2020年3月11日
肺に生じた感染症を「肺炎」と呼んでいます。全ての年齢に肺炎は起こりますがとりわけ、乳幼児、65歳以上の高齢者の肺炎は死亡率が高いのが特徴です。
高齢者の中でも持病、基礎疾患がある場合には特に要注意です。これらには、COPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)、喘息、心不全などの心疾患、脳卒中後遺症などがあります。
冬季に多いのが特徴です。他の重い病気の治療で入院中に肺炎が起る場合(院内肺炎)、老人施設など入居者に起こる肺炎(医療・介護関連肺炎)に対し自宅で比較的、元気で暮している人に起こる肺炎を市中肺炎と呼んでいます。
ここでは市中肺炎について解説します。新型コロナウィルス肺炎は、市中肺炎の一つです。
2018年の肺炎による死亡者は、約9万人で死因の第5位です(厚生労働省 平成 30 年(2018) 人口動態統計月報年計(概数)の概況より)。
Q. 肺の働きが損なわれる
・正常な呼吸では、鼻や口から吸った空気が気管、気管支、細気管支と次第に細くなった気道を運ばれて行く。細気管支のさらに先にはブドウの房のように肺胞がついている。肺胞は薄い膜状の構造をしており厚さは約10/1000ミリ程度で、この中に毛細血管を挟みこみ両側は肺胞上皮細胞で被われている。
・口や鼻から取り込まれる空気には、微生物(細菌やウィルス)が含まれていることがあり、息を吸い込むたびに肺の広い範囲で取り込まれる。
・しかし、身体には、気道から肺胞に至るまで免疫機能が備わっており微生物が肺に入りこんでも簡単に肺炎になるわけではない。
・気道はパイプのような構造をしており、その内側には線毛と呼ばれる細かな構造が絨毯の表面のように守っており、肺に入り込んだ細菌、ウィルス、小さな異物などを絶え間なく口の方向へ運びだしている。これらは痰に包まれ、咳とともに口から外界へ放り出される。咳は免疫機能と並び肺を守りぬくための働きである。
・病原体が大量に入ってきて増殖し、肺を守りぬく働きが低下しているときに広い範囲で炎症が広がり肺炎が発症する。
・感染を起こした気管支、細気管支、肺胞では、白血球や赤血球、液体成分が充満し、次第にその範囲は広がっていく。
Q. 肺炎のリスクが高い人たち
・65歳以上の高齢者
・喫煙者
・十分な摂食ができず栄養状態が低下している場合
・基礎疾患として慢性の呼吸器疾患(COPD、重症喘息)、糖尿病、心不全などの治療中
・癌に対する化学療法、放射線照射の治療中や関節リウマチでステロイド薬を服用中
・脳卒中の後遺症で誤嚥を繰り返している、あるいは身体の活動度が低下している、アルコール過剰摂取が常習化している。
・ウィルス感染、特に新型コロナウィルス感染やインフルエンザ感染。
Q. 肺炎の原因は何か
・ウィルス感染、細菌感染、真菌感染がある。
・細菌感染では、肺炎球菌による場合が約20%といわれ最も頻度が高い。
・ウィルスによる肺炎の頻度はこれまでの統計では約20%でインフルエンザ感染が多い。
・ウィルス感染によるカゼ症状が先行し、これに引き続き肺炎となることが多い。
・真菌感染の頻度は少ない。HIV感染がある場合、臓器移植後で免疫抑制薬を服薬しているとき、重症の気管支拡張症、結核後遺症などで起こりやすい。
・レジオネラ肺炎は、温泉に入浴して感染する例が問題となった。現在、その予防対策がされていることが多い。
・旅行先で感染し、肺炎となることがある。数週間以内の旅行先がある場合には担当医に伝えることが必要である。特に外国旅行の場合。
Q. 肺炎の症状
・発熱、悪寒戦慄、息切れ、胸痛、頻脈、呼吸数の増加(安静時に1分間に30回以上)。吐き気、嘔吐、下痢の消化器症状を伴うことがある。細菌性肺炎では膿性の痰を伴うことで疑わしいと判断されるが、ウイルス性肺炎やその他の病原微生物(マイコプラズマなど)では空咳のみのことも多い。
・発熱は38度以上が多いが体力が低下した高齢者では微熱でも重症のことがある。譫妄(せんもう)状態(せん妄とは、一時的に意識障害や認知機能の低下が起こることを指す)、食欲低下、不眠、尿失禁などこれまでに見られなかった症状があり肺炎が発見されることがある。
Q. 肺炎の診断
・症状の経過、胸部X線写真。
・喀痰の性状。膿性痰があり、呼吸困難があればかなり疑わしい。ただし、ウィルス感染の場合には初期は咳、発熱のことがある。
・血液所見。白血球数、CRP値が高値。
・尿中の抗原で肺炎球菌、レジオネラ感染が診断できることがある。
・酸素飽和度が低値。
Q. 治療
・軽症の市中肺炎では抗生物質を服薬する。
・CRPが高値であり、摂食できない、意識がもうろうとしているなど全身の状態が悪いときには点滴による抗生物質の投与が必要となり、経過を細かく観察していく必要があるので入院治療を原則とする。
・動脈血中の酸素不足があれば酸素吸入を開始する。重症のときには人工呼吸器を装着することがある。
・抗生物質の選択は、肺炎を起こしている病原体の種類をある程度、想定し、基礎疾患などを考慮し、決める。効果があれば投与開始後、3-5日目には解熱する。
・自宅で治療する場合であっても十分な休息をとり、睡眠時間、水分摂取に注意する。高齢者では特に脱水に注意する。尿量がいつもより減少しているときは脱水を疑う。
・抗生物質の服薬は指示された通りの日数を守る。
・治癒は、担当医の指示により受診したうえで確認してもらう。
Q. 合併症がある場合
・合併症がない市中肺炎の大多数は抗生物質の服薬や点滴で改善する。
・COPD、喘息では肺炎に伴い息切れ、咳、痰が増え、息切れが強くなる。COPDでは「増悪」と呼ぶ。低酸素血症が強くなる呼吸不全を起こすことがあり注意を要する。
・糖尿病では肺炎合併により高血糖となることがある。心臓疾患がある場合には心不全が悪化することがある。
・集中治療室の入室が必要な場合には死亡率が高くなる。
Q. 薬の副作用
・抗生物質の副作用で皮疹、下痢、肝機能障害を起こすことがある。しかし、自分の思い込みで抗生物質を中止してはならない。
Q. 受診のタイミング
・ふだんからかかりつけ医を決めている場合には、なるべく早めに受診、あるいは電話で相談し、受診すべきかどうかを決めてもらう。
・発熱、咳、痰などの症状が2,3日間の経過で改善してくれば抗生物質の効果があると判断し、そのまま治療を継続する。
・息切れが次第に悪化する場合、夜間に苦しくて眠れない状態、食欲が著しく低下し、食べられない状態が続く場合には入院治療が必要である。
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