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No.276 高度の肥満は呼吸器疾患を悪化させる


2023年5月8日


 肥満者が多い欧米では、肥満は糖尿病や心血管疾患を起こす原因と知られています。他方で肥満は呼吸疾患とも深く関わっていることが多くの研究成果から明らかになっています。


わが国でも近年、肥満が医療上の問題点となってきています。「肥満」と「肥満症」、さらに「メタボ」と略語で呼ばれることの多いメタボリックシンドロームは厳密に区別されています。

「肥満」は「太っている状態」を指す言葉で、病気を意味するものではありません。しかし、合併症が有る場合、または合併症になるリスクが高い場合、「肥満症」と診断され、医学的な減量治療の対象となります。「メタボリックシンドローム」は「内臓脂肪症候群」といわれ、肥満とは無関係に内臓脂肪の蓄積および血圧、血糖値、血清脂質値のうち2つ以上 が基準値から外れている場合に診断されます。

ちなみに、日本肥満学会の基準では、肥満はBMI≧25、肥満症はBMI≧25で決められた合併症の慢性疾患のうち一つ以上が当てはまる場合であり、他方、メタボリックシンドロームは腹囲が男性で85㎝以上、女性では90㎝以上と定義されています。肥満症に入っている慢性疾患のうち、呼吸器疾患は睡眠時無呼吸症候群のみで他の呼吸器疾患は、入っていません。


最近、肥満と深く関わっている各種の呼吸器疾患が問題となっています。ここでは、最近、呼吸器臨床医が知るべき情報として解説した論文が発表されました[1]。その要点を説明します。




Q. 肥満にかかわる呼吸器疾患の問題点は?


 肺機能検査では下記の項目に異常がみられる。異常は肺の構造の異常と呼吸運動を助ける肺を取り巻く呼吸筋などの異常に分けられている。


・呼吸筋の持久力の低下 ➡ 横隔膜が重要であるが、健常者では疲労に陥ることがないはずの横隔膜が肥満者では疲労することがある。

・肥満性低喚起症候群  ➡ 肥満により肺が腹部から押し上げられ小さな呼吸となる。

・気道抵抗の増加    ➡ 肺の中に生ずる異常として気管支の内部を流れる空気が流れにくくなる。COPDや喘息の悪化に関連する。

・気道過敏性の亢進   ➡ 気道を空気が流れるときに咳き込みなどを起こしやすくする。COPDや喘息の悪化に関連する。




Q. 肥満がリスクとなる呼吸器疾患は?


・肺血栓症   ➡ 多くは下肢に静脈血栓を起こし静脈の流れに沿って肺に至り

肺動脈に血栓が生ずる。

・肺高血圧症  ➡ 肺と心臓を結ぶ肺動脈の圧が正常を超えて高くなる。

・呼吸器感染症 ➡ 新型コロナウィルス感染症では感染を起こしやすくするリスクが高くなることが判明している。

・閉塞性睡眠時無呼吸症候群 ➡ 肥満が原因となることが多い。




Q. 呼吸機能測定値で肥満が影響する項目は?


先に述べた肺機能検査で測定すると下記の項目に異常がみられる。異常は肺そのものの異常と呼吸運動を助ける呼吸筋などの異常に分けられる。


・予備呼気量

・機能的残気量

・全肺気量

・肺活量/努力肺活量

・1秒量

・最大呼気中間流量

・肺拡散能力

・呼吸筋力

・呼吸筋力持久力 

・気道抵抗

・中枢神経刺激作用




Q. 肥満が全身の代謝に及ぼす影響は?


・全身性の炎症前段階に関係する。その結果、心血管病変、糖尿病に関連する耐糖能低下、悪性腫瘍の発症を起こりやすくする。

➡ これらの機序に関する作用物質の詳細が明らかになってきた。




Q. 肥満に関わる喘息の情報は?


・喘息とCOPDは気道の炎症に関わり、かつ呼吸生理学に深く関わっている。気道炎症の発症が肥満に関わっている。

喘息は欧米人ではBMI<25では7%の発症にすぎないが肥満があると11%に増加する

 ➡日本人ではより低いBMIで喘息が起こりやすい。


肥満者の喘息は増悪の頻度が高く、増悪による入院の頻度が高い。治療では肥満者は吸入ステロイド薬の効果が低い ➡ 治療が難しくなる




Q. 肥満に関わるCOPDの情報は?


・COPDと肥満の関係は複雑である。BMI増加とともにCOPD罹患率は増加する。しかし、COPDの重症度と罹患率の関係は複雑であり、肥満逆説(obesity paradox)と呼ばれている➡COPDでの肥満は死亡率が低下する。肥満者のほうが一秒量の低下速度が遅く、悪化が緩慢であるただし、肥満型COPDはやせ型COPDよりも心血管病変のリスクが高い




Q. 肥満と肺血管病変の関連は?


・肥満は肺高血圧、肺血栓症を起こしやすい。




Q. 肥満と呼吸器感染症の関係は?


 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックとなるまでは肥満と呼吸器感染症の関連性は不明であった。実験動物では、肥満動物でインフルエンザ感染症が起こりやすいことが判明していた。肥満では抗ウィルス反応が低下し、インフルエンザ感染により死亡率が高まることが知られている。


肥満がCOVID-19に罹患しやすくなり機序は以下の通りである。

 肥満ではアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)が高値となる。ACE2の受容体(ACE2-R)は新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)が細胞表面に付着し細胞内に入り込むルートである。

 ACE2-Rは肺胞の上皮細胞、肥満細胞に多い。したがって感染ルートとなる。

他の機序は、IL-6の発現と関係している。肥満細胞はIL-6発現のソースの一つであり、COVID-19の重症化に関連する独立因子として知られている。

その他、肥満との関連物質としてレプチンが知られている。レプチンは肥満で発現が増加する。

 細菌性感染症と肥満症との関連は複雑である。肥満症では呼吸器感染症が増加し、入院が必要な重症化が起こりやすい。しかし、生存率を比較すると肥満者のほうがやせている場合よりも高いことが知られ、肥満生存逆説(obesity survival paradox)として知られている。




Q. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群と肥満の関係は?


・閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)と肥満は密接に関係し、OSAの60-70%は肥満である(注:欧米人の場合)。体重は10%増加すると、OSAは6倍起こりやすくなる。




 肥満症が多い、欧米人では肥満と呼吸器疾患との関係を示す報告が多くあります。米国胸部学会では、肥満と呼吸器疾患の関連性を緊急的な報告事項としています[2]。わが国でも肥満者が増加してきていますが、欧米の研究成果から得られた数値は必ずしも日本人について当てはめることができません。比較的体型が似ている中国人では、肥満によるOSA急増が先に述べた多くの慢性疾患増加の原因となっており深刻さが指摘されています。

わが国でも肥満と呼吸器疾患の関連研究を深める必要があります。




参考文献:

1. Shah NM, et al. Respiratory complications of obesity: from early changes to respiratory failure. Breathe 2023; 19: 220263

[DOI: 10.1183/20734735.0263-2022].


2. Benjamin T. Suratt BT. et al. An Official American Thoracic Society Workshop Report: Obesity and Metabolism An Emerging Frontier in Lung Health and Disease.   

Ann Am Thorac Soc 2017; 14, 1050–1059.

[ DOI: 10.1513/AnnalsATS.201703-263WS]


※無断転載禁止

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