• 木田 厚瑞 医師

No.194 遠隔医療で行う呼吸リハビリテーション


2021年8月19日


 COPD (慢性閉塞性肺疾患) の治療は薬物療法と非薬物療法から成り立っています。薬物療法の方は近年、新しい吸入薬が次々に使用が可能になり息切れの改善や、増悪の予防に役立っています。

 非薬物療法は、呼吸リハビリテーションですが、包括的に実施するのが最も効果的です(コラムNo.12 参照)。中心となるのが運動療法であり、並行して治療に必要なさまざまな情報を日常の診療の中で患者さんに伝えていかなければなりません。この中には、できているはずの禁煙がいつの間にか、戻ってしまったり、あるいは必要な栄養の摂り方が不十分であることもしばしば経験されます。

薬物療法の効果を最大にするためには非薬物療法も最大にしなければ治療効果を上げることができません。


呼吸リハビリテーション(PR)は、欧米では、大学病院のような地域のセンター的な機能を持つ施設に外来通院で継続して20~30回程度を区切りとして定期的に実施する方式がとられています。そこでは、実施中に心電図、パルスオキシメーターなどを記録し、安全性を確認しながら高負荷(high intensity)の運動が行われています。

しかし、車社会の米国でもセンターと自宅が10マイル(約16㎞)離れるごとに継続通院者は50%ずつ減少していくと云われています。さらに付き添いが必要な状態になれば送り迎えが必要な人には継続は難しくなります。


 ここでは、遠隔医療を利用した英国、カナダからの論文を紹介します。英国からはロンドン周辺の大病院がビデオを利用してPRの継続を実施しましたがこれは、対照群と差がなく失敗に終わりました[1]。他方、カナダからは大学病院でのPRが実施できない人たちに地域の小規模施設とビデオ利用の遠隔医療を実施し、成功をおさめました[2]。二つの論文から今後の課題を読み取ることができます。




Q.COPDではPRがなぜ必要か?


・COPDの増悪は、緊急入院を必要とする疾患の中では最も頻度が高い。しかも緊急入院となることが多い。入院治療のためにCOPDに関わる医療費の50%以上が増悪時の入院医療費が占めており極めて高額となっている。


・通常、入院期間は2週間以上となり、その結果、治癒しても身体活動能力の低下は避けられない。


・退院後は身体活動の能力が低下し、健康関連のQOLは低下し、その結果、再入院となることが多い ➡ これらを改善する目的がPRである。




Q.PRの目的と問題点は何か?


・PRは運動訓練、教育を含むものであり、運動能力の改善や健康関連のQOLの向上が期待されるが患者の実施率は極めて低い。


・増悪では運動レベルが低下、健康関連QOL低下、筋力低下 ➡ その結果、再入院が増加する。問題は多くの患者がPRを進んで受けようとしないことにある。




Q.PRはどのように勧められているか?


・PRは慢性呼吸器疾患の全般に対し患者中心の医療として実施し、運動療法のほか、患者の治療に必要な情報提供(教育)を行うことである ➡ 特にCOPDの増悪治療の後には中等度~高度の改善効果があることが知られ、再入院を減らす効果がある。

➡ 国際的PRおよびCOPDの治療ガイドラインでは退院後4週間以内にPRを推奨している。




Q.研究[1]はどのように進められたか?


・中等度以上のCOPDで入院治療を行い退院した人たちを対象とした。


・無作為に2グループに分け、患者教育ビデオを提供群と患者教育ビデオ提供なし群に分けた。実施には、ロンドン市中の大病院が複数で加わっており研究者はCOPD研究の第1人者が加わっている。


・研究目的は、既報のデータでは通常治療vsビデオ提供の研究ではビデオによる効果で退院後は24%がPRを実施していた。今回は、これを45%まで上げビデオ提供が有用であることを証明したい。




Q.研究[1]の結果は?


