No.353 慢性副鼻腔炎が合併する重症喘息の治療
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2026年4月10日
20年以上前に最初の抗免疫グロブリンE製剤が承認されて以来、重症喘息に対する「モノクローナル抗体療法」は、喘息治療を大きく進歩させました。新しい治療法は、多くの重症喘息の患者さんにとって人生を変える治療法として認識されている、とまで評価されています。近年になり、インターロイキン(IL)‑4Rα、IL‑5、IL‑5Rα、胸腺間質リンパ球増殖因子(TSLP)などの経路を標的とするモノクローナル抗体を利用した治療薬が開発され、治療はさらに洗練され、増悪リスク、経口コルチコステロイド使用量、肺機能などの主要な治療効果において大きな臨床的効果をもたらしています。
ここで取り上げる論文[1]は、慢性副鼻腔炎と喘息との関係を、粘膜における免疫性の異常という観点から研究した論文です。動物実験では、回答が得られにくいテーマであり、多くの患者さんたちの協力を得て気管支鏡検査を行い、生検を行って得られた検体から得られた研究結果であることも踏まえて学びたいと思います。
論文[1]では、慢性副鼻腔炎と喘息が近縁の関係にあり、両者が同時に治癒効果を示す期待があります。ところが論文[2]は、両者に効果があることを期待した新しい薬でしたが、慢性副鼻腔炎には、著しい改善効果を示したのに対し、喘息には効果がなかった、という論文です。病気を同時に治すという治療薬は期待はずれに終わりました。
喘息の多様性を示す結果であり、改めて慢性副鼻腔炎を合併する喘息の治療の難しさと、治療における個別的な判断の大切さを教えられます[3,4]。
Q. 成人の鼻づまりとは?
・成人における慢性副鼻腔炎には4つの主要な徴候/症状がある。
―前方および/または後方への鼻水(後鼻漏と呼ばれる)。
―鼻づまり。
―顔の痛み、圧迫感、または膨満感。
―嗅覚の減少または喪失。
Q. 慢性副鼻腔炎の主な兆候・症状は?
・疲労感、倦怠感、咳、睡眠障害、耳の痛みや圧迫感、めまい、口臭、歯痛、発声障害、鼻や喉の刺激など、いくつかの症状がある。しかし、これらはいずれも診断に臨床的に有用なほど特異的ではない。
・前鼻および/または後鼻漏
慢性副鼻腔炎の典型的な前鼻および/または後鼻水は通常不透明な白色または淡黄色。 患者によってかなりのばらつきがある。濃い黄色、緑色、または茶色の粘液が現れることがあるが、これは再発性急性鼻副鼻腔炎、アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(AFRS)、好酸球性粘液性鼻副鼻腔炎(EMRS;好酸球性非真菌性鼻副鼻腔炎とも呼ばれる)により特徴的である。
・鼻づまり
「鼻づまり」は患者がさまざまな感覚を表すために使う用語である。
➡鼻づまり、圧迫感、または頻繁に除去しなければならない過剰な分泌物(例:「鼻をかみたい」)を意味することがある。
➡鼻づまりの鑑別診断には、アレルギー性鼻炎、慢性非アレルギー性(特発性)鼻炎、薬物使用に関連する鼻炎、そして二次性萎縮性鼻炎が含まれる。
➡慢性副鼻腔炎のうっ血は両側に起こるが、患者によっては片側のうっ血がもう片方よりも気になることや目立つことがある。
➡鼻づまりは神経機構を通じて鼻腔通気を調節する生理学的プロセスである。
「鼻腔周期」の影響も受ける。
・嗅覚の低下 – 嗅覚の障害は、嗅覚が低下または完全に消失したように感じられることがある(それぞれ嗅覚低下症または嗅覚障害)。
➡ 嗅覚喪失の患者はまた、食物の味覚が低下することが多い。
Q. 喘息と慢性副鼻腔炎の関係は?
・慢性副鼻腔炎は、副鼻腔および鼻腔の粘膜に関与し、12週間以上続く炎症性疾患と定義されている。
・ 慢性副鼻腔炎患者の約20%が喘息を併発している。逆に、喘息患者の約3分の2(小児・成人問わず)は、横断研究では、CT所見で慢性副鼻腔粘膜肥厚または副鼻腔の不透明化を有している。
