top of page

No.189 軽症喘息の薬物治療をどのように選択するか


2021年8月11日


喘息は、分かりやすい1種類の病気とは言えずumbrella term (雨傘の骨に例えられる言葉)とも呼ばれています。多様な喘息があるという意味です。

喘息の治療では吸入ステロイド薬が必須とさえ考えられてきました。他方で近年、抗コリン薬吸入薬が喘息の保険適応となり選択肢が増えましたがどちらを選ぶべきか迷わされる場合もあります。

 ここで紹介する論文[1]は、患者数の多く、しかも必ずしも有効性がはっきりしないアレルギー反応が低い喘息に対しての有効性を検証したものです。

 有効性の疑問を証明する臨床研究は、製薬会社には歓迎せざる結果となりそうであり、本研究は、政府機関であるNHLBI(National Heart, Lung and Blood Institute)が研究資金を提供したものでかなり厳密に実施されています。




Q.軽症喘息の問題点は?


・典型的といえる喘息は、喀痰に含まれる好酸球の割合が2%以上であり、吸入ステロイド薬で治療効果がみられる。


・現在のガイドラインでは、喘息は気道におこる慢性炎症で、そのほとんどが好酸球性炎症で起こるので吸入ステロイド薬を使うことになっているが軽症喘息の約50%では好酸球炎症効果が乏しいことがあり、治療効果が疑問であることが指摘されてきた。




Q.どのような臨床治験を行ったか?


・米国で喘息の専門治療を実施している24の医療機関が参加。


・無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバーと呼ばれる方法で実施した。具体的には使用している患者に分からないように、偽薬を使用した観察期間を経て➡無作為に選択し吸入ステロイド薬のモメタゾンあるいは偽薬、あるいは吸入チオトロピウムあるいは偽薬を使用(第1期間)➡ついでこれらを無作為に相互に入れ替え(第2期間)➡次いでこれを無作為に入れ替えた(第3期間)。以上を計42週間実施した。


・564人の患者を、喀痰中の好酸球数が2%以上の群と以下の群に分けて上記の投与法を行った。うち58人は12歳から18歳であった。


・治験は製薬企業の利害が入らないように厳密に行い資金提供はNHLBIにより実施した。




Q.結果は?


・低好酸球数群は221人。平均年齢31.2歳、男性34%、喘息の診断は平均8.0歳、喘息治療期間は19.2年間、前年度に喘息悪化ありは24%。

 高好酸球数群は74人。平均年齢31.1歳、男性47%、喘息の診断は平均7.0歳、喘息治療期間は20.0年間、前年度に喘息悪化ありは23%。




Q.結果は?


・高好酸球数群では、モメタゾンがチオトロピウムよりも有意に効果的だった。


・低好酸球数群でモメタゾンに対してより良い反応を示した患者の割合と偽薬使用患者の間に有意差はなし。また、チオトロピウムがより良い反応を示した割合と偽薬に対してより良い反応を示した割合に有意差はなし。




Q.問点は?


・喀痰中の好酸球数が低い患者で、吸入グルココルチコイドを毎日使用すると、副作用のリスクと維持療法のコストが増加し、臨床的利益は最小限にすぎない可能性がある。




 本研究では喀痰中の好酸球数が2%のラインで切って多い方が、アレルギー性要因が強いと判断しています。予想された通り少ない群では吸入ステロイド薬の効果が乏しいことが判明しました。診療現場では、喀痰中の好酸球数を測定するのは煩雑なため血中の好酸球数や呼気中の一酸化窒素濃度(FeNO)を目安にしています。自覚症状の変化、肺の聴診上の変化などなるべく簡便に測定できる方法を組み合わせ、治療方針を決めていきます。




参考文献:


1.Lazarus SC. et al. Mometasone or Tiotropium in mild asthma with a low sputum eosinophil Level. New Eng J Med 2019; 380: 2009-19.

DOI: 10.1056/NEJMoa1814917


※無断転載禁止

閲覧数:134回

最新記事

すべて表示

No.267 湿疹、喘息、鼻炎―アトピーマーチの考え方の論争

2022年11月1日 乳児期の湿疹から始まり、小児期の喘息やゼロゼロする喘鳴、そして鼻炎に進行していく一連の経過はアトピーマーチと呼ばれています。しかし、湿疹、喘鳴および鼻炎の関係は複雑であり、重なって起こる頻度や機序について論争が続いています。 ここで紹介する論文[1]は、米国胸部学会誌に掲載された最近の論文ですが、従来はアトピーマーチと呼ばれてきたような連鎖は、不確かであり、医師の立場では乳児

No.251 重症喘息でみられる気管支の痰づまり

2022年5月20日 喘息が重症化すると気管支の中に痰が充満した状態になり、空気の取り込みができなくなることがあります。19世紀、内科学の祖と言われたウィリアム・オスラー卿 (1849-1919年)は、喘息患者ではゼラチンのような痰が出る、と記載しています。しかし、重症の喘息患者でみられる痰づまりの現象については古くから、注目されながらも目立った研究がみられませんでした。2018年に、胸部CTを用

bottom of page