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No.347 長引く咳で困っているとき

  • 23 時間前
  • 読了時間: 8分

2026年3月2日


 長引く咳で困っている人は少なくありません。特に、花粉症シーズンが近づき、多くなってきた印象があります。


 長引く咳の原因は多く、治療が難しい場合がありますが中には薬の副作用で咳がでることがあります。注目されるのは、最近、発表された糖尿病の治療薬として使われているグルカゴン様ペプチド1受容体作動薬が慢性咳に関連があるのではないか、という指摘です(UptoDate, 2026年2月26日報告)。現在、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬は、糖尿病だけではなく美容を目的とした痩せ薬として使われることがあります。痩せ薬としてグルカゴン様ペプチド1受容体作動薬を用いている人では、保険診療外の取り扱いとなるので医療管理が甘くなっている可能性があります。以下が、その概要です。

 

 「グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬(GLP1-RA)の使用頻度が増加するにつれて、臨床的に関連性のある副作用は頻度として(使用者の母数が多くなるので副作用比率として)少なくなると考えられてきた。少数の副作用例があっても、使用者数が増加すれば比率としては減少に向かう。しかし2型糖尿病の成人300万人以上を対象とした研究では、GLP1-RAの新規処方により、他の第二選択糖尿病薬の追加と比較して、その後、5年間で慢性咳の発症率がわずかながら統計的に有意に増加した(3.6%対3.15%、調整後危険率1.12)。GLP-RAが慢性咳に与える影響は、胃食道逆流障害(GERD)を持たない患者でより強かった(GERD;1.8 対 1.4%、調整後危険比1.29)。考えられるメカニズムは、GLP1-RA使用者における新たな未治療のGERD、GLP1-RA媒介による迷走神経求心性の感受性増加、または乾口症の増加が含まれる。この関連性を認識することは、新たな慢性咳の患者を評価する際に役立つ可能性がある」。

 薬の副反応により、胃食道逆流障害が起こり、これが原因で長引く咳を起こすことがある、という指摘です。若い女性では、時々、軽度の喘息症状の一つとして咳こみを経験してきた人では、GLP1-RAの使用開始で、咳こみ症状が多くなる危険性を指摘しています。長引く咳は、緑内障に対する点眼薬の副反応として知られてきましたが、因果関係の推定が無ければ、「治療が難しい長引く咳」、となる可能性があります。


 ここでは、最近、発表された論文[1]を参考に長引く咳を考えてみます。

また、コラム56, 74, 320でも咳を取り上げていますので参考にしてください。ここでは既報とは独立した形で取り上げます。

  



Q. 咳とは?


・咳は、呼吸器疾患では一般に認められる症状の一つである。


・通常は、自発的であるが気道に対する刺激が加わり反射運動として出ることがある。

 ➡気道内の異物(微小なものや大きいものまで)、気道感染、気道内の刺激物の存在による。


・痰を伴う場合と伴わない場合がある。




Q. 痰を伴わない咳とは?


・気道内の異物などの刺激症状。


・気道炎症。


・痰の貯留に伴う場合で自覚がない。


・気道腫瘍、肺がんなど。


胸膜に対する刺激症状➡胸水が溜まる場合の刺激症状として空咳を認めることがある。




Q. 痰を伴う咳とは?


・原因が多種である

 ➡ 強い咳か?弱い咳か?

 ➡ 患者が自発的に行っている咳か?そうではなくて反射症状であるか?

 ➡ 痰の色は?

  ―白色、透明か?

  ―黄色、混濁➡感染を伴っている可能性ある 

  ―緑色 ➡古くなった痰の貯留

  ―緑色、異臭 ➡緑膿菌感染など

  ―褐色 ➡古くなった血液混入

  ―血痰 ➡出血




Q. 難治性の慢性咳嗽(慢性の咳こみ)症状とは?


・肺の細菌感染症は、急性咳嗽となることが多い。


・難治性の慢性咳嗽は、基礎にある併存疾患への適切な治療にもかかわらず8週間以上咳が持続する疾患と定義される。

➡咳に関わる神経障害を病因とする臨書疾患として最近、重要視されている。


・慢性咳嗽の一般的な呼吸器系の原因は、喘息、COPD、間質性肺疾患、好酸球性気管支炎、ウイルス感染後の咳嗽、結核や真菌などの慢性感染症などが挙げられる。


・アレルギー性副鼻腔炎や胃食道逆流症(GERD)がある状態でアレルゲンへの曝露も、慢性咳嗽を引き起こす可能性がある。

 

 

 

Q. 難治性の慢性咳嗽に対する新薬とは?


難治性の慢性咳嗽の最初の標的薬であるゲファピキサントは、 EU、英国、スイス、日本で承認されており(米国は未承認)、有効性が証明されており、投与中止後も持続的な改善が見られる。

➡新しい薬剤の登場は、従来の薬とは考え方が異なるので治療の進展に伴い、実臨床における治療効果の評価方法を再検討し、適切な治療期間を決定する必要性が高まっている。➡したがって、臨床医と患者の双方にとって、治療後に咳を引き起こすプロセスが依然として活発であるか、消失しているか、あるいは寛解状態にあるかを判断することが不可欠である。 

