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No.362 痩せ型と肥満型COPD:体型で異なる問題点

  • 11 時間前
  • 読了時間: 8分

 

 

 COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は邦訳では慢性閉塞性肺疾患。肺気腫と慢性気管支炎の病名を一つに表現した簡略病名であり、英語読みの頭文字を取って略語とした正式病名です。すでに半世紀以上が経過していますが同じような慢性疾患として定着している糖尿病と比較すると分かりにくい病名といえそうです。その糖尿病も、尿の中に糖が出てくる病気であると、単純化できないくらい精緻な病態が明らかになってきており、適切な病名のあり方が議論されていると言われます。双方ともいまや、人口に膾炙する便利な病名ですが、科学情報の進歩に合わせた変更、修正作業は容易ではないようです。さらに単純化された病名と検査により次第に明らかにされてきた複雑な病態の乖離は、病気自体を患者さんに分かり易く説明するのは、難しく、診療時間がかかるのは避けられません。

 

 COPDは、体型から2つに分けられることが古くから知られています。痩せ型が肺気腫型であり、太った人では慢性気管支炎型が多いと言われます。両者を鑑別するには階段歩行時のうしろ姿の観察が分かりやすいとも教えられました。痩せ型であり、歩く姿は呼吸が苦しいなか、肩で呼吸している人が肺気腫型。これに対し、息切れは少ないが咳をし、痰を吐きながら歩く太った人が慢性気管支炎型という訳です。古くから云われてきたこの分類法を改めて検証した論文が発表されました[1]。今さら、という感じはありますが教えられる点が多い論文です。これに対する編集者のコメントを合わせて紹介します[2]。




Q. COPDの二つのタイプとは?


 古典的に知られる情報には以下がある。


病理解剖学的には、空気の通り道である気管支➡細気管支➡肺胞に至るルートのどの部分での病変が強いかで分類される。歴史的には、初期病変は、内径2㎜以下のsmall airwayと呼ばれる細気管支からスタートすることが判明している➡small airways diseaseとも呼ばれている。


・生理機能的には➡吸入薬などの薬物によっても気道を流れる空気が流れにくくなった状態が完全には回復しない持続的な気流制限を特徴とする疾患である。


・病理解剖所見➡肺気腫は、小葉中心性肺気腫汎小葉性肺気腫大別される。


・肺の上方から起こり主にタバコ煙などで起こるのが小葉の中心に位置する細気管支から小葉の周辺に広がるのが小葉中心性肺気腫である➡小葉単位ではあるが進行すると病変どうしが連続して広い範囲に肺気腫病変が広がる。


・他方、主に肺の下方から起こり➡小葉という小さな単位が全体として崩壊する汎小葉性肺気腫に分かれる➡α1(アルファ・ワン)欠乏症として知られる遺伝的な異常で起こり、日本人には少ない。


・治療による修正可能な危険因子の1つが、体格指数(BMI)である。

痩せ型(低Body mass index: 低BMI)と肥満型(高BMI)に区分される。

➡痩せ型COPDでは、大まかに肺機能低下率や死亡率増加などの不良な転帰、疾患進行と関連している➡体重増が重要とされてきたが、そのメカニズムは依然としてほとんど解明されていない。




Q. COPDの2型を適切に診断していく戦略とは?


・肺機能検査の結果は、重症度を判定するためには重要である➡しかし、疾患の病因となる基礎的な肺病理に関する情報とは必ずしも一致しない。

➡コンピュータ断層撮影 (CT) などの高解像度肺画像ツールは、精緻な基礎的な疾患プロセスと COPD の表現型をつなぐ有力な情報となる。

 



Q. 体形からCOPDの分類を改めて補強した新論文とは?


目的:低BMI(body mass index)が肺気腫に関与し(低BMI=肺気腫型)高BMI が気道リモデリングと関連し(高BMI=慢性気管支炎型)に大別が可能かどうか、を検証し、BMIが COPDリスクをどのように反映しているかを検討した。


体型からCOPDの病型分類が可能かを調べる。



方法:

胸部 CTスキャンの使用を活用し、多数の COPD 患者と非 COPD患者(計、n = 16,349) におけるBMIとCOPD 形態学的表現型のリスクとの関係を調べた。


・データソースとして、Genetic Investigation of Anthropometric Traits (GIANT)  ConsortiumとUK biobank BMI ゲノムワイド関連研究メタアリシスのデータを使用して、BMI のポリジェニック スコア (PGSBMI) を計算した。



結果:

全コホート(n=16,349)を統合したメタ解析では、PGSBMIの標準偏差の増加は、

胸部HRCTから得た肺気腫の面積の数値化から得た対数変換値(β=−0.062、P< .0001)および肺密度ヒストグラムの15パーセンタイル値(β=2.27、P< .0001)。肺気腫の減少、および10mm内腔周囲気道の壁面積の平方根(β=0.016、P= .0006)および平均分節気管支壁面積率(β=0.26、P= .0013)で定量化された気管支壁の厚さ(AWT)の増加と関連していた。

視覚的解釈によって評価された画像特性は、PGSBMIが高いほど、 COPD患者が豊富なコホート(重症度グレードが高い場合のオッズ比[OR]=0.89、P= .0080)と地域ベースのフラミンガム心臓研究(肺気腫の存在に対するOR=0.82、P= .0034)の両者で肺気腫の減少と関連しており、COPDGene研究では気道壁肥厚のリスクが、高値であることが判明した(OR=1.17、P= .0023)。

