• 木田 厚瑞 医師

No.88 好酸球をどのように読み喘息、COPDの新しい治療戦略を立てるか


2020年7月20日

重症の喘息の治療は、最近、数年間に大きく変わりました。バイオ製剤(抗体薬)と呼ばれる新しい薬が使われるようになったからです。新しい薬は、どれも高価ですがうまく当たると劇的な改善効果が得られます。さらに、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の一部でも効果があることが判明しています。

治療の目安となっているのが好酸球です。血液の中を流れる細胞はどれも生体にとって大切な作用をもっていますが中でも詳しく分かっていないのが好酸球です。その役割は重要ですが情報は現在のところ断片的です。

近年、医療では精緻医療(precision medicine)という概念が提唱されています。指標となるデータにもとづき、無駄をなくし、ピン・ポイントで治療を行うという考え方で、指標はバイオマーカーと呼ばれています。

好酸球がバイオマーカーとして喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)治療の方針を決めるために使われるようになりました。ここでは関連した情報について解説します。結論が明確にはなっていないので説明はやや複雑ですが以下に4編のまとめを記します[1-4]




Q.バイオマーカーとは何か?


米国の政府機関であるFDA(アメリカ食品医薬品局)は、次のように定義している。

「正常な生物反応、あるいは病的な状態の判断、治療効果の判定の指標」。

好酸球が喘息治療のバイオマーカーとして使えるので注目されている。



Q.好酸球の特徴は?


  • 白血球と同じく顆粒球のグループに分類される細胞である。

  • エオシンという色素で赤く染まるのでこの名がある。

  • 骨髄で産生され、身体の組織中には血液中の数百倍が存在する。

  • 好酸球は、外部環境と組織を仕切る上皮細胞の近傍に多い。具体的には、呼吸器系、消化器系、下部の尿路系に多い。

  • 同じ顆粒球である好中球よりも長く組織中に生存し、組織中で数週間にわたり観察される。組織中での好酸球の働きは不明である。




Q.好酸球の形態は?


  • 電子顕微鏡では、濃くみられる結晶構造を含む。

  • その他に2種の結晶構造を含む。一つは結晶の中心構造となるコアがない。他はより小さな顆粒構造で中に酵素を含んでいる。さらに管状構造や小さな顆粒構造が見られるが作用は不明である。




Q.好酸球は何をしているのか?


  • 古くからアレルギー関連の病気や寄生虫感染で増加することが知られている。しかし、それ以外の多様な働きをもつ不思議な細胞である。

  • 医学教科書を見ると好酸球は、自然免疫、獲得免疫の機序に関係する修飾因子として働き、全身の炎症、局所や組織の傷害、炎症や腫瘍免疫に関わると記載されている。

  • 呼吸器疾患の中で好酸球はアレルギー性喘息の経過に深く関わることが知られている。今から、45年前、Hornという研究者がこの数の動きを喘息治療に利用できないだろうか、と提案したが特に注目を集めることはなかった。最近になりこの考え方が見直されている。



Q.好酸球の細胞内の物質について?


結晶構造の中には、lysosomal hydrolaseという酵素が含まれることが知られている。

結晶構造中に含まれるその他の構造物としては以下がある。


Major basic protein: アルギニンを多く含む。酵素活性はないが寄生虫、腫瘍細胞、宿主である生体に対して毒性を呈する。

Eosinophilic cationic protein: 抗細菌作用、抗寄生虫作用がある。 Eosinophilic derived neurotoxin: Charco-Leiden 結晶を形成するタンパクを含む。(コラム No.17, 参照)。

 



Q.好酸球との結合は?


  • IgAと結合する受容体がある。特に、secretory IgAと好酸球が結合する。

  • 血中のIgEと好酸球数はほぼ一致して増減する。

  • 好酸球の表面には3種のサイトカインの受容体がある。IL-3、IL-5、GM-CSF(granulocyte-macrophage colony stimulation factor)

  • 女性ホルモンエストロゲンと副腎皮質ホルモンの受容体を有する。



Q.好酸球が活性化するとは?


  • 疾患状態では好酸球は活性化させる。その結果、細胞内の顆粒の数、形が変化する。その状態は、喘息、寄生虫感染、腫瘍で認められる。

以上より好酸球は、多くの能力を持ち、しかも好中球よりも組織の中で長く生存する。しかし、詳しい働きは分かっていない。



Q.好酸球の機能?