➡複数のヨーロッパのセンターでの横断面研究では、喘息の存在と慢性副鼻腔炎の存在との間に強い関連性が一貫して認められた。
➡重度喘息患者では軽度喘息患者よりも慢性副鼻腔炎の有病率が高い。
➡慢性副鼻腔炎は、喘息患者における喘息悪化の頻度増加と関連している。
Q. 研究論文1の概要は?
目的:
・慢性副鼻腔炎を伴う喘息において、気管支の免疫炎症およびその修復機転であるリモデリング反応に焦点を当て、慢性副鼻腔炎が喘息の重症度に影響を及ぼすかどうかを研究目的とした。
方法:
・軽度から重度の喘息患者、47名を対象に気管支鏡による気管支生検を行い、免疫組織化学および免疫蛍光法で気管支粘膜の炎症細胞数と免疫反応の2型(T2)、T3、リモデリングバイオマーカーの発現を研究評価した。
研究1)慢性副鼻腔炎のない喘息患者 (n=16) と慢性副鼻腔炎のある喘息患者 (n=31) の臨床的機能的、生物学的データを鼻ポリープの有無 (喘息で副鼻腔炎あり、鼻ポリープあり(n=15)となし(n=16)で比較した。
研究2)副鼻腔炎のない軽症および重症喘息(n=11/5) と副鼻腔炎のある軽症/重症喘息(n=15/16) に分類し、比較した。
結果:
・喘息+副鼻腔炎の患者は喘息のみ患者よりも喘息発症が遅く血中好酸球数および呼気中一酸化窒素分画(FeNO)が高かった(P<0.01)。喘息+副鼻腔炎+鼻ポリープ患者は喘息のみ患者よりも増悪率が高かった(P<0.01)。
・喘息+副鼻腔炎+鼻ポリープ患者は喘息のみ患者よりも肺機能検査で残気量(%予測値)が高く1秒率が低かった。
・喘息+副鼻腔炎ありの患者は喘息のみの患者よりも喘息発症が遅く、血中好酸球数および呼気中⼀酸化窒素分画が⾼かった(P<0.01)。
・喘息+副鼻腔炎+鼻ポリープ群の患者は喘息のみの患者よりも増悪率が⾼かった。
(P<0.01)。
・免疫組織化学および免疫蛍光検査では、喘息のみ患者と比較して喘息+副鼻腔炎患者は、気管支粘膜固有層における T2および T3炎症バイオマーカーとリモデリングの証拠(好酸球数、CD41、エオタキシン‑31、 IL‑5(インターロイキン‑5)、 IL‑91、IL‑17A1、 IL‑22細胞および上皮下基底膜の厚さの発現が高い (P<0.05)。
・GATA結合タンパク質31(GATA31)細胞の割合が高く、関連オーファン受容体ガンマT(RORgT1)細胞の傾向が強かった(P<0.05)。
・喘息+副鼻腔炎患者では、T2およびT3サイトカイン(IL‑131、エオタキシン‑31、 IL‑91、TSLP1、 IL‑17A1、IL‑17F1細胞)の発現が高かった。
・二元配置分散分析の結果、喘息におけるCRS合併症と喘息重症度の両方が、気管支におけるIL‑13およびIL‑17Aの発現を調節することが示された。
結論:
本研究結果により、併存する慢性副鼻腔炎を伴う喘息では T2臨床表現型 (呼気一酸化窒素、血中好酸球分率)の割合が高いことが確認された。
Q. 研究論文2の概要は?
目的:
・抗体薬テゼペルマブによる治療は、重症でコントロール不良の喘息と鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎の既往歴のある患者の副鼻腔症状に対して有効である。しかし、重症でコントロール不良の鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎の成人患者における有効性と安全性は不明である。
本研究は、重症でコントロール不良の鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎患者におけるテゼペルマブの有効性と安全性を評価するための第3相試験である。
方法:
・症状のある重度の慢性副鼻腔炎(鼻ポリープを伴う)の成人を無作為に2群に分け、標準治療に加えて、テゼペルマブ(210mg)またはプラセボを4週間ごとに52週間皮下投与した。
・主要評価項目は、52週目における鼻ポリープの合計スコア(範囲:0~4[各鼻孔]、スコアが高いほど、重症度が高い)および平均鼻閉スコア(範囲:0~3、スコアが高いほど重症度が高い)のベースラインからの変化とした。
全被験者集団で評価された主要な副次評価項目は、嗅覚喪失スコア、鼻副鼻腔症状評価テスト(SNOT‑22、範囲:0~110、スコアが高いほど重症度が高い)、Lund‒Mackayスコア(範囲:0~24、スコアが高いほど重症度が高い)、総症状スコア(範囲:0~24、スコアが高いほど重症度が高い)、およびイベント発生までの時間分析(個別および複合)で評価された鼻ポリープ手術または全身性グルココルチコイド療法、あるいはその両方による治療の最初の決定とした。
結果:
・合計で、203人の患者がテゼペルマブの投与を受け、205人がプラセボの投与を受けた。
52週目には、テゼペルマブを投与された患者では、総鼻ポリープスコア(プラセボとの平均差、‑2.08、95%信頼区間[CI]、‑2.40~‑1.76)および平均鼻閉スコア(‑1.04、95% CI、‑1.21~‑0.87)において有意な改善が認められた(両スコアともP<0.001)。
・テゼペルマブは、嗅覚喪失スコア(プラセボとの平均差、‑1.01、95%信頼区間、‑1.18~‑0.83)、SNOT‑22合計スコア(‑27.44、95%信頼区間、‑32.51~‑22.37)、Lund‑Mackayスコア(‑5.70、95%信頼区間、‑6.37~‑5.03)、および総症状スコア(‑6.96、95%信頼区間、‑8.09~‑5.83)を有意に改善した。(すべてのスコアでP<0.001)。
