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No.348 睡眠障害、多忙、高血圧、心血管病変―危険な連鎖

  • 8 時間前
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2026年3月4日


 不眠症は、病気の種類に関係なく、診療の現場では多い症状の一つです。有病率の推定値は、不眠症の定義によって異なりますが外来患者を対象とした横断調査では、成人の3分の1から3分の2が重度の不眠症状を訴えている、という報告があります。多忙な中年世代に共通する症状といえます。

中年だけでなく、不眠症は高齢者に多く見られ、その有病率の高さが指摘されています。また、女性は思春期に不眠症が始まり、妊娠および閉経前後・閉経後に悪化する確率が1.2倍から1.4倍高いと言われます。

 

 呼吸器疾患は、不眠症と関わりが深いことが知られています。呼吸器疾患をもつ患者の25~50%が不眠を報告しています。さらに、COPD、喘息の症状や急性悪化の頻度は不眠症の重症度と関連しています。喘息の患者では、夜間に気道内の分泌物が蓄積し、夜間の気管支収縮などの症状があり、不眠の原因となることがあります。高齢女性に不眠が多いこと、喘息は夜間や早朝の時間帯に悪化が多いこと、高齢女性では独居が多いこと、などの事情があり、診療では夜間の状態を特に注意して聴くことにしています。


 COPDや喘息は交感神経系の活動や炎症の増加と関連しており、これらは不眠症を悪化させる可能性があり、さらに不眠は投薬される薬とも関連していることがあります。


 不眠症の患者に聴くと、睡眠の開始が困難、睡眠を維持するのが困難、朝早く目が覚めて再び眠りに戻ることができないという訴えが多く、睡眠障害は睡眠中の全体にわたっています。

 不眠症の診断には、症状が週に少なくとも3晩、3か月間以上、継続して現れること。その結果、疲労、眠気、注意力の欠如、気分障害、パフォーマンス障害などの重要な日中の症状が問題です。


 高血圧と不眠症はしばしば共存することが知られています。ここでは、最近、報告された論文[1]を参考に、不眠症、睡眠障害高血圧、心血管病変、について触れます。さらに言えば、本論文は、高血圧と不眠症が、人間の生命維持の根幹に関わることに言及していることです。短い論文でありながら研究の将来への展開を「Life's Simple8」という米国大統領が、国民生活の改善に向けたメッセージと結び付けている点が特徴的です。

 すなわち、「多忙、中年、不眠、高血圧、心血管病変の連鎖」が、キーワードです。




Q. 慢性不眠症と循環器疾患などとの関連は?


・慢性不眠症患者は睡眠中に収縮期および拡張期血圧が上昇することが示されている。

➡健常者では、夜間睡眠中に血圧は下降することが知られているが、慢性不眠症患者では夜間の下降がない場合がある。


・総睡眠時間の減少を伴わない不眠症は、高血圧および心血管疾患のリスク増加と関連している。


・不眠症は糖尿病患者の最大、その半数に報告されている。これは部分的には、夜間頻尿、糖尿病性神経障害による痛み、夜間の低血糖、または糖尿病患者で増加する原発性睡眠障害(例:むずむず脚症候群や閉塞性睡眠時無呼吸症候群)に関連する不快感に起因する可能性がある。


・心血管疾患は世界の死因のトップである。しかし、心血管疾患の最大90%は予防可能とされている。


・睡眠障害は、高血圧や心血管疾患と関連しているという証拠が集まっており、この点で注目が高まっている。


・高血圧は心血管および全因死亡率の主要な治療可能なリスク要因であり、収縮期高血圧は世界の死亡の約20%を占めている。

 ➡収縮期血圧が115mm Hgを超える20mm Hg上昇するごとに、40~69歳の成人における心血管死亡率が2倍に増加すると報告されている。

 ➡閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、心血管の健康とも密接に関連しており、周期的に生ずる低酸素や覚醒、肥満などの共通の交絡因子に加え、関連する病態生理学的メカニズムが存在する。



  

Q. 研究論文の内容は?


研究の背景:

・不眠症と併存する睡眠時無呼吸症候群(COMISA)は、不眠症または閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)、それぞれが単独の場合と比べて、健康状態の悪化や全因死亡率の増加と関連している。



研究の目的:

・SCAPISプロジェクト(スウェーデン心肺バイオイメージ研究グループ)において、不眠症と睡眠時無呼吸症候群が併存する場合(COMISA)と治療されていない高血圧の関係を調査した。



研究方法:

・SCAPISヨーテボリコホートの参加者を対象とした横断分析(n= 3,832人、男性46%、年齢57.5-64.3歳、BMI=26.6)。


・被験者は機能検査や自宅でのポリグラフ睡眠記録を含む包括的な検査を受けた。


・無呼吸・低呼吸指数(AHI)>10 /時間および不眠症重症度指数スコア≥15として定義した。

 注)AHIは「Apnea-Hypopnea Index」の略語で、日本語では「無呼吸低呼吸指数」と訳される。睡眠1時間あたりに発生する「無呼吸」と「低呼吸」の合計回数を示す数値である。


・血圧の状態は、治療による制御不能の高血圧(収縮期血圧≥140mm Hgまたは拡張期血圧≥90mm Hg)、降圧薬による治療で収縮期/拡張期血圧<140/90 mm Hg)、または正常血圧で収縮期/拡張期血圧<140/90 mm Hg)とした。



