2021年5月31日
間質性肺炎は、呼吸器内科医にとってもっとも手ごわい病気の一つです。治りにくい咳が数週間から数か月以上も続き、坂道を上るときに息切れが強い、疲れやすいなどの症状がみられます。
間質性肺炎の原因は多岐にわたり、職業・環境性や薬剤など原因の明らかなものや、膠原病・サルコイドーシスなどの全身性疾患に付随して発症するもの、原因が特定できないものが含まれ特発性肺線維症(IPF)など7疾患に分類されています。
さらに手ごわいのは合併症として肺がん、肺高血圧症、あるいは肺気腫との合併(気腫合併肺線維症と呼ばれる)さらに肺感染症(特にアスペルギルスなどの真菌)などがあることです。治療薬には、近年、使用されるようになった抗線維化薬があり、また、現在、臨床治験が進行中のものもあります。しかし、治癒が難しい疾患であることには変わりありません。
臨床研究は、初期は解剖後の病理所見からスタートし、次いで、肺の生検を行い、分類を確認していく段階を経て、現在では高感度の胸部CTで細部を読み取り、分類するという方法の発展に至りました。これと伴に血液中にみられる異常所見を対比させ、さらに肺機能検査を併用することで肺の中に生じた病変の原因や、治療薬に対する反応がかなり細かく分かるようになりました。
ここで紹介する論文は、間質性肺炎に関する特徴を明らかにしたものですが、3つの特徴があります。第1は、ハーバード大学に所属し、長く研究に従事してきた二人の研究者Hunninghake,Washkoらのグループからの発表であること、第2は、多くの異なる施設から患者データを集めたのではなく、1948年に米国の小さな街、フラミンガムで開始された詳細な個人の健康管理データに基づいていることです。第3は、継続して追跡しているデータのうち胸部CTから得られた情報のうち、肺の中にある血管の異常という点に注目して、解析したことです。得られた結論が従来の考え方と大きく異なるということも興味が持たれる点です。
Q.評価どのような方法か?
・対象は、白人のみからなる計2,386人。
・胸部CTによりサイズの異なる全ての血管の容積を算出した。具体的には、通常の方法で胸部CT撮影を実施。肺血管系の3次元像をコンピュータによる自動アルゴリズムによって作成。すべての肺実質内の血管の総容積(TBV)、断面積が5mm2以下の小血管(TBV)の総容積を含む、さまざまな断面積の血管の総容積を計算した。
Q.結果は?
・対象者:男性51.5%、平均年齢 59.0歳。130人で間質陰影(ILA)あり。うち経過でILAが進行していたのは85人(5.2%)、32人(2.0%)は進行なし。69人(3.1%)は肺機能検査で拘束性換気障害を呈した。904人(55.9%)は所見なし。
(注:ILAは、間質性肺炎の分類を示すものではなく胸部CTで間質性肺炎に一致しているという意味で用いている)
・統計処理後ではILA進行と拘束性換気障害悪化、BV5/TBV低下が有意に相関した。
最もBV5/TBV低値ではILAで重症化のオッズ比は1.4-2.31(P<0.0001)であり、拘束性換気障害とのオッズ比は1.18-2.24(P=0.003)であった。すなわち、胸部CTでILAが重症化する程度と肺機能検査の所見、BV5/TBVの低下が一致していた。
・肺拡散能検査の結果もこれに一致していた(オッズ比は2.99倍でP<0.0001)。
非喫煙者ではTBV,BV5はいずれもILA悪化と有意に相関したが喫煙者ではこの傾向は認められなかった。
図:Synn AJ. et al. CHEST 2021; 159:663-672より一部改変
正常および間質性肺炎の胸部CT像、コンピューターで作成した血管像。間質性肺炎では微細な血管網が減少している。
・ILAの重症化は、肺機能検査と肺の血管サイズの狭小化と一致していた。
すなわち、ILAの重症化は肺内の動脈、静脈の両方の狭小化と一致した変化を示した。
・喫煙者でこのような傾向がみられなかった理由は、喫煙によりILAの変化と無関係に血管全般の狭小化が進行するからであろう。
・これらの結果は、これまでJacobらが報告してきた結果(2016-2019)と相反するものである。彼らは肺血管の容積増加は悪化のサインと報告してきた。Kanskiら(2013)は強皮症関連の間質性肺炎ではMRIで肺血液量が減少すると報告している。
本研究で報告した結果は、これまでの報告とは一致しないものでした。Jacobらは肺組織の線維化が進行すると肺内の血液量が増え、血管が太く見られる、とくり返し報告してきましたがこれは、説明が難しい問題でした。恐らく、この論文がきっかけとなり関連した領域の研究に進歩があることを期待しています。臨床的には、肺全体の血管が周囲から圧迫され細くなっていくことは極めて納得がいきます。血流が減るので酸素療法が必要となります。
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