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No.329 COPDという病気の問題点

  • 執筆者の写真: 木田 厚瑞 医師
    木田 厚瑞 医師
  • 10月24日
  • 読了時間: 8分

更新日:10月27日

2025年10月24日


 COPD、邦名では、慢性閉塞性肺疾患という難しい呼び名は、すでに千年以上の歴史をもつ喘息という病名に比べれば新参者のイメージがあります。この病名に至るまでは、慢性気管支炎、肺気腫という病名が使われていました。

 最近までCOPDは喫煙歴のある中高年男性の病気というのが医療者だけでなく一般の人たちの考え方でした。2000年、たばこ規制枠組条約の発効に先駆けて、世界で最初に画像入りのたばこ警告表示を採用したのはカナダでした。これは、カナダの呼吸器疾患の研究グループが1960年代より、世界でもっともタバコ関連の呼吸器疾患の研究をリードしていたことが背景にあります。その後、わが国もたばこ規制枠組条約に加盟し「たばこ事業法」「たばこ事業法施行規則」さらに「健康増進法」に至る法律が整備され喫煙者本人だけでなく受動喫煙の配慮義務が規定され、現在に至っています。


 厚生労働省の統計によると2023年のCOPDによる死亡者数は16,941人、死亡率は14.0%でした。近年、少しずつ、増加傾向となっています。COPDは20年以上の喫煙歴を経て発症する病気と考えられてきましたが、喫煙率の低下傾向にかかわらず死亡者数はむしろ増加傾向にあります。他方で、女性の方が、COPD発症リスクが高いという報告は欧米の報告とも一致しています。実際、女性の最重症COPDを診る機会も増えてきています。


 現時点でCOPDの世界的な疫学データに基づく対策は、どのように計画されているか。ここで紹介する論文[1]は、先進国、途上国に共通する問題点、特徴的な問題点を分けてその対策を論じています。

 わが国のCOPDの対策を考える上でも参考となります。




Q. COPDの患者数、死亡者数の実態は?


・患者総数は世界で4億8千万人死亡原因の第3位である。平均的な有病率は10.6%。危険因子、経時的な患者数の増減には地域的な差が極めて大きい。


・低所得国と中所得国では、喫煙率の増加、家庭内および屋外の大気汚染、人口の

高齢化により、COPDの負担が増大している。




Q. 研究が必要な方向性は?


・世界各地における喫煙や環境汚染以外のCOPDの危険因子と、それらのCOPD発症につながる基本的な分子メカニズムをより深く理解することで、最終的には影響を受けている地域における予防と治療の改善につながる可能性がある。


・世界のいくつかの地域でのCOPDの有病率増加の原因となっている貧困と教育不足の要素を分析する必要がある。


医療資源が限られた地域では、喫煙、大気汚染、室内汚染、喘息、感染症、特に結核とHIVは、これらの要因がCOPDの対策と共通するところがあり、同時に対策を進めることにより負担と全体的な呼吸器の健康に及ぼす影響を軽減すると予測されている。


・予防努力によってCOPDの予想される増加を緩和できるかもしれないが、先進国を含め、ほとんどの人が診断されず、十分な治療を受けていないため、現在、全体的なCOPD負担を管理することは事実上、困難である。


・各地域において、すでに症状があるが未診断のCOPD症例の発見と早期治療は、臨床転帰の改善につながる。


・米英オーストラリア、カナダでは ➡女性COPDの増加。


・このままでいけば ➡2050年までに患者数は5億9,200万人になる。23.3%の増加が予測される。




Q. 一次予防をどうするか?


・COPDの一次予防とは、健康への影響が出る前に介入することである。

➡環境要因が病気の発症に影響を及ぼすことを考慮すると、ほとんどのCOPD 症例は予防可能である。


・若い世代で電子タバコの利用が増えてきている ➡電子タバコのエアロゾルが細胞毒性を持つことが明らかになっている ➡肺細胞を攻撃し、急性および慢性の炎症を誘発し、病原体に対する免疫反応を変化させ、粘膜繊毛のクリアランスを阻害し、酸化ストレスを誘発し、DNA損傷を引き起こし、気道の過敏性を増加させる。


➡したがって、電子タバコの有害な影響として特に青少年の肺の発達への影響を理解し、認識し、広めるためのさらなる努力が必要である。


・職場における蒸気、ガス、粉塵、煙霧への曝露を減らすなど、有害な曝露を適切に管理することで、COPDを予防できる ➡肺機能が急速に低下している労働者は、曝露の有無にかかわらず特定する必要がある。




Q. 二次予防をどうするか?


・⼆次予防としてCOPDの早期発見が重要である。


・COPD 患者の約70%は未診断のままであり、特に低中所得国でその傾向が顕著である ➡これらの患者は、年齢を合わせた健康な対照群と比較して、生活の質(QOL)が低く、医療の利用率が高く、仕事での生産性が低い。

➡これらの患者を早期に特定して診断することで、利益を得られることが期待できる。 ➡COPDが未診断であるが、すでに症状のある人が呼吸器医と医療面での教育者としての看護師による包括的治療(禁煙、薬物療法、患者教育を含む)を受けた場合、1年間で患者が報告した呼吸器症状が少なくなり、症状、肺機能、疾患によるQOLが改善したことが示されている。




