Q.pre-COPDの定義とは?


 図は、現時点でのPre-COPDの定義を示したものである。




 Pre-COPDに相当する人が「増悪」を起こせば、通常のCOPDと同じように重症に近い増悪となることが多く、その頻度も高い人たちがいます。私たちが診ている患者さんの多くがこれに相当しています。


 新型コロナウィルス感染症がそうであるように、ほとんど全ての病気では、重症者の下に、その前段階である数倍の軽症者がいます。COPDは、重症化が進めば進むほど、誰よりも本人が苦しい思いをするだけでなく、治療に必要な経費がかさむようになり、家族の負担が大きくなります。また、重症者が多くなり、冬季に入院が必要な人が多くなれば、十分に治療の対応ができる医療機関にも必ずしわ寄せがきます。


 Pre-COPDの段階にある人の総数はCOPDの人の数倍になる可能性が高く、この人たちにこそ、適切なアドバイスを行い、これ以上、重症化しないようにしなければなりません。




参考文献:


1. Han MK. et al. From GOLD 0 to Pre-COPD.


※無断転載禁止

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