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No.287 低体重でうまれた子供が成人後にCOPD となるリスク

2025年1月22日


 生まれたときの身体の完成度は、動物種により異なります。生まれたあと、短時間でも自分で動き廻る能力を持つ動物がいますが人間は、母親の庇護の下、乳幼児、小児期を経て成長し続けるゆっくり発育型です。さらに身体を構成する臓器の成熟度は、必ずしも同じではありません。中でも呼吸器系は、生後の発達期間が長く思春期の終わりごろでようやく完成に近づくゆっくり完成型です。


NICU(Neonatal Intensive Care Unit)は、新生児集中治療室と呼ばれ、早産児や先天性疾患や呼吸障害などをもって生まれた赤ちゃんの集中治療を行う場所です。わが国の新生児死亡率は、1000出生児あたり、0.9です(WHO, 2018年)。同年の比較では、韓国1.5, 米国3.7、スウェーデン1.6, 中国5.1などで新生児死亡率の低さは、わが国は世界で最高の水準です。


未熟児に対する治療法は、1990年代以降に急速に進歩しました。1967年、Northwayが、Bronchopulmonary dysplasia(略称、BPD)という病気が早産児に多いことを発表し、その治療の重要性を指摘しました[1]。これは、13例の早産児の報告で、死亡後の病理解剖の結果では、成人の肺線維症、肺気腫に相当する病気が指摘されたことから特に注目されました。治療として人工サーファクタントによる薬物治療、積極的なステロイド薬の投与に加え、人工呼吸器が使用されるようになり、1980年代には生存率がわずか、25%であったのが1990年代終わりごろには73%にまで改善しました。時代を経て現在では、BPDは、「未熟児の慢性呼吸器疾患」と呼ばれています。BPD時代やその後に生まれ、NICUなどで治療を受けた人たちが現在、中年期を迎えていますがCOPDと同じように咳、痰、労作時の息切れ、ときどき、症状が急に悪化する増悪を起こすことが判明してきました。肺機能検査でもCOPDと同じ低下がみられます。これは、すなわち、喫煙歴のないCOPDの増加です。しかも、若年期から症状が続くという問題点があります。


医療技術の進歩により現在、世界では毎年、多くの未熟児が生まれ、生存できるようになってきました。ここでは、「未熟児の慢性呼吸器疾患」の新しい考え方を紹介します[2]。




Q. 呼吸障害をもつ早産児の実態は?


・現在までに世界中では、7億人以上が未熟児で生まれ、その後、成長してきている。


・受胎より37週齢以前に生まれた未熟児の出生は約1,500万人である。

 80%以上の人たち➡32~<37週齢以降に出生。

 それよりも少ない数➡28~<32週齢に出生。

 さらに少ない数➡<28週齢で出生。

 ➡途上国での早産児の正確な実態は不明である。


・現在、NICU入室者の90%以上は生存退院する。しかし、一人当たり生涯の医療費総額は、50万USドルという高額に相当するという試算がある。


・37週齢以前の早産児では、中枢神経障害、代謝障害、心血管系および呼吸器系の障害を受ける可能性が高い。


・スウェーデンからの報告では、満期安産と比較して、30-45歳での死亡率は以下のように高率である。

➡最重症の未熟児の場合 2.04倍。高度の未熟児の場合 1.48倍。中等度の未熟児の場合は1.22倍。




Q.未熟児が成人後にみられる呼吸障害の症状および原因は?


・息切れ、咳、痰が多い。経過中に症状の急性悪化を示す「増悪」を起こす。


・アレルギー性の過敏症状を伴うことが多い。すなわち慢性喘息の診断を受ける可能性がある。


・母親妊娠中の喫煙習慣および乳幼児期の受動喫煙が原因となる。


・全ての未熟児に成人後に呼吸器症状が継続するわけではないが、妊娠36週齢以前の出産児では将来、息切れなどの呼吸器症状が持続し、肺機能が低下する可能性がある。


・中高年にみられるCOPDと症状や検査所見が類似しているが、同じように吸入薬が有効であるかどうかは不明である。




 先進国では、NICU(Neonatal Intensive Care Unit)を中心として医療技術の高度の進歩により未熟児の救命率が高まっています。妊娠後期から生後、思春期の終わりごろまで肺の成長、発育は続くため、この期間中に傷害を起こすと生涯にわたり、息切れ、咳、痰などの症状に苦しめられる可能性があります。妊婦の厳重な禁煙と健康管理、生後から思春期の終わりごろまで、「肺の健康管理」は厳重に行われる必要があります。長く続く息切れや咳、痰の症状を特徴とするCOPDや慢性喘息の患者さんをこれ以上、増やさないためにも妊娠初期からの注意が必要なことをこの論文は強調しています。




参考文献:

1. Northway WHJr.et al. Pulmonary disease following respiratory disease following respiratory therapy of hyaline membrane disease. Bronchopulmonary dysplasia.

N Eng J Med 1967; 276: 357-368.


2. Simpson SJ. et al.

Unravelling the respiratory health path across the lifespan for survivors of preterm birth

Lancet Respir Med 2024; 12: 167-180.


※無断転載禁止

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