・無作為に200例をビデオ提供群。196例をビデオ非提供の対照群とした。


・全体でPR実施は37%。ビデオ提供群とビデオ非提供の対照群に差がなかった。


・退院後、PRを開始するまでの期間に差がなかった。


・健康関連QOLでも両群間に差がなく、退院後90日目までの再入院の回数に差がなかった。


・15人のビデオ提供群には面接を行い勧めたが、それでも8人はビデオを利用せず。7人中6人はビデオを見たがPR実施せず。


・PR実施で効果があった改善者では在宅酸素療法実施者が多く、比較的年齢が若い人が多かった。


・面接での感想は、退院後も体調悪くてPRができない。他の併存症が悪化しておりそれによる健康障害がありPRができない。入院中に自分ではPRは十分に実施したと思っている、など。


・PRを利用できないその他の理由では、遠くて通院できない、配偶者の健康問題があり通院することができないなど。

退院後に教育ビデオを提供することによりPRを開始するという治療計画は失敗であった。反省点としてビデオを見せるタイミングが悪かったという指摘あり。

少数例であるが、もう一度見直したところ役立ったと云う人がいた。




Q.研究[1]の問題点は?


・退院後のPRは役立つし、ガイドラインも推奨しているが実施率は極めて低い。


・COPD増悪治療の後でPR開始は30%以下であった(Jonesら、2014)。他の研究でも入院治療後でもPR開始は10%以下であった。


メディケイド受給資格保有メディケア受給者(Medicare beneficiaries;所得・資産共に一定水準を下回る受給者)のデータでは22万人のCOPD増悪入院のうちわずか1.9%しかPRを実施していなかった。他のデータでも1.5~2%がPRを実施しているのみだった。

➡ PRは重要な治療だが実施は極めて低率。しかも、退院後の効果的なPRの研究報告は少ない。


・そもそも入院中の患者教育の中でPRを奨めていないことが根底にある。


・著者たちが作成したビデオの内容については分かりやすく長さも丁度良いという意見が多い。他方で認知症があったり、家でインターネットをみられないdigital literacyが十分でない人たちが利用法を知らないことが問題。




Q.解決が必要な問題点は何か?


1.ビデオは受診が不要で廉価であり、いつでも使えるし、教える方のスタッフの負担がない。ビデオは行動療法の変化に視点を置いて作成した。健康の直接管理指導(coaching)に力点を置いた治療手段である。

これまでも受診なしで道具を使うPRはCOPD患者の行動を変えるに至ったものはない。


2.センター病院から他の医療機関に紹介したが紹介先の医療スタッフの教育、連携教育不十分であり、患者にPRの重要さを奨めなかった。


3.他方、PR受診が高率であった背景にはHawthorn 効果が影響している(注:Hawthorn効果とは治療を受ける者が信頼する治療者(医師など)に期待されていると感じることで、行動の変化を起すなどして、結果的に病気が良くなるあるいは良くなったように感じる、良くなったと治療者に告げる現象をいう。プラセボ効果である)。本研究では、この間、診ていた医療スタッフが診ている間に患者行動を変えるべきだったがそれがうまくいかず。つまり医療スタッフの認識不足が大きい。


4.退院後に実施すべき患者教育のバリヤーが解決されていない。


5.退院後に両群とも一部にしろ、健康関連QOLの改善、身体機能の改善が合ったが、この結果をPR継続につないでいくのがよい。


6.他方で退院後には認知機能低下は57%になるというデータあり。20%は病的な認知低下の速度が進む。




Q.研究[2]はどのように背景で進められたか?


・COPDの治療は、呼吸困難を改善し、運動機能を改善することが目的である。経過中の増悪を防ぎ、運動能力をアップすることに主眼を置くべきである。


・PRは生存率を高めることが知られている。


・増悪で入院治療を受けたCOPDで退院後にPRを開始する例はごくわずかにすぎない。

2012年報告ではPRを受けているのが3.7%であった。退院後6ヶ月以内のPRは1.9%。


・PRは伝統的に機器をそろえたセンター方式で実施してきた。

➡ 自宅から遠いことが問題。


・センターではPRのモニター付き機器を揃え高負荷(high intensity)が基本である。しかし、地域の小規模施設では機器がない。


・センターベースのPRでは遠隔リハビリが有効であるとする報告が多い。




Q.研究[2]の実施方法は?