・鼻ポリープの手術が必要となった患者は、テゼペルマブ群(0.5%)の方がプラセボ群(22.0%)よりも有意に少なかった(ハザード比0.02、95%信頼区間0.00~0.09)。全身性グルココルチコイドの使用も、テゼペルマブ群(5.2%)の方がプラセボ群(19.3%)よりも有意に少なかった(ハザード比0.11、95%信頼区間0.04~0.25)(いずれのイベント発生までの時間解析でもP<0.001)。
・喘息の増悪は、プラセボ群よりもテゼペルマブ群でより頻繁に報告された (5.9% vs. 0.5%)
結論:
・テゼペルマブ療法は、重度でコントロール不良の慢性副鼻腔炎(鼻ポリープを伴う)の成人患者において、プラセボと比較して、鼻ポリープの大きさ、鼻閉および副鼻腔症状の重症度、ならびに鼻ポリープ手術および全身性グルココルチコイドの使用を著しく減少させた。しかし、喘息の改善効果はみられなかった。

図. 鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎に対する鼻ポリープ手術または全身性グルココルチコイドの使用による治療を最初に決定するまでの時間。
テゼぺルマブによる治療は、プラセボに比較して明確な治療効果がみられた。
近年、重症で難治性の喘息に対し新しく開発された抗体薬が使用されるようになり、中には劇的な改善効果をしめす患者さんを診てきました。鼻と気管支は連続したチューブ構造ですが、場所によって炎症反応に差異を示していることから改めて共存した治療の方針の難しさを教えられます。
論文1は、考え方の基礎の解明を目的として実施された研究です。論文2は、ほぼ同様な考え方により実施された新しい薬の治験結果です。両者とも実際の患者さんの協力により得られた貴重なデータですが、残念ながら両者が結びつくところには達することができませんでした。
テゼペルマブは、TSLPとそのヘテロ二量体受容体との相互作用を特異的に阻害するヒトモノクローナル抗体です。新薬であり、これまでの薬を上回る効果があり、期待されています。4週間ごとに210mgを皮下投与するテゼペルマブは、重症でコントロール不良の喘息の治療において有効性と安全性が示されており、バイオマーカーや表現型の制限のない12歳以上の重症喘息患者の維持療法として適応があります。しかし、鼻ポリープに対する治験結果では、テゼペルマブは、鼻ポリープは改善したが少数例ですが喘息悪化の例があった、ということです。かなり追い詰めてきた治療法ですが、なお一部の患者さんでは治療が難しい場合があることを示唆しています。
治療薬は、効果を示す作用があれば、時には有害となる副作用があることはどの薬にも説明が付けられています。
論文2では、複数の炎症カスケードの上流における重要な因子としてTSLPは鼻ポリープを伴う慢性鼻炎患者の治療標的となる可能性があり、その理論に基づき治験が組まれましたが、鼻ポリープに対し、劇的な効果が見られたのに対し、喘息に対しては、効果はみられず中には、悪化が見られる例もありました。これらの事実は、難治性喘息に伴っている慢性副鼻腔炎は、一つの決まったルート(考え方)で起こっているのではないことを示すものです。将来的に、難治性喘息も慢性副鼻腔炎も細分化され、その組み合わせで治療薬の効果が異なることを示唆する結果です。細かな最新情報にも目を配りながら新しい治療薬を日常の診療の中に組み入れていく努力が求められています。さらなる進歩を期待したいと思います。
参考文献:
1.Carriero, V. et al.
Evidence of T2/T3 endotype overlap in mild-to-severe asthma with chronic rhinosinusitis: A pilot study. Ann Am Thorac Soc 2026; 23: 70–79.
DOI:10.1513/AnnalsATS.202410-1076OC
2. Gyawali B. et al.
Biologics in severe asthma: a state-of-the-art review. Eur Respir Rev 2025; 34: 240088 DOI: https://doi.org/10.1183/16000617.0088-2024
3.Lipworth, BJ. et al.
Tezepelumab in adults with severe chronic rhinosinusitis with nasal polyps. N Engl J Med 2025;392:1178‑88. DOI: 10.1056/NEJMoa2414482
4. Keswan, A. et al.
Chronic rhinosinusitis with nasal polyposis: Management and prognosis. UptoDate. Literature review current through: Mar 2026.
This topic last updated: Mar 08, 2026.
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