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No.232 呼吸リハビリテーションを開始すべき時期とは

2022年1月17日


 COPDは、現在、世界の死因の第3位です。病気が進行していけば、健康状態が次第に低下し、健康寿命が短くなること、日常活動が次第に低下していくことで、医療費が増大するだけではなく、家族、および社会の負担が多くなることが問題となっています。

高度の医療制度が存在する米国などの先進国でもCOPDの有病率が高く、対応策に苦慮していることは、この病気に対処するための現在の医療の態勢が依然として不十分であることを示唆しています。


長期的な戦略では、若い世代でこれ以上のCOPDが増加しないよう、禁煙だけでなく日常の生活で注意すべき点を知らせていくべきですが、さしあたって現在、困っているCOPDの患者さん方の対策を急がなければなりません。


重症のCOPDの治療法でもっとも必要で、しかも対策がもっとも遅れているのが呼吸リハビリテーション(PR)です。英米は、いずれもPRにもっとも力を注いでいる国々として知られていますが、そこでも対策はうまくいってはいません。

 ここで紹介する論文[1]は、米国におけるPRの実態を明らかにし、今後の対策を論じたものです。




Q. COPDの問題点は何か?


・COPDは、世界中で最も多い慢性疾患の1つである。経過中に「増悪」という一時的な症状悪化が起る。


・COPDの増悪は、米国で年間150万人以上の救急科への訪問と70万人の入院があり、COPDの年間医療費の約半分を占めている。


・COPDの増悪で入院しメディケア受給者65歳以上のうち、約20%が退院後30日以内に再入院しており、64%は、退院後の1年以内に再入院している。




Q. 本研究の内容は?


目的:退院後90日以内のPRの開始と再入院との関連を評価すること。


方法:2014年にCOPDで入院し、退院後少なくとも30日生存したメディケア受給者(66歳以上)の後ろ向きコホートを分析した。


結果:多状態モデルを使用して1年で再発するすべての原因による再入院のリスクを推定し、競合する死亡リスクを計算した。4,446の病院に入院した197,376人の患者のうち、2,721人の患者(1.5%)が退院後90日以内にPRを開始した。全体として、PRを開始した1,534人(56.4%)の患者と、PRを開始しなかった125,720人(64.6%)の患者は、退院後1年以内に1回以上再入院した。PR開始は、PR開始の翌年の再入院のリスクの低下と関連していた(ハザード比0.83; 95%信頼区間0.77–0.90)。

1年での再入院の平均累積数は、90日以内にPRを開始した人で0.95、開始しなかった人で1.15(P <0.001)。


結論:COPDによる入院後、退院後90日以内にPRを開始したメディケア受給者は、1年間で再入院が少なかった。




Q. COPDにおける治療としてのPRの位置づけは?


・PRは、COPD患者の心身の状態を改善し、健康増進行動を促進することを目的とした、運動、自己管理教育、およびサポートの構造化されたプログラムである。薬物治療としての気管支拡張薬療法と並行して行うべきである。


・現在のCOPDの治療ガイドラインでは、COPDは増悪して入院した場合に3週間以内にPRを開始することを勧めている。


・通常の臨床診療環境での再入院を防ぐためのPRの有効性についてはほとんど知られていない




Q. 問題点は何か?


・PRを受けたグループと受けなかったグループの両方のグループで再入院のリスクは極めて高頻度である。


・他のデータでも、PRの実施率は長期的に継続し、入院から6か月以内にPRを受けた患者は1.9%、退院後12か月でPRを受けた患者は2.7%にすぎない。


・PRの活用不足の問題は複雑であり、PRに関する知識の欠如とその後の医療提供者によるPRへの紹介、PRに紹介された患者の取り込み率と完了率の低さ、既存のプログラムに対する資金不足と制度的支援の不足など、複数の要因が含まれる。


・これら要因の重なりの原因として、PRプログラムが少なく、患者数が多いが実施しているところが少なく、通院が難しくなることがその後の健康格差を生み出している。


在宅プログラムや遠隔リハビリテーションなどのPR配信の新しいモデルを強力な研究努力の下で開発させる必要がある。




 COPDに対する危機感は、米国とわが国では大きな開きがあります。2020年のわが国の死因統計の中で10位までにCOPDは入っていません(図1)。


図1

出典:厚生労働省 令和2年(2020) 人口動態統計月報年計(概数)の概況より


日本人が米国人と比べて特にCOPDに罹患しにくいというデータはないので恐らく、肺がんを除く呼吸器疾患は3位の老衰(9.6%)、5位の肺炎(5.7%)、6位の誤嚥性肺炎(3.1%)で計18.4%のうちにかなりのCOPDの増悪による死亡が加わっている可能性があります。

呼吸リハビリテーションの実施が低調である点は米国と同様ですが、在宅リハ、遠隔リハはわが国でも取り組める課題と思われます。私たちは試験的に、在宅呼吸リハを広める目的でビデオを作成しています。当院のYouTubeを参照して下さい。




参考文献:


1.Stefan, MS. et al. Association between Initiation of pulmonary rehabilitation and rehospitalizations in patients hospitalized with chronic obstructive pulmonary disease

Am J Respir Crit Care Med Vol 204, Iss 9, pp 1015–1023, Nov 1, 2021 Originally Published in Press as DOI: 10.1164/rccm.202012-4389OC on July 20, 2021


2.Nici, L. Pulmonary rehabilitation after a chronic obstructive pulmonary disease exacerbation: impact on readmission risk in a real-world setting

Am J Respir Crit Care Med Vol 204, Iss 9, pp 1005–1014, Nov 1, 2021 Originally Published in Press as DOI: 10.1164/rccm.202107-1768ED on August 19, 2021


※無断転載禁止

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