2021年2月17日
COPD(慢性閉塞性肺疾患)と喘息の違いは、前者COPDが全身疾患であるという点です。その特徴の一つが筋肉に起こるサルコペニアと呼ばれる病変です。寝たきりの原因となるので近年、特に注目されています。
運動療法は、軽症の段階から、ほぼ全ての患者さんに必要ですが、安全で効果的な方法の選択はどの患者さんにとっても大きな課題の一つです。
ところが近年の運動理論は、いずれもとても難解です。スポーツ選手で効果的な方法を重症COPDに応用する、というような考え方は理想的ではあるが果たして同じ考え方で進めていけるのか。未解決の多くの問題点があるような気がします。
ここで紹介する論文は、呼吸リハビリテーションの専門施設で実施したもので、COPDの患者さんに対する効果的で継続できる方法として自転車エルゴを使い、eccentric exerciseを行い、その効果と問題点を検証したものです[1]。
まず、サルコペニアについて解説し、次いで、この論文の中心命題であるeccentric exercise[2]を用いた研究の方法と結論について述べることにします。
Q.サルコペニアとは何か?
厚労省は、「生活習慣病予防のための健康情報サイト」で以下のように注意を喚起しています。
・高齢になるに伴い、筋肉の量が減少していく現象をいう。
・25~30歳ごろから進行が始まり、生涯を通じて進行する。
・筋線維数と筋横断面積の減少が同時に進む。
・原因は不明。
・筋力・筋肉量の向上のためのトレーニングにより進行の程度を抑えることができる。
Q. COPDにおける運動の目標とは?
・QOL(生活の質)の改善、息切れの緩和、運動能力の向上。
Q. Eccentric exerciseとは?
・レジスタンス・トレーニング(ECC)ともいう。(詳しくは[2])
・ECCの理論は、1882年に提唱された。Eccentricsは運動の一つの方式を表現する造語でexは「離れた」を意味し、centric 「中心」を意味する。
Q.どのような研究を行ったか?
・中等症以上のCOPD(13人)の患者で自転車エルゴメーターを使い、ECC群では、下肢筋の強化を目的として一人ひとりの最大運動量を決めた後、4分間ごとに運動の強さを少しずつ上げて効果をみた。対照群は、同年齢で肺機能が正常な健康人とした。運動療法の指標は、細かく測定した。また、運動後の満足感を調べた。さらに、別のグループのCOPD(9人)同じ運動前後で下肢の筋肉を生検してとり、筋肉中の含まれる運動関連の酵素活性などを調べた。
Q.その結果は?
・COPD群と健康人の対照群を比較すると酸素の取り込み量、換気量、脈拍、下肢の疲れやすさ、など全ての項目の比較でECCの方が通常の運動よりも優れていた。筋肉疲労を示す酵素活性の上昇も少なかった。しかし、COPD群では、運動量に伴い心肺機能、代謝機能が健康人のように次第に上昇していく、という効果は認められなかった。さらに、運動を次第に上げてトレーニングする方法は健康人では、満足度が高かったが、COPD群では満足度が上がることはなかった。
健康人が、スポーツジムで行うECCでは心肺機能を改善し、運動能力を向上させる効果がありました。しかし、COPDでサルコペニアを改善する目的でECCを行っても必ずしも改善効果にはつながりませんでした。健康人では運動中に少しずつ負荷を増やしていく運動は、苦しいけれど達成感があり、満足感は高くなりました。しかし、呼吸困難が強いCOPDの患者さんでは、かえって苦しみとなり、継続性という点ではむしろ、大きな支障となることが分かりました。
私たちのクリニックでは、COPDで在宅酸素療法を行っている患者さんには、酸素吸入を行いながら一定の負荷量で少なくとも午前、午後、20分程度、毎日、運動を継続することを奨めています。日課として行う運動は、運動選手は苦しみながらでも耐えられますが、他方、患者さんでは、苦しみながらの運動は継続が難しいと思われます。また、私たちのクリニックでは、墨田区にある中村病院リハビリテーション科と連携し、効果を示すデータを共有しながら呼吸リハビリテーションの継続指導を実施しています。
日常の運動で効果を上げるために、クリニックでは、運動日誌をつけることを勧めています。患者さんと医療者が日誌を通じて運動がどのように継続されているか、を分かり合えることが利点です。
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