2019年12月26日
"アレルギーを特徴とする喘息では、好酸球が軌道の壁に広く存在し、これこそが病変を作りだしており、そのための有効な治療は吸入ステロイド薬(ICS)を使うことである"
ICS治療は医療者の常識に近い情報となっています。
しかし、実際はICSを使っている患者さんで病状が改善している人は半数に過ぎないとも報告されています。
効かない理由は、指示された通りに患者さんが正しく使っていないことにあるのではないか、との指摘があり、呼吸器を専門にしている医療機関では吸入指導に力を入れています。
ICSは痰の中で好酸球が2%以上に増加しているときに効果があることが判明していますが、実際は軽症の喘息で痰の中に好酸球がいる人は半数に過ぎないことが判明しています。
最近、米国の一流医学雑誌にされた論文は、軽症で症状が持続する喘息をICSで治療する際の問題点を報告しています。
軽症で、長く続く喘息で喀痰中の好酸球が少ない場合(2%以下)に、ICS治療と抗コリン薬吸入薬のチオトロピウムの効果と薬が入っていない偽薬との効果の違いを厳密に検証したものです。
この研究では、ICSとしてモメタゾン吸入薬、抗コリン薬吸入薬のチオトロピウムとそのどちらでもない偽薬の3種類を使い、使っている人に全く分からないように同じ形状のものを使いました。
試験期間は42週間です。この期間を3つに分け、それぞれの薬を分からないように3回入れ替えて比較しました。
喘息の診断は極めて厳密に行い、痰の中の好酸球が2%以上と以下の人で比較しています。2%以上はアレルギー反応がより強いと考えられています。
対象は12歳以上の喘息患者で計564人が参加しています。
その中でも途中で問題がある人を除外、最終的には好酸球が少ない人は176人(73%)、多い人(2%以上)は65人を比較しています。
なお、この治験は米国で喘息を専門に治療している24か所の医療機関で実施されました。
Q. 好酸球が少ない喘息での薬の効果比較
痰の中の好酸球が少ないグループの薬剤の効果はまちまちです。
ICSと抗コリン薬、偽薬の間で効果に差はみられませんでした。すなわち、このグループの57%の患者でICSの効果が認められましたが、他方、偽薬でも47%に効果があり、統計的にICSが優れているとは結論できませんでした。
これに対し、抗コリン薬は60%に効果があり、偽薬では40%であり、統計的
に前者が優れていました。
これが、この論文の結論です。
Q. 好酸球が多い喘息での薬の効果比較
ICSは偽薬よりも統計的に有意の効果があり、抗コリン薬では偽薬と比べて差がありませんでした。
この結果は、いわばこれまでの予想通りの結果です。
Q. ICSは喘息の万能薬か
これまでは、喘息の治療にはICS吸入を使用しなければ炎症が続く結果、軌道は次第に厚くなりさらに重症になると考えられてきましたが、必ずしもそうではないという意見があります。
特にアレルギー反応が低い、低T2反応と分類される喘息の人ではICSの効果は乏しいと云われてきましたが、今回の研究でこれが明確になりました。この論文で述べているように、現在の喘息の治療ガイドラインの見直しが必要ではないか、ということになります。
漫然とICSを使用することは医療費の高額化と一部のICSでの副作用としての軌道感染、肺炎が起こりやすいことが判明しており、この点からも見直しが必要でしょう。
この研究では3週間ごとに厳密に痰を取り、その中に含まれる好酸球を数え、2%で区切って効果を検証しています。費用からも手間からも診療現場ではとても同じことはできませんが、血液中でのある程度の推定が可能です。
また、長期的な治療効果は厳密な肺機能検査を定期的に実施して確認しながら治療を継続すべきでしょう。
なお、抗コリン薬吸入薬は多種が使われていますが、喘息に効果があるのはチオトロピウムだけです。
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