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No.290 死亡率の上昇と関連する高齢者の花粉症被害

2025年2月6日


 気候変動は、気温と降水量に大きな変化を与えており、その結果、地球規模で花粉症のシーズンが長くなり、これに伴う被害が広がっています。高齢でCOPDなどの慢性呼吸器疾患を持つ患者さんが花粉症でどのような被害を受けるかについては、明確なデータはありませんでした。

ここで紹介する論文[1]は、花粉症を起こす4種の植物性のエアロアレルゲンによる短期間の曝露被害がすでに死亡した高齢者にどのような影響を与えたかについて約10年間の結果を調査した研究です。




Q. 長期に続く花粉症被害とは?


・花粉症による曝露被害が広がっている。とくに高齢者で肺炎など呼吸器系の死亡原因となっているという既報があるが広範囲で、しかも長期にわたり調査した研究結果はない。


・従来、アレルギー性鼻炎が主な問題点とされてきたが、アレルギー性鼻炎では炎症反応が高まる結果、心血管病変による死亡原因となるという報告がある。


・COPDと喘息の診断は、重なる部分が多い。COPD側から検討した研究は乏しい。




Q. 調査研究の方法は?


・米国、ミシガン州で2006年からと花粉被害が続く長さ、その原因と暴露被害の長さとの関係を調べた。

2006年―2017年までの全死亡者(127,163人)が死亡時に居住していた場所と厳密な花粉飛来の量を25km区画で区切った全米調査データで一人ひとりの死亡時の該当地域での関連性を調べた。ミシガン州以外の居住者は除外した。


・花粉症持続期間は、0-1, 0-7および0-14日の3群に分け、強度との組み合わせ比較を行った。


・調査した花粉の種類は、次の4種。ブタクサ、落葉樹(カエデ)、イネ科植物、常緑樹。


・死亡原因は、死亡時登録データにより全死亡原因、そのうちの気管支拡張症などの慢性呼吸器疾患、COPDおよび呼吸器感染症(肺炎、インフルエンザなど)の関連性を調べた。


・比較対照は、死亡時と同じ月、および年内の同じ曜日に設定した環境暴露と持続期間が一致する人とした。


・植物由来のエアロアレルゲンの推定大気濃度のデータは2006年から2017年の花粉排出データに依った。


・環境暴露と呼吸器死亡率との関連は、分布遅延非線形モデル(DLNM)回帰フレームワークを利用した。




Q. 調査結果は?


・死亡者は127,163人。うち65,412(51.4%)が女性。ミシガン州では死亡者の90%近くを白人が占めており、次いで黒人(9.42%)となっている。


・慢性下気道および感染性呼吸器疾患の原因による死亡はそれぞれ呼吸器系死亡の61.2%、および19.9%であった。COPDは呼吸器系死亡の54.9%と関連していた。インフルエンザは全呼吸器系死亡者のわずか1.39%であった。


・4種の分類群の毎日の花粉の濃度の時間的パターンは、互いに弱い相関関係にあった。


・4種の花粉症の暴露被害の全てと呼吸器死亡率(全ての原因、慢性および感染性)との関連があった。


・降水量、気温、大気汚染(PM2.5)との関係では、PM2.5 は気温、降水量の両方に相関していた。


・高レベルの累積暴露(90パーセンタイル)での死亡オッズと、花粉症の持続期間、0-1, 0-7および0-14日のオッズ比は、0-1日では累積OD1.14, 95%CI(1.01, 1.27), 0-7日では累積OD1.81, 95%CI(1.04, 3.15)の死亡率上昇と関連していた。常緑樹花粉はどの時期の比較でも呼吸器死亡率と関連していなかった。他方、イネ科花粉は、初期からの全死因、および慢性呼吸器疾患の死亡率と弱く関係した。2週間の持続期間では、すべての呼吸器系死亡率の上昇と関連していた。

COPDによる死亡のオッズは、最大1週間のブタクサ暴露と関連していた(累積OR 2.07, 95%CI(1.14, 3.77)。


・死亡リスクは、暴露期間の長さと高濃度の落葉広葉樹で増加していた。


・常緑樹の花粉濃度と死亡率との関連性は明確ではない。


・大気汚染と花粉症被害が相乗効果となる可能性がある。




Q. 研究デザインの問題点?


・老後の生活パターンでは、職業やレクリエーション活動を通じて草花粉へ暴露となる可能性がある。高齢男性と女性の日常生活のパターンの違いについても解析を進める必要がある。


・高齢患者の最終の死亡場所と登録地点が異なる可能性があり、花粉暴露の推定値と合わない可能性がある。さらに死因統計では喘息、COPDを厳密に分けていない可能性がある。


・人種差については、広い範囲のアレルギー性病変は白人よりも黒人の方が多いという既報がある。本研究では、大多数が白人であり、人種差について論ずることはできない。ミシガン州在住の黒人はデトロイト周辺に多いのでその影響が統計結果に影響している可能性がある。




 花粉症はわが国でも問題となってきています。本論文では、高齢者の死亡原因との関係を論じた、という点でユニークです。ただ、わが国で多いと言われる、杉花粉については常緑樹による被害は少ない、という結果との乖離があり、わが国でのデータが必要です。

 花粉症は、喘息やアレルギー性鼻炎を有する比較的、若い世代の季節的な問題点、という印象がありましたが高齢者、COPDでは症状悪化や死亡原因につながる環境汚染という点で日常の診療に情報を反映する必要があると考えています。




参考論文:


1.Larson PS. et al. Chronic and infectious respiratory mortality and short-term exposure to four types of pollen taxa in older adults in Michigan, 2006-2017.

BMC Public Health 2025; 25: 173.


※無断転載禁止

 
 

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