結果:

・本研究での有病率は集団で3.1%、OSA患者では14.5%であった(AHI>10 /時間とした場合)。


・OSAのみの患者とCOMISA患者の間でのAHIの比較 (18±9 vs. 19±9回/時;P = 0.86)。コントロールされていない高血圧群では、対照群、不眠のみ、OSAのみ、COMISA群では各、4.4%、4.5%、7.9%、10.2% (P < 0.001)。


・対照群と比較して、OSAのみの群では制御不能な高血圧のリスクが有意に増加した(オッズ比[95%信頼区間]、1.31[1.05–1.64];P =0.02)、およびCOMISA群(1.88 [1.23–2.89];人体計測、生活習慣、併存疾患、エプワース眠気尺度スコア、夜間低酸素曝露(T90=酸素飽和度と記録時間の割合≤90%)を調整後、P = 0.004

 ➡T90がOSAとCOMISAの関係において治療されていない高血圧の有意な媒介因子であることが判明した。



結論:

・本研究は、不眠症と睡眠時無呼吸症候群が併存する場合(COMISA)と治療されていない高血圧を比較し、不眠症と睡眠時無呼吸症候群の独立的な関連を示したものである。

 ➡心血管への悪影響のリスクがあるOSA患者のサブグループを特定するための新たな知見となる。

 ➡夜間低酸素曝露(T90=酸素飽和度≤90%と記録時間の割合)がリスクとなることを示した。




Q. Life's Simple 8とは何か?


・2010年、アメリカ心臓協会は、心血管健康の新しい概念を定義し、病気治療だけに焦点を当てるのではなく、集団や個人のライフコース全体にわたる前向きな健康促進と維持を含むパラダイムシフトを推進した。

 ➡アメリカ心臓協会は心血管健康の新しい概念改善や更新を勧める執筆グループを招集した。元の各指標(Life's Simple 7)の定義と定量化において、個人間差異や個人内の変化に対する応答性を評価した。これは、大統領勧告として心血管健康評価の強化されたアプローチとなっている。Life's Essential 7の内容の更新は以下の通りである。

 ➡Life's Essential 8の構成要素:食事(更新)、身体活動、ニコチン曝露量(更新)、睡眠健康(新)、体格指数、血中の脂質量(更新)、血糖値(更新)、血圧が含まれる。

 ➡各指標には0点から100点までの新しいスコアリングアルゴリズムがあり、0点から100点の範囲で変動する。心血管健康評価や縦断的モニタリングの実施方法、政策、公衆衛生、臨床、機関、地域社会での広範な導入を促進するための潜在的なデータソースやツールについても議論されている。




  Life's Essential 8に睡眠健康という項目を新しく加えたことは、医療における睡眠の役割の重要性を生活習慣の立場から指摘したものと考えることができます。

 冒頭に述べたように、睡眠と呼吸器疾患の関係は、睡眠時無呼吸症候群だけではなく、ほぼ全ての呼吸器疾患の治療と深く関わっています。心筋梗塞や狭心症、心房細動、脳梗塞などはCOPDと深く関わっています。さらに、高齢女性の喘息は、不眠症が多く、その治療と関わるという点で重要です。

 夜間睡眠中に繰り返し起こる酸素欠乏の指標として「T90」を選び、その意味付けをしています。T90とは、パルスオキシメータで測定した酸素飽和度90%以下の継続時間を示します。OSAとCOMISAの関係において治療されていない高血圧の有意な媒介因子であることが判明した、という指摘は従来の報告を再確認したという意味でも注目されます。

以下が、その記載に相当する部分です。


 「当該コホートではOSAとCOMISAの間でAHIとODIが類似していたのに対し、COMISA群ではT90が有意に高く(3.29%対5.17%)、これは夜間低酸素曝露が呼吸器イベントの頻度単独よりもOSA重症の指標として、より関連性が高いことを示唆している。さらに、T90は睡眠障害の状態と高血圧リスクの関係において媒介因子であることを発見した。T90は間欠性低酸素血症と全夜間低酸素症負担の両方を反映できるため、交感神経活性化、炎症反応、内皮機能障害を伴うこれらのメカニズムは、不眠症を併発して悪化する高血圧の発症に関与している可能性が高い」。 


 多忙な中年世代は、不眠に悩まされている人が少なくありません。不眠は、睡眠時無呼吸症候群、高血圧、心血管病変との連鎖という点で重要です。職場で定期的に実施することになっている検診項目に、具体的な睡眠障害とその対策の指標を盛り込み、中長期的な解決策とすべきことを示唆しています。さらに、追加すれば晩酌は、睡眠障害を高めるという点から、そのリスクを高めるといえそうです。

 

 

 

参考文献:


1.     Frisk ,MK. et al.

Comorbid insomnia and sleep apnea is associated with uncontrolled hypertension in a middle-aged population. Ann Am Thorac Soc 2026; 23: 125–131. 


2.     Lloyd-Jones, DM. et al.

Life’s Essential 8: Updating and Enhancing the American Heart Association’s construct of cardiovascular health: A presidential advisory from the American Heart Association.

Circulation, 2022; 146(5): e18–e43.


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