➡低BMI が肺気腫に関与し、高BMI が気道リモデリングと関連していることを明らかにした。

➡BMIが肺気腫のリスクと逆相関し、気道壁リモデリング(すなわち、気道壁の肥厚)と正相関することが判明。

➡続いて、2標本メンデルランダム化(MR)分析を実施し、BMIが肺気腫および気道壁厚に及ぼす「因果」効果の推定値を決定して、これらの知見を検証した。



結論:

これらの測定結果を総合すると、BMIの遺伝的要素がCOPDの発症機序および形態学的表現型に重要な役割を果たしていることが強く示唆される。




Q. 想定される発症機序の説明は?


・深い呼吸では (例えば、タバコの煙を吸い込む)、微粒子とガスの大部分は、これらの領域への換気が増加するため、主に肺の上葉に沈着する。

➡通常、肺底部での換気は肺尖部よりも50%大きいことが知られている。これらの差は、肺が収縮して小さくなると拡大する。

➡肥満、特に内臓肥満型では、下葉の肺胞は機械的圧迫につながる。

➡BMIが大きい肥満者の場合、予想よりも高い一回換気量と予想よりも低い機能的残気量によってさらに悪化し、下気道への粒子やガスの沈着率が増加する。




出典:文献2より一部邦訳修正
出典:文献2より一部邦訳修正

 

図1 体型により肺気腫型、慢性気管支炎型に分類される


ピンクパファーとは肺気腫型のあだ名。


まとめ:

・COPDでは、低体重および⾼体重の体格指数 (BMI) がそれぞれ肺気腫および気道疾患の両者に寄与する可能性がある。

 ➡肥満者 (高BMI) では、局所換気の増加により、有害な粒子や刺激物が主に下肺葉に沈着し、気道炎症および酸化ストレスを引き起こす。肺の炎症はアディポカインによって増幅され、局所的な損傷の増加につながり、気道リモデリングに寄与する。

 ➡その結果、気道病変型となる。

 ➡やせ型(低BMI)の人では、胸腔が上下方向に、より引き伸ばされる。肺の上部では、陰圧が大きいため、粒子沈着が上肺葉で増加する可能性があり、肺胞破壊およびガス捕捉の増加により肺気腫型のリスクが高まる。

 ➡下葉におけるストレス反応は、これらの領域に大きな損傷を引き起こし、最終的には持続的な炎症、線維化、狭窄、そして極端な場合には破壊を特徴とする気道リモデリングにつながる。

 ➡この過程は、脂肪組織による腫瘍壊死因子、レジスチン、ケメリン、レプチンなどの局所的および循環的なアディポカイン産生の増加によって加速され、局所的な炎症反応が増幅される可能性がある。

 ➡低BMIは、主に上葉に影響を与える喫煙関連の中心小葉性肺気腫と関連している。


 ➡要約すると、遺伝子型と表現型の関係は、低BMIが肺気腫に寄与し、高BMIがCOPDの気道疾患に寄与することを強く示唆している。


・肥満は先進国で依然として大きな、社会的問題であり、これは世界中で慢性気管支炎型COPDが増加していることの一因となっている可能性がある。

 ➡しかし、グルカゴン様ペプチド‑1やグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチドなどのインクレチンホルモン類似体、およびジペプチジルなどのそれらの修飾剤が最近登場し広く使用されるようになったことで、局所換気率の低下や粘液線毛エスカレーター活動の低下、その他の重力依存性クリアランス機構の減少により、肺葉の炎症が悪化する。

 ➡その結果、特に背が高く痩せた喫煙者では、肺上葉の炎症が悪化し、肺胞損傷が増加する可能性がある。






 COPDに関する情報では、現在でも不明の部分が少なくありません。痩せ型=肺気腫。肥満型=慢性気管支炎、という分類は古くから知られており、治療方針を立てる意味で今でも大切な情報となっています。

 本研究は、痩せ型、肥満型と、肺気腫、非肺気腫のそれぞれが遺伝的背景を持ち、さらに重症度に反映されてくる可能性を示唆するものです。すなわち、肺気腫の結果、痩せ型となるのではなく、痩せ型体型と肺気腫発症がセットとして遺伝子型が組み込まれて存在して関与している可能性を示唆します。遺伝子検査が簡便化すれば、乳幼児時期に将来、発症する可能性の高い病気の予測が可能となり、幼少期から個別的な生活習慣病の予防策を教えることができるようになるかも知れません。医療費削減のもっとも効率的な方法と言えそうです。


 COPDはタバコ病と言われた時代がありましたが、その後の研究成果から乳幼児期の肺の発達段階にその淵源があることが明らかになっています。実際、喫煙者の20数パーセントのみがCOPDを発症するというデータを合わせ考えると、痩せ型の人は遺伝学的に肺気腫型となる発症リスクが高く、肥満者では慢性気管支炎型となる可能性を本論文は、合理的に説明できるデータとなっています。若い女性の喫煙者が増加していると言われます。さらに、最近話題となっている、痩せ目的の服薬を自己判断での開始することはともにCOPDのリスクを高めます。

 肥満+喫煙は慢性気管支炎型となり易く、他方、痩せ型の喫煙者では、肺気腫型のCOPDのリスクが高いことをこの論文は示唆しています。




参考文献:

1. Zhang J, et al.

BMI-related genetic fac­tors and COPD imaging phenotypes. Ann Am Thorac Soc. 2026, 23(5), 720–727 https://doi.org/10.1093/annalsats/aaoag007


2. Memarzia A, et al.

What the body mass index genes are telling us about chronic obstruction pulmonary disease phenotypes: emphysema for the thin and airways disease for the heavy.

Ann Am Thorac Soc. 2026; 23: 704-706.


  1. 呼吸機能検査、太田保世、著、中外医学社、1982年。


※無断転載禁止

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