  • 好酸球は生体の中ではさまざまな作用を有する細胞である。

  • 好酸球は、自然免疫、獲得免疫における修飾因子としての役割を有し、局所や、全身炎症、組織障害、腫瘍免疫に関与する。

  • アレルギー性喘息の進展に関与している。炎症反応として、Th2 細胞の活性化、サイトカイン遊離作用に関係する。



Q.COPDと好酸球の関わり?


  • 古典的にはCOPDは、喘息とは全く機序が異なるTh1 免疫反応が関与し、好中球が中心の炎症と考えられてきた。しかし、近年、一部は好酸球による炎症反応を伴っていることが判明している。

  • COPDの増悪時に増加することがある。

  • 抗体薬の効果判定に好酸球数は参考となるが他の炎症反応などのデータを組み込むことで精度を上げることができる。



Q.健常者の好酸球数はどのくらいか?


  • 通常、行う血液検査では、全白血球の5%以内。

  • 健常者の血液中の好酸球数:0.05-0.5 x 109 cells/L (血液1L中の細胞数)

  • 好酸球増加の目安:0.5 x 109 cells/L 以上



Q.明らかとなった健常者の好酸球数は?


  • 健常者、35万人を調査した結果では好酸球が増加しているが健康と判断される人が4%いることが判明した。

  • 好酸球の中央値は、0.210 x 109 cells/Lであることが判明した。これは、正規分布しておらず右側(多い方)に人数が多い。さらに、年齢、性の差異があることが判明した。健常人で好酸球数が多い人がいるが理由は不明である。

  • アトピーがあると好酸球数が増加する。しかし、好酸球数とアトピーの重症度は相関しない。

  • 健常人75%では、好酸球数は、0.210 x 109 cells/L 以下である。➡これ以上の増加となるのは次の場合である:男性、若年者、皮内反応陽性者、現喫煙者、肥満、メタボリック症候群、喘息、COPD。

  • 健康人で好酸球数が多い人を除外した正常値は以下の通りである。

  • 男性:0.120 x 109 cells/L

  • 女性:0.100 x 109 cells/L

  • アトピーがある人では好酸球数が増加するがアトピーの重症度と好酸球数は必ずしも相関しない



Q.好酸球が正常値より減少している場合は?


  • 性的な細菌感染や肺炎のリスクを高める。




Q.バイオマーカーとしての好酸球数の意義は?


  • 好酸球数増多あり ➡ COPDの治療で吸入ステロイドの効果が期待できる。

  • 好酸球数の増加がある場合には抗体薬の効果が期待できるが明確な健康人との線引きは難しい。

  • 好酸球数と治療効果は一致しない。

  • COPDでは増悪や、喫煙により変動する。

  • COPDでは患者間の病態が複雑であり、好酸球数の変化は参考所見となるが個人差が大きい。




好酸球は、外部環境と組織を仕切る上皮細胞の近傍に多いのはその役割が推定されるようです。

好酸球は生体にとって善玉であるのか、悪玉であるのか、の判断は極めて難しいようです。

その理由は、健康状態で何をしているのかが不明であること、好酸球が有する酵素活性などの全てが解明されているわけではないこと、肥満細胞や好中球など他の細胞の関係やサトカイン、IgEなどと、病的な状態でどのように変化するか、が不明です。

恐らく、喘息だけでなくCOPDやその他の呼吸器疾患まで含めて好酸球を介する抗体薬の効果が期待できる可能性があります。



参考文献:

1. Vedel-Krogh S. The search for the “healthy” blood eosinophil count

Eur Respir J 2020;55: 2000473 [https://doi.org/10.1183/13993003.00473-2020].

2.Weller PF. The immunobiology of eosinophils

New Eng J Med 1991; 326:1110-1118.

3. Pavord ID. Blood eosinophil-derived management of airway disease

Am J Resp Crit Care Med. Articles in Press. Published May 01, 2020 as 10.1164/rccm.202004-1013ED

4.Singh D. et al. Blood Eosinophil Counts in Clinical Trials for Chronic Obstructive Pulmonary Disease

Am J Resp Care Crit Med. Articles in press. Published March 18, 2020 as 10.1164/rccm.201912-2384PP


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