2022年6月13日
間質性肺炎は種類も多く、診断方法、治療法が複雑です。近年になり胸部CT撮影の技術が進み、病理解剖の所見との対比が進み初期の病変や治療による進行の差が明らかにされてきました。間質性肺炎は、近年、増加していると言われます。恐らく、環境の変化や高齢化社会を反映していると考えられます。初期の病変や悪化していく経過が簡単に判断できるものがあればとても便利です。
ここで紹介する論文[1]は、血液検査から推定できる方法で、きわめて簡便な測定方法でできることを示唆するものです。Fleischner Societyからの進言ですが今後の再確認が強く望まれます。
Fleischner Societyについての歴史的な変遷から述べます。
Q. Fleischner Societyとは何か?
・Fleischner Societyは1968年より現在に至るまで継続している学会である。当時、英米の8人の放射線診断医たちが診断技術を向上させるために病理学者たちと組んで読影技術の研究会を立ち上げたのが始まり。提唱者のFleischnerが心筋梗塞で急逝したため彼の名前を会の名称とした。
Q. 発見しにくい早期の間質性肺炎とは?
・最近、Fleischner Societyは、胸部のレントゲン撮影を行ったときに症状は全くないのに偶発的に間質性肺炎が発見されることが多いことを警告した[2]。
・以下が要点である。
注:胸部CTで認められる間質性病変を本論文では、ILAと呼んでいる。これは胸部CT上の変化で間質性変化を意味する名称であり、必ずしも間質性肺炎を意味するものではない。
1)初期の間質性肺異常(ILA)は、特に高齢者において、胸部CTで偶発的によく見られる所見である。
2) ILAの存在は、死亡率の予測因子であり、変化が見られることが将来の死亡リスクが高いことを示唆する。
3) ILAの約20%が2年間で進行し、40%以上が5年間で進行する。
4) 胸膜下に変化が強い線維性ILAを有する人は、進行する可能性が最も高い。
5) ILAは、間質性肺疾患の潜在的な危険因子である。
6) ILAがある場合には臨床的な問題点や機能的障害を決めることが必要である。
7) 臨床的に重要な間質性肺疾患あるかどうかを検証することが重要である。
8) 60歳以上の高齢者では最大10%に胸部CTで偶発的なILAが発見される。
Q. 間質性肺炎のリスクとは?
・高齢、喫煙、長期間の大気汚染の曝露被害などが発症要因。胃食道逆流症がリスクとなり、肺がんの合併リスクが高くなる。
Q. 本研究はどのように進めたか?
研究目的と方法
目的:
肺間質性病変の進行を示す簡便な指標を開発する。
方法:
これまで動脈硬化、加齢、COPDの研究を通して4つの大きな研究グループが多くの人の協力を得て人のデータを収集してきたが、それらを統合し検査結果を解析した。
4つの研究とは、MESA (Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis, n = 484), AGES-Reykjavik (Age/Gene Environment Susceptibility Study, n = 3,547), COPDGene (Genetic Epidemiology of COPD, n = 2,719), and the ECLIPSE (Evaluation of COPD Longitudinally to Identify Predictive Surrogate End-points, n = 646) の計7,396人を対象とした追跡調査である。
・これらの対象患者の胸部CTで間質性肺病変(ILA)の有無と血液中の単球の総数の関係を調べた。
結果:
・共変量の調整後、血中における単球数の増加と胸部CTでのILAの関係は、MESA研究(オッズ比[OR]、1.3; 95%信頼区間[CI]、1.0–1.8)、AGES-レイキャビク研究 (OR、1.2; 95%CI、1.1– 1.3)、COPDGene研究(OR、1.3; 95%CI、1.2–1.4)、およびECLIPSE研究(OR、1.2; 95%CI、1.0– 1.4)であった➡4つの対象グループで共通してOR=1.2-1.3であった。
・さらにAGES-レイキャビク研究では5年間のILA進行と関連していた(OR、1.2; 95%CI、1.0–1.3)。
・MESA研究では単球の活性化を示す生化学的な指標につきILAのない参加者と比較するとILAのある参加者では活性化された単球の割合が高かった。単球数が多いほど、胸部CT変化が大きかった。また、MESA研究と COPDGene研究では単球数が多いほど努力性肺活量(FVC)が低くなった。他の免疫細胞型の関連は一貫性が低かった。これらは、血中の単球数が間質性肺炎と深く関わっていることを示唆する所見である。
結論:
血中単球数が多いほど、CT画像の上で間質性肺炎と関係し、肺機能検査の上で肺活量低下などその進行と関連していた。
考察:
1) 最近、肺線維症の病因における自然免疫の重要な役割を指摘する証拠として血中の単球すなわち単核食細胞系に特に焦点を当てたが増えている。
2) その理論的な背景は以下の通りである。肺の損傷部位では、単球はマクロファージと樹状細胞に分化し、そこで病原体と炎症反応の除去を促進し、TGF-β、IL-10、およびアルギナーゼ-1に関わるがこれらはすべて、肺線維症の原因となるコラーゲンの組成と産生に関わっている。
3) 他方で、単球と関わり合いの深い肺胞マクロファージを減少させるとマウスモデルのブレオマイシン誘発性肺線維症を軽減する。線維化促進遺伝子 は、正常と比較して、ヒト線維性肺からのマクロファージでアップレギュレートされる。末梢単球はまた、線維細胞、TGF-β1、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、および線維芽細胞成長因子の分泌を通じて創傷治癒を促進する間葉系細胞に分化し、肺線維症に 関与している。
4) 免疫細胞の種類の中で、末梢血の単球の異常な集団は、特発性肺線維症(IPF)の患者の無移植生存率の悪化と強く関連している。同じ研究では、絶対単球数が多いほど、IPF患者の複数の コホートでの生存率が低下し、再現されている。
まとめ
要約すると、血中単球数が多いほど、間質性肺異常の負担が大きくなり、CT画像での進行と成人のFVCの低下に関連していた。単球―マクロファージのサブセットとILDの初期段階での機能を調べる研究が必要である。
本論文は、医療での対応が難しい間質性肺炎について日常、実施している簡単な検査データがヒントになることを示唆する好論文です。7,000人以上の人の協力を得て長い経過をフォロアップした結果に基づいています。
血液の中の単球の役割はこれまで不明の点が多かったのですが、間質性肺炎との関係が注目されたおかげで、他の病気についても関連性を注目する論文が出始めています。
簡単な検査を通して、複雑な病気の発見や、経過中の変化を診ることができるようになれば各段の進歩です。結果について今後の追跡、発展を期待したいと思います。
Kommentare