• 木田 厚瑞 医師

No.201 肥満と間質性肺炎の因果関係


2021年9月13日


 米国では国民の約40%が肥満に相当し、これが原因で肝硬変、糖尿病、心血管疾患などが発症、悪化することから社会問題として重要視されています。


 睡眠時無呼吸症候群や喘息が肥満と関わっていることは知られています。肥満はその他の呼吸器疾患にはどのように関わっているのか。2015年、米国で肥満と呼吸器疾患との関係について、問題点と今後の研究の方向性についてワークショップが開催されました[1]。


これを受けて、最近、疫学統計のデータから、肥満と間質性肺炎(ILD)が密接な関係があるのではないか、という論文が発表されました[2]。原因や治療法が難しいILDを「肥満」という一つの病気との接点を見直すことにより新しい治療法を工夫しようとするものです。




Q.2015年開催ワークショップの目的は?


肥満と呼吸器疾患の関係という問題について以下を決める。

1.研究の優先順位を決めること。コラボレーションを開発し研究推進を図ること。

2.この知識をより広い科学および医学界に広めること。




Q.肥満と呼吸器疾患の関わりについてのワークショップでの結論は何か?


以下が要点である。


肥満と喘息の関係では遺伝的リスクの変異が重要な要因である可能性がある。

 ➡リスクの高い人がいること。また、リスクが高い人の予知が可能とすること。


・大気汚染、特定の食事成分などの環境要因が、肥満と呼吸器疾患に関連する一因となっている。

 ➡肥満を起こす食事だけでなく居住環境での大気汚染が加わっている。従って起こしやすい環境の居住者がいる。


・肥満を介した代謝機能が調節不全になっている肥満の人が喘息を起こす機序の解明。

 ➡肥満が喘息の発症、悪化に結び付く機序を解明し、治療法の開発に結び付ける。


ミトコンドリア機能の変化が、呼吸器疾患に対する感受性の増加に関係する可能性がある。


 注)ミトコンドリア(mitochondria)は真核生物の細胞小器官である。二重の生体膜からなり、独自のDNA(ミトコンドリアDNA=mtDNA)を持ち、分裂、増殖する。mtDNAは酸素呼吸(好気呼吸)に関わる。代謝の活発な細胞に数百、数千個のミトコンドリアが存在し、細胞質の約40%を占めている。


・肥満に関連した脂質代謝の異常は、肺の免疫応答に深刻な影響を及ぼし、肺疾患の病因に重要な役割を果たしている可能性がある。




Q.研究を進めるにあたっての大きな仮説は何か?


肥満と喘息の関係についての仮説を図示したものが図1である。


(図1)Suratt BT et al. An Official American Thoracic Society Workshop Report: Obesity and Metabolism An Emerging Frontier in Lung Health and Diseaseより一部改変

肥満による代謝調節不全、全身性炎症、および呼吸機能障害の間には複雑な相互作用がある。

肥満を介した代謝調節不全には、(1)インスリン抵抗性とその下流効果(青い矢印)および(2)脂質異常症とその下流効果(赤い矢印)が含まれる。インスリン抵抗性と脂質異常症はしばしば共存する。肥満は、全身性炎症、Th細胞分極および単球活性化にも関連している(緑色の矢印)。代謝調節不全と肥満によって媒介される炎症は、肥満関連喘息に特有の呼吸機能障害と関連している。インスリン抵抗性自体が、呼吸機能の低下に関連している。




Q.肥満と呼吸器疾患の関係について判明していることは何か?


以下が近年、進歩した重要な概念である。


・肥満は、食事および環境への曝露、腸内細菌叢、全身および細胞の代謝、免疫機能、および肺の生理機能の変化に関連している。これらの各要因が、呼吸器疾患の発症に寄与する可能性がある。


ミトコンドリアの機能障害と酸化ストレスが、さまざまな呼吸器疾患が発症する重要な病理学的特徴である。


・ミトコンドリアの代謝回転の欠陥は、加齢に伴う呼吸器疾患の病因の根底にある可能性がある。


肺と腸のマイクロバイオームは、アレルギー性と非アレルギー性の両者で気道過敏性に影響を与える可能性がある。


肺と腸のマイクロバイオームは、アレルギー性と非アレルギー性の両方の気道過敏性に影響を与える可能性


血清のメタボロミクスおよびマイクロRNA分析により肺疾患の原因となる肥満関連のイベントを特定する可能性がある。

新しい検査方法を確立する方向性を提言した


・肥満を介した代謝調節の機能不全は、おそらく全身性炎症を媒介することにより、呼吸機能障害に関連している。

➡肥満が全身性の炎症を伴っている可能性がある。


・代謝の調節の機能不全により生ずる脂質異常症と比較したインスリン抵抗性は、さらに免疫学的な変化を起こし、それが呼吸器系に影響を及ぼす可能性がある。


上記の提言を受けて最近、発表された研究結果が以下である[2]。




Q.研究の仮説:


肥満による脂肪組織から放出される物質が肺損傷を起こし、間質性肺炎(ILD)を起こしているのではないか?