・研究は2018~2020年にカナダ、マギル大学病院で、ビデオ利用(real-time video)でPRを実施した(Tele-PR)。通院距離や保険の関係でセンター病院まで来られない人たちを対象とした。研究は地域の小規模施設との医療連携を中心にしていることが特徴である。


・Tele-PRは最低20セッションから成り立っている。ビデオ利用vs通常実施PRを1:3の比率に組んで実施した。


・センターからはビデオを送るか、スマートフォン受信で実施した。


・研究参加者には足ふみ器(Foot peddler)とストレッチバンドを提供した。


・30セッションで各45~60分間。有酸素運動を最高脈拍数の60-80%となるように設定した。これは6分間平地歩行テスト(コラムNo.193 参照)より求めた。加えて筋トレ、口すぼめ呼吸(PLB)、リズムを付けた呼吸法(paced breathing)、横隔膜訓練およびヨガを実施した。


・提供したビデオ内容には教育が含まれており、疾患の治療法、増悪の予防、禁煙、食事指導、吸入指導が含まれていた。


・安全の確認は血圧、脈拍、酸素飽和度(SpO2)による運動中の管理を実施した。

ビデオを送る際は、同時に4人が実施できるようにした。




Q.研究[2]の結果は?


・59人に対し実施した。11人はTele-PRを拒否した。11人は24回実施に至らず、研究から脱落。37人が予定通り終了し、32人はデータが揃った。これを対照群の96人と比較した。これはセンターで実施した人たちである。


・COPDの重症度、年齢、性にビデオ群と対照群に差なし。


・センター実施群では実施前と比較すると健康関連QOL(SOBQ)は有意に改善 p<0.001)。


・他方、Tele-PR群ではSOBQは同じく改善、6MWTは55m改善 (p<0.001))

間に差なし。




Q.研究[2]で判明したことは?


・Tele-PRはセンター方式と同等の効果があった。


・これまでも在宅実施とセンター実施を比較した報告があるが効果は限定的であった。

在宅でのPRでは指導者がついておらず、他方、センターでは指導者が付き添ったPRであった。


・Tele-PRは現在、米国では保険採用となっていない。安全であり、効果的であることが判明した。なお、本研究での参加者の半数は在宅酸素療法を実施していた。




 コロナ渦の中にあって、外来通院型のPRは継続が困難になっており、世界的にもPRの継続について見直しが迫られています。両論文は、ビデオを利用してセンター病院とPRを継続しようと考えたものです。英国論文は、いわばセンター完結型に近いのに対し、カナダ論文は地域の小規模なPRセンターとの連携を加えたものです。研究を指導した一人Jean Bourbeauは私の旧知であり長年、PRに熱心に取り組んで研究者です。特に医療連携を重視しています。前者の結果は失敗であり、後者が成功パターンでした。COPDの長期治療は地域における医療間の連携抜きには考えられないと思われます。後者の論文にもありますが特に、医療者間の連携、一定の医療レベルを保つことなど小規模施設でのスタッフ教育も課題となるでしょう。


 継続実施という点では、患者さんサイドにdigital literacy (コンピューターを使った読み書き能力)が要求されることになります。私の外来には、90歳近くでもパソコンを操作し、検索をしたり、Webでソーシャル・ネットワーキング・サービス (Social networking service; SNS)を楽しんでいる人が少なくありません。これらを活用して新しい形のPRを継続しようとする動きは急速に進むような気がします。




参考文献:


1.Barker RE. et al. The effects of a video intervention on posthospitalization pulmonary rehabilitation uptake: A randomized controlled trial

Am J Respir Crit Care Med Vol 201, Iss 12, pp 1517–1524, Jun 15, 2020

Originally Published in Press as DOI: 10.1164/rccm.201909-1878OC on March 17, 2020


2.Alwakeel AJ. el al. The accessibility, feasibility, safety of a standardized community-based Tele-Pulmonary rehab program for COPD: A 3-year real-world prospective study

Ann ATS: articles in press. Published June 25, 2021. DOI:10.1513/AnnalsATS.202006-638OC


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