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No.277 個人的に異なる環境変化とCOPD増悪の関係を研究する


2023年5月24日


 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、慢性の息切れや咳、痰を特徴とする病気です。その原因はタバコが主と言われてきましたが喫煙者の約25%程度であり、発症にはそれ以外の原因が推定されていますが明らかになっていません。

 COPDの経過でもっとも問題になることは、症状が数日~数週間に急に悪化することがしばしばあり、治療がうまくいかなければ救急の入院治療が必要となることです。「増悪」と呼ばれるこの状態の予防ができれば治療の上では大きな進歩です。しかし、増悪の原因には多くが関わることが知られていますが実態は不明です。


ここで紹介する論文[1]は、増悪の原因を一人ひとりについて明らかにしていこうとする新しい試みです。論文では、その理論と方法を説明しています。

2022年度の米国胸部学会の優秀賞、BEAR Cage Winning 賞に選ばれました。




Q. COPDの発症と進行に関わる因子をどのように解析するか?


・COPDとは気道を流れる空気が流れにくくなる気流制限によって定義されている。

・原因の中では吸入毒としてタバコ煙が知られている。しかし、それだけでは説明がつかない。

・その他の原因には、無機、有機化学物質、粉塵、バイオマス、職業暴露、汚染、粒子状物質などがある。

・特定の暴露がCOPDの増悪を引き起こし、さらに病気の進行、死亡率の上昇、必要な医療費の高額化を連鎖として起こす。


➡ 増悪を起こす原因が感染を含む個人的な環境要因とどのように関係するかを決める方法がなかった。本研究はウェアラブル暴露サンプラーという新しい方法を開発し、個人レベルで包括的な評価を実施した。




Q. COPD増悪を起こす感染症とは?


・COPD増悪の大多数は感染症による。すなわち、すべての増悪の約70%は、ウィルスと細菌の両方の感染症に関連している。特にウィルスによる病因が多い。


・増悪を起こす主なウィルス➡ライノウィルス、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウィルス、パラインフルエンザ。


・増悪を起こす主な細菌➡肺炎球菌、インフルエンザ菌、モアクセラ・カタラーリス。




Q. COPDの増悪を起こす環境トリガーとは?


・大気汚染や浮遊粒子がある。後者には、ブラックカーボン、二酸化硫黄、二酸化窒素、一酸化炭素、オゾンなどがある。


・粒子状物質では、PM2.5の濃度がCOPDの入院と死亡リスクに関係している。


・多芳香族炭化水素、フタル酸エステル、農薬など一部の化学物質暴露は、呼吸器系の転帰不良と関連している。揮発性有機化合物やポリ臭化ジフェニールエーテルなど他の化学物質との関係を検証したデータは少ない。




Q. 増悪はどのようにして起こるか?


 増悪は、図1に示すようなサイクルで起こると考えられている。これはCOPDサイクルと呼ばれている。


「増悪」が治ってもその後は、肺機能や症状が元の状態に戻り切らない人がいる。一部では、増悪を繰り返すことがあり、この連鎖を断ち切る治療が必要である。



出典:Huston JC.Am J Resp Crit Care Med 2023; 207: 1271-1274より邦訳修正




Q. ウェアラブルパッシングサンプラーとは何か?


・これまでの研究方法は、大気汚染の調査のようにある地域全体における集団を対象とする調査であった。個人的に障害を受けやすい人がいることが判明してきた現在ではこのレベルで有害物質の時間的、空間的な測定を実施しても当てはまらない人がいる可能性がある。


・著者はさまざまな環境汚染物質や呼吸器系ウィルスによる個人的に有害暴露を測定できる機器を開発した。


・リストバンドおよび衣服に取り付けられるクリップ形式として着用して測定できる機器を応用した。これらの機器はすでに様々な集団で検証、研究されてきたがこれをCOPDの増悪因子の解明に用いたアイデアを評価された。


・環境暴露は、農薬、多芳香族炭化水素、揮発性有機化合物、ポリジフェニルエーテル、フタル酸エステルなどを含む数百種類の個々の汚染物質についてガスクロマトグラフィーと高分解能質量分析器によって測定される。




出典:Huston JC.Am J Resp Crit Care Med 2023; 207: 1271-1274より邦訳修正




Q. 従来の測定機器との違いは?


・粒子サイズのみを評価するこれまでの暴露モニターとは異なり、PM10 (粒子の直径が10μm以下)、PM2.5 の空気中の固体と液体粒子の複雑な混合物)および微生物学的分析としてコロナウィルス、ライノウィルス、パラインフルエンザ、アデノウィルス、呼吸器合胞体ウィルス、インフルエンザA/B、ヒトメタニューモウィルスなど幅広い呼吸器ウィルスの測定が可能である。この機器によるウィルス検出は非常に感度が高く、ウィルス遺伝物質14コピーについて低い濃度でも検出できることが証明されている。


・ただし、細菌暴露を検出しない。




Q. どのように利用するか?


・個人用サンプラーとして利用するほか、野外サンプラーが検査対象者の家の外に配置され、地域の環境暴露を評価する。


・ウィルス検出用の唾液や鼻腔ぬぐい液、血液を含む生物学的検体が収集された。


・参加者の医療記録として、肺機能検査、増悪歴、併存疾患、薬物使用などのデータを同時に収集し、解析する。




Q. COPD研究への利用計画は?


・COPD患者、喫煙者、非喫煙者を対象とした研究が進行中。


・パーソナルウェアラブルサンプラーを使用してCOPD患者に及ぼす広い範囲の外的な因子の解明を目指す。




 地球温暖化や環境破壊の中で現在、呼吸器疾患の治療を受けている人たちが多大な影響を受けている可能性がありますが、具体的な個別データはほとんど不明です。本研究はCOPDの増悪という点に絞りこんで今後の研究が進められる計画ですが、論文の中で短く記載していますが、過敏性肺炎や、肺がんの発生機序にまで個人的なリスク解明につながる研究を促進させる期待があります。

 2022年度の米国胸部学会の優秀賞、BEAR Cage Winning 賞の授与は2023年5月下旬で開催される学会で行われる予定です。また、機器開発は米国の企業で進められています。




参考文献:


1. Huston JC. 2022 American Thoracic Society BEAR Cage Winning Proposal: Passive respiratory exposure detection-Investigation of COPD triggers (PREDICT).

Am J Resp Crit Care Med 2023; 207: 1271-1274. Originally published in press as DOI:10.1164/rccm.202212-2316ED on March 23, 2023.


※無断転載禁止

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