Q.研究方法


・MESA ( Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis;アテローム性動脈硬化症の多民族研究)と呼ばれる研究グループによる。

臨床的に明らかな心血管疾患のない45歳から84歳までの6,814人の成人を登録し、継続的な多施設前向きコホート研究である。登録は2000年から2002年の間に行われ、その後6回の追跡調査が行われた。


・研究のユニークな点は胸部CTで見られる心膜脂肪組織(心臓陰影の周囲の脂肪組織の面積(PAT)、皮下の脂肪組織の面積(SAT)、内臓脂肪組織の面積(VAT)を測定してこれと、胸部CTで数値化したILDの所見とを統計学的に明らかにした。また大動脈のカルシウム沈着の測定のために腹部のCT画像診断を実施した。




Q.結果は?


・完全に調整されたモデルでは、心膜脂肪組織量が2倍になるたびに、胸部CTで間質陰影増強の指標となるHAAが63.4単位増加し(95%CI、55.5-71.3)、ILA(肺の異常な間質陰影)のオッズが20%増加した(95%CI、–2%から50%)。これと一致して肺機能検査でILDの指標となる予測FVC(努力性肺活量)の割合が5.5%減少した(95%CI、–6.8%から–4.3%)。


・血液中のILDの指標の一つであるIL-6レベルは心膜脂肪組織とHAAの間の関連の8%を占めた。内臓脂肪組織領域が2倍になるたびに、HAAが41.5単位増加し(95%CI、28.3-54.7)、ILAのオッズが30%増加し(95%CI)で-10%から85.4%になった。


・予測されるFVCの割合の減少があった(95%CI、–6.6%から–4.3%)。IL-6とレプチンは、内臓脂肪組織とHAAの関連性のそれぞれ17%と18%を占めた。


 注)レプチン (leptin) は 脂肪細胞 によって作り出され、強力な飽食シグナルを伝達し、交感神経活動亢進によるエネルギー消費の増大をもたらす。 肥満の抑制や体重増加の制御の役割を果たすペプチドホルモンであり、食欲と代謝の調節を行う。




Q.結論は何か?


・大規模で多施設間での共同研究で、心膜および腹部の内臓脂肪組織の量が多いと、胸部CT所見で間質性肺の異常、高減衰領域の増加、およびFVCの減少と関連していた。


・この関連は、レプチンとIL-6によって部分的に媒介される可能性がある。


・CTイメージングでの脂肪組織の定量化により、脂肪症がILD予防の新しい標的として特定され、脂肪組織が肺に及ぼす影響の重要性が明らかになった。


・BMI(body mass index)は肥満の指標としては不十分であり、性別や人種/民族によって大きく異なる。本研究では BMIではなく脂肪蓄積サイズの使用、心膜および内臓脂肪症と無症候性ILDとの間の新しい関連性を特定することができた。




 普段、臨床的に診るILDの患者さんには、肥満気味の人が多い印象はあります。

胸部CTで観察した異常陰影が、心臓周囲および内臓脂肪の量と統計学的に相関することから明らかにした結果ですが、多民族にわたる共通の病態として仮説を証明し得たことに意義があります。

 心臓周囲および内臓脂肪蓄積は、動脈硬化を促進することが知られていますが間質性肺炎にも関わる可能性を明らかにしたことから、肥満を防ぐための栄養指導は治療の一つのポイントとなってきたともいえます。




参考文献:


1. Suratt BT et al. An Official American Thoracic Society Workshop Report: Obesity and Metabolism

An Emerging Frontier in Lung Health and Disease

Ann Am Thorac Soc Vol 14, No 6, pp 1050–1059, Jun 2017

DOI: 10.1513/AnnalsATS.201703-263WS


2.Anderson MA et al. Adiposity and interstitial lung abnormalities

in community-dwelling adults: The MESA Cohort Study

CHEST 2021; 160: 582-594

DOI: https://doi.org/10.1016/j.chest.2021.03.058


※無断転載禁止

16回の閲覧0件のコメント

最新記事

すべて表示

No.157 間質性肺炎の発症機序:研究の新展開

2021年4月1日 間質性肺疾患(ILD)は、肺の組織が広範囲に炎症、線維化を起こし、呼吸によるガス交換の働きが損なわれてしまう病気です。 ILDは、原因、検査や、経過などで細分類、細細分類していくと100種類を越えるのではないかと云われます。その代表は、発症の原因が不明の特発性間質性肺炎(IPF)と、その対極にあるのが、カビなど特定の物質を吸うことによる原因があり発症する過敏性肺炎です。後者はく