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No.225 アトピー性皮膚炎の患者でみられた死亡リスク

2022年1月6日


 アトピー性皮膚炎は喘息と共存することが多く、喘息の治療では皮膚科医との連携が必要となることがあります。

アトピー性皮膚炎が死因に関係するというデータは必ずしも多くはありませんが、近年、一部の専門家は危険性を指摘していました。


本研究は、アトピー性皮膚炎と関連した死亡率の高さを指摘した論文です。

英国の膨大な患者データをもとに英米およびデンマークの専門家グループによる共同研究であり、中等度以上の重症のアトピー性皮膚炎では特に緊急性が高い結果であると報告しています。




Q. 研究の背景は?


・アトピー性皮膚炎の頻度は、国際的には成人の10%と言われている。世界的に増加傾向にある。


・特徴的な問題点は、痒み、不眠、治療薬による副作用によるQOL低下である。


・アトピー性湿疹の約30%は中等ないし重症だと云われる。


・近年の研究では、皮膚症状やアレルギー性疾患との関係だけではなく、生命予後に関わることを指摘している


・例えば、アトピー性皮膚炎が心疾患による死亡と関係すると云う報告がある(Silverwood RJ et al. BMJ 2018)。さらに最近の報告ではアトピー性皮膚炎では心筋梗塞、脳梗塞、狭心症、心不全が多いと云われる。これはその後の追跡調査でも同様であった。


・しかし、アトピー性皮膚炎で死亡リスク全体がたかまるという報告はほとんどない。


・これまでの報告では、少数例の報告にとどまっている。


この研究の目的は、英国の成人の多数例でアトピー性皮膚炎が死亡およびその原因と関係しているかどうかを調べた。




Q. 研究方法は?


・UK Clinical Practice Research Datalink (CPRD)のデータベースをもとに解析。


・対象は、18歳以上。研究期間は、1998年より2016年まで。


・アトピー性皮膚炎ありとなしの群の統計学的比較。比較項目は、疾患だけでなく生活習慣の差異まで細かく比較検討している。




Q. 結果は?


・計約300万人を調査対象とし、アトピーあり(n=約52万7000人)とアトピー性皮膚炎なし(n=約256万8000人)を比較した。平均年齢は41.8歳。平均4.5年間の追跡調査。


・アトピー性皮膚炎の死亡原因の最多は、循環器疾患と悪性腫瘍であった。他方、感染や尿路系疾患は少なかった。


・アトピー性皮膚炎で死亡者の平均年齢は83.2歳。


・一次的な解析では、アトピー性皮膚炎ありはなしと比べて死亡リスクの差異は小さかった。

HR=1.04, 99%CI=1.03-1.60。


・しかし、死亡原因別に検討するとその差異は明瞭だった。

感染症との関係➡HR=1.14, 99%CI=0.98-1.32

消化器疾患との関係➡HR=1.11, 99%CI=1.03-1.19

尿路系疾患との関係➡HR=1.08, 99%CI=0.96-1.20


・全死亡原因は、100,000人・年あたり62人(99%CI=40-84)

死因に関連した疾患では悪性腫瘍が10万人・年あたり24人(99%CI=12-35)。

循環器疾患は10万人・年あたり18人(99%CI=5-31)

感染症では、HR=1.4%, 99%CI=-0.2-3.1

消化器疾患では、HR=1.1%, 99%CI=0.3-1.8


・喘息との確定した関係では男性18-39歳。40-59歳では強い関係があった。


・重症のアトピー性皮膚炎は、計約3万4千人。フォロアップの期間内の死亡総数は4,446人。


・アトピー性皮膚炎なしと重症のアトピー性皮膚炎の死亡の比較では

感染症の関係では➡ HR=2.85, 99%CI=1.78-4.55

呼吸器疾患との関係では➡ HR=2.20、99%CI=1.91-2.53

尿路系疾患との関係では➡ HR=2.10、99%CI=1.43-3.07

その他の原因との関係では➡ HR-1.62, 99%CI=1.54-1.71


死亡者全体ではHR=1.62, 99%CI=1.54-1.71




Q. 考察は?


・重症や活動性の高いアトピー性皮膚炎ではなしの群と比較すると死亡率が高い


・従来報告は以下の通り。

オランダからの報告ではアトピー性皮膚炎で入院経験者の10年間のフォロアップ

➡アトピー性皮膚炎なしと比較すると死亡率は71%増加した(Egeberg A. et al, J Am Acad Dermatol 2017; 76:98)。

筆者らの既報(Tyssen JP et al. J Am Acad Dermatol 2018;78: 506)では62%上昇した。

➡ 中等度以上では死亡率増加と言う結果と一致


・アトピー性皮膚炎で死亡率上昇の原因は、皮膚のバリア破壊、免疫学的異常に関連している可能性があるが詳細は不明。

治療で使用される免疫抑制剤の可能性もあるが、それを補正しても関連性は低下しなかった。


・重症者、活動性が高いアトピー性皮膚炎では循環器疾患による死亡が増加。その機序としては運動の減少、睡眠の質の低下疑いがある。


・子どものアトピー性皮膚炎では腎疾患のリスクが高いと云う報告がある。

治療で使うサイクロスポリンの影響で慢性腎障害が増加するという研究がある。


・呼吸器疾患でリスクが増加した理由は、具体的な病名では、喘息の診断がきちんとついていなかったか、あるいは薬物の副作用、特にアザチオプリンの可能性、あるいは喫煙歴がありうる。




Q. 結論は?


・重症のアトピーでは皮膚だけでなく全身管理が重要である。全身治療を行うことにより全身的な炎症が改善する可能性がある。




 本論文では、中年男性の重症に近いアトピー性皮膚炎では、特に全身の管理が大切となることを示唆しています。

 重症のアトピー性皮膚炎では、ほとんどの患者さんは皮膚科で専門的な継続治療を受けています。中には、喘息を合併している患者さんがかなりみられ、必要に応じて、呼吸器内科医は皮膚科の専門医と連絡をとりながら治療を行うことが必要であることを強く示唆しています。また、アトピー性皮膚炎が全身症状の一つであり、死亡原因が多彩であることを示しています。

 長い経過の病気であるからこそ、異なる領域の担当医が細かく連絡を取り合うことの必要性を強く示唆しており大変、参考になります。




参考文献:


1.Silverwood RJ et al. Atopic eczema in adulthood and mortality: UK population–based cohort study, 1998-2016. J Allergy Clin Immunol 2021;147:1753-63.

https://doi.org/10.1016/j.jaci.2020.12.001


※無断転載禁止

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