➡縦断的研究では  5 年間で患者の約半数で咳が治まったことが示されているが、この領域で認可された治療法がこれまで少なく、難治性の慢性咳嗽の寛解についてはほとんど議論されていない。




Q. 喘息の寛解とは?


喘息は、慢性の咳の原因として知られているが、喘息には治癒という考え方はされず、「寛解」という表現が取られてきた。


・「喘息の寛解」とは、喘息の疾患活動性が低い、または最小限となった状態が特定の期間 (例:6か月または12か月間)にわたって維持されることと定義されている。


・「喘息の寛解」の定義には通常、臨床的特徴(例:経口ステロイドなどを必要とする増悪がないこと、喘息コントロールの患者報告指標で症状がないこと)、正常な肺機能(1秒量(FEV1)が予測値の 80%超)であり、Th2型炎症マーカー(例:呼気一酸化窒素の割合または血中好酸球数)の低下と気道過敏性の解消がある。

➡ この定義によるアプローチで実際に喘息が寛解至っているかどうかは不明である。

➡ 症状の改善が、喘息を起こす根底にある表現型またはエンドタイプの特徴、病理学的負荷の最適な指標、疾患活動性の評価に適し指標に関する現状のデータは不足している。


・咳嗽の頻度は、男女で異なり、ウイルス感染など急性感染症時や特定の環境誘因にさらされた際には増加する可能性がある。


慢性喘息が改善したという寛解とは、「患者が正常な生活の質と日常生活の活動に近づくことができる程度まで慢性症状が緩和されたことの決定的な証拠」が提案されている定義である。




Q. 新しい論文の概要は?


研究目的:

1)    原因不明の呼吸器症状があるが、以前に呼吸器疾患と診断されたことのない一般集団の成人におけるの負担/重症度を評価すること。


2)    診断されていない呼吸器症状のある成人における咳の負担/重症度と、それが生活の質、睡眠の質、呼吸器疾患に対する医療利用に与える影響との関係を調査すること。


3)    原因不明の咳症状があるが、過去に呼吸器疾患と診断されたことのない一般集団の成人における咳の負担/重症度を評価すること。



研究方法:

・UCAP集団を対象。カナダ在住で、既存の呼吸器疾患の診断を受けていない症状のある成人における喘息またはCOPDの診断を目的とした。UCAP研究は、カナダ全土の17施設で実施された。



研究結果:

・診断されていない呼吸器症状のある成人(n = 2,857; 平均スコア57.8; 95%信頼区間[CI]、年齢を合わせた対照群(n=231、平均スコア17.7、95%信頼区間15.6~19.8)と比較して、咳嗽スコアが高かった(95%信頼区間56.9~58.6)。


・喘息(n=265、平均スコア61.0、95%信頼区間58.2~63.7)およびCOPD(n=330、平均スコア61.8、95%信頼区間59.3~64.3)と診断された参加者は、肺活量比が保持された障害肺活量測定(n=172、平均スコア54.5、95%信頼区間51.1~58.0)または正常肺活量測定(n=2,090、平均スコア57.0、95%信頼区間56.0~58.0)と比較して、咳嗽スコアが高かった。


咳のスコアが高いほど、QOLが低下し(36項⽬の短縮版調査スコアが低い、回帰係数20.19、95%信頼区間20.22~20.17、P<0.001)、睡眠の質が悪化し(グローバル睡眠評価質問票スコアが高い、回帰係数0.16、95%信頼区間0.14~0.18、P<0.001)、呼吸器疾患の医療利用が高くなる(罹患率比1.007、95%信頼区間1.004~1.010、P<0.001)ことが示された。



結論:

診断されていない呼吸器症状のある成人のうち、咳は診断されていない喘息または COPDある人の咳が最も重症であり、QOLの悪化、睡眠の質の低下、呼吸器疾患による医療利用の増加と独立して関連していた。




 長引く咳は、歴史的にも古くから注目されていました。「日本医学史綱要」(富士川 游著)(初版、昭和8年、東洋文庫262, 平凡社)は、わが国の医学史を経年的に考察した名著ですが、「日本医学史綱要2」に「呼吸器病」として臨床的な発展史を記載しています。取り上げている疾患は、喘息、肺結核、百日咳、肋膜炎、胸水の各項目です。喘息の名称は、古く、「素問」、「霊枢」に上気、肺腫と記載してあるものに相当すること、労咳と呼ばれていたことがあること、労とは、だんだん疲れて(労れて)くることに由来することが記載されています。古く、江戸の街には咳地蔵信仰がありました。その一部はいまでも残っています。

長引く咳は、多くの人たちの悩みでした。


 先の論文では、触れていませんが咳は、かなりカロリーを消費する症状であり、夜間の咳こみが続く患者さんで体重減少をきたした人を診ることがあります。強い咳こみで肋骨の骨折を来たした人がありました。経過から、長引く咳こみは診断されることが多いのですが、注意すべきは、間質性肺炎の症状であったり、気管支癌(肺がん)の症状の一つとなることがありうることでしょう。

 長引く咳は、根底となる診断を明確にして、対症療法としての治療を的確に進めるべきでしょう。




参考文献:

 

1.Shin, S. et al. Cough in adults with undiagnosed respiratory symptoms.

Ann Am Thorac Soc, 2025; 22: 1853–1862.


※無断転載禁止

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