Q. 三次予防をどうするか?


罹患率、障害率、死亡率を低下させるための診断後の治療と管理方法を指す。


・COPD患者は、心血管疾患、肺がん、呼吸不全により死亡することが多い。


・禁煙は、 COPDの喫煙者における症状の改善、肺機能の低下、増悪の頻度、死亡率の低減に最も効果的な介入法である。

➡ ただし、他の危険因子への曝露を減らし、疾患を治療することが COPD の管理の重要な要素である。


・COPD患者の多くは、サルコペニア、骨粗鬆症、うつ病、不安、腎不全、貧血も併発している(併存症と呼ばれる)。


注)サルコペニアとは高齢になるに伴い、骨格筋の量が低下し、筋力や身体機能が低下した状態を指す。予防は、適度な運動の継続と栄養摂取が重要である。


・したがって、COPDの継続治療では、これら併存症の有無を評価し、適切に対処する必要がある。

➡ 適切な運動、睡眠、栄養、インフルエンザ、肺炎球菌、COVID‑19、RSウイルス、

 ヘルペスウイルスの予防接種を含む健康的なライフスタイルを推奨する必要がある。


・包括的な呼吸リハビリテーションは、複雑な機器を必要とせずに提供でき、COPD に伴う⼼肺機能の低下や筋力低下を改善する、十分に活用されていない効果的な治療法で

ある。


・薬物治療は、吸入薬としてβ2アドレナリン作動薬とムスカリン受容体遮断薬を併用することで、作用持続時間の延長と安全性を向上させる ➡気管支拡張薬は気流を増加させ、エアー・トラッピング(気道内の空気が流れやすさ)を改善させる。以上のメカニズムにより、これらの薬剤は症状、運動能力、そしてQOLを改善する。




Q. 米国におけるCOPD対策が遅れている理由は?


・米国はGDPの大きな割合(2019年には16%以上)を医療に費やしているが、健康成果に関しては他の高所得国に遅れをとっている。

➡この食い違いは、人種、所得水準、地理的地域の違いによって医療へのアクセスに大きな格差があることに一部関連している ➡そのため、2014~2015年の州レベルでのCOPDの有病率は、最低がユタ州の3.6%、最高でウェストバージニア州の13.4%と大きな差異がある。


➡ケンタッキー州では、年間所得が5万ドルを超える人のCOPDの有病率は5.4%であるのに対し、所得が1万5000ドル未満の人のCOPDの有病率は26.1%と異なっており、これは全米に一貫したパターンである。


・全体的に、2011年から2021年までのCOPDの有病率は6.1%で安定しており、喫煙習慣のある人、地方に住む人、教育水準の低い人の間では有病率が⾼かった。


・1969年から2013年にかけて、米国では脳卒中、心臓病、がん、不慮の事故など、あらゆる原因による死亡率は減少したが、COPDの死亡率は倍増した。


・1999年から2019年までのCOPDの死亡率は、男性では減少したが、女性では減少しなかった。地方では男女ともに、都市部や郊外の住民に比べて死亡率が高かった。




Q. 新しいCOPDの治療薬は?


・いくつかの大規模なランダム化薬理試験が進行中である。その治療効果として、肺機能、増悪回数、入院の必要性だけでなく、死亡リスクも改善することが示されている。➡ 現在、開発中の薬物では、抗炎症効果のあるマクロライド系抗生物質、ホスホジエステラーゼ 4阻害剤、抗酸化剤などの経口薬がある。

さらに、インターロイキン(IL)-4およびIL-13シグナル伝達をブロックするTh2炎症を標的とする生物学的製剤 (デュピルマブ) は、 COPDの好酸球性表現型サブグループで有望な効果を示している。




 COPDの予防、早期診断、早期治療開始による悪化予防策、COPDに伴って悪化してくる併存症の予防と治療。これらの対策は、喘息の場合とは著しく異なっています。

 さらに、ここでは述べられていませんが、肺機能が著しく低下することによる酸素の取り込み、二酸化炭素の排出障害は、慢性呼吸不全となり、血中の酸素量の低下に加え、二酸化炭素の上昇を起こすことがあります。在宅酸素療法、在宅人工呼吸療法が行われています。しかし、患者数の増加、さらに重症患者の増加にかかわらず在宅酸素療法、在宅人工呼吸療法を行っている患者数はわが国では頭打ちの状態で経過しています。必要な治療方法が選ばれていない可能性があります。


 さらにCOPDの治療は、薬物治療と並行して、非薬物治療として運動療法や栄養療法が、軽症例であっても必要であり、治療介入がその効果を高めることが判明しています。

医療大系がもっとも進んでいると考えられる米国ですら、地域ごとのCOPD対策、治療は大きく異なっていることが本論文の中で述べられています。実は、地域ごとの治療態勢の差異は米国だけでなく、わが国でも同じような医療格差が推定されます。COPDの死亡者数にかなりの地域差がみられるからです。

 予防や治療の在り方について、すべての人たちがそれぞれの立場で必要な情報を持つべきであり、知る権利を持つべき、と考えられます。ヘルスリテラシーはこれを広める活動の一環であり、私たちが力を入れている領域です。




参考文献:


1.     de Oca MM .et al.

Series:  Global epidemiology of chronic respiratory disease 1. The global burden of COPD: epidemiology and effect of prevention strategies.

Lancet Respir Med 2025; 13: 709–24 Published Online July 17, 2025 https://doi.org/10.1016/ S2213-2600(24)00339-4


※無断転載禁止

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