• 木田 厚瑞 医師

No.87 難しいCOPDの増悪における治療の判断


2020年7月20日

COPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)の経過でもっとも問題となるのは増悪です。入院治療が必要となるかもしれないし、死亡リスクも高くなります。

以前には「急性増悪」と呼ばれていましたが必ずしも急性の経過だけではない、という理由で現在では「増悪(exacerbation)」と呼ばれています。

COPDの診療には、GOLDと呼ばれる国際的なガイドラインがあります[1]。

2020年レポートではCOPDの増悪とは、「呼吸器症状がいつもより悪化し、追加の治療が必要となる場合であり、特有といえる症状はないので類似した他の病気と区別すること」とまことにそっけない書き方です。

 他方、わが国のCOPDガイドライン[2]では、日本呼吸器学会発表の2018年版が最新ですが、増悪とは、「息切れの増加、咳や痰の増加、胸部不快感・違和感の出現あるいは増強などを認め、安定期の治療の変更が必要となる状態」と書いてあります。増悪の重症度の判定は重要で入院が必要かどうか、を判断しなければならない、とほぼ、同じような内容ですが、両方とも増悪と判断したら行うべき治療については詳しく記載しています。

 治療を始めるタイミングを先の記載に従い判断することはまことに難しい。結局は、臨床経験により判断するという曖昧さに拠らざるを得ません。

COPDの「増悪」についての国際的な治験を開始しよう、という動きがあります。その前に治験計画を検討しよう、という論文[3]が発表されました。「増悪」というCOPDの治療でもっともハードルが高い部分を解決しようとするのが目的です。

 国際的なコンセンサスを得るには大規模な治験が必要なですがその理由を挙げ、開始前の問題点を整頓しています。



Q.COPDの治療経過の増悪とは?


・COPD患者の22-40%は1回以上、中等度以上の増悪を経験している。

・一度、増悪を起こすと次の増悪を起こしやすくなる。

・特に心血管病変を起こしやすい。

・増悪を起こすとQOL (生活の質;生きがい、満足度)が低下する。

・肺機能障害が進行する。

・入院が必要な程度の重症の増悪では、退院後90日以内に死亡するリスクが高い。




Q.増悪治療の問題点は?


・最重症の増悪では入院治療が必要である。

・現在の増悪治療は不十分である。増悪時の治療法は10数年以上にわたり進歩がない。




Q.増悪についての考え方の問題点とは?


・増悪の明確な定義がない。すでに存在する呼吸器症状の悪化、という解釈は不十分である。

・血液所見など明確なバイオマーカーが無く、増悪という診断が確定できない。

・増悪の診断では厳密に他の呼吸器疾患との鑑別、心血管病変などの鑑別が必要である。

・担当医の個人的な見解で入院の必要性、抗菌薬、ステロイド薬の投与方針が決められている。

・増悪は多様であり、複雑である。従って抗菌薬、ステロイド薬の投与法が難しい。

・治験を開始するには事前に患者に対し、病態、重症度を説明しなければならないが一定にすることが難しい。




Q.増悪の原因の多様性とは?


以下の項目のいずれか、あるいは複数の可能性

・ウィルス感染

・細菌感染

・大気汚染

・喫煙、受動喫煙

・好酸球性炎症

・全身性炎症

・不安神経症、パニック

・鬱傾向

・過度の運動

・喀痰量の増加

・逆流性食道炎

・声帯機能不全

・上気道傷害

・指示通り薬を使用していない




Q.増悪治療の基本的な考え方は?


・原因を除くあるいは軽減する治療

・炎症を抑制するような全身的な治療

・肺組織を防御するような治療



 増悪の治療は、COPDの治療の中ではもっとも難しいと感じます。

私は、患者さんから話を聞いて、数日の経過か、数週間か、あるいは数か月間の経過を重視します。数か月間の増悪とは想像し難いかも知れませんが暮れにカゼ気味となり、呼吸困難が次第に悪化。咳や痰が多い状態が春先まで続くと云う場合で初診の患者さんの多くにみられます。それに対し、短期間で経過する増悪は原因の推定は容易です。

経過に加えて診察の所見、特に肺の聴診所見や下肢の浮腫の有無などに加え、胸部X線所見、心電図、血液所見を総合的に診て判断します。

 治療は、GOLDや、わが国のガイドラインの方針に従って進めますが、高齢者や多忙な人では薬を忘れたり、間違ったりする可能性があります。他の合併症があるか、どうかも重要な情報で、治療の際に考慮しなければなりません。さらにCOPDと喘息は似ている部分がかなりありますが、もっとも異なる点は増悪に対する考え方であると思っています。

COPDの増悪治療は、きめ細かく診る、という言葉につきるようです。





参考文献:

1.Global initiative for chronic obstructive pulmonary disease.

Global strategy for diagnosis, management and prevention of chronic obstructive pulmonary disease. 2020 Report.

https://goldcopd.org/gold-reports/

2.日本呼吸器学会COPDガイドライン第5 版作成委員会編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2018.

3.Mathioudakis, AG. et al. The DisEntangling chronic obstructive pulmonary disease exacerbations clinical trials NETwork (DECODE-NET): rationale and vision.

Eur Respir J 2020; 56: 2000627 [https://doi.org/10.1183/13993003.00627-2020].


※無断転載禁止

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