2020年8月25日
リハビリテーション(Rehabilitation)は元々の日本語ではないため、正確な理解は難しく、しばしば、誤解を招く言葉です。広辞苑には、「治療を終えた疾病や外傷の後遺症を持つ人に対し、医学的・心理学的な指導や機能訓練を施し、機能回復・社会復帰をはかること」と書いてありますが、これは、現代のリハビリテーションの考え方を必ずしも正しく表現しているとはいえません。
リハビリテーションの語源はラテン語で、re(再び)+ habilis(適した)、すなわち「再び適した状態になること」で「本来あるべき状態への回復」などを意味する言葉です。病気があっても、そこから新たな生活を構築していくための過程と考えられます。
慢性に経過する呼吸器疾患の治療では、リハビリテーションの考え方を持ち込むことが特に必要です。治療は、薬物治療+非薬物治療であり、後者がリハビリテーションであり薬物の治療効果を高めるための方法です。息切れが強くなり不自由となった生活を「再び適した状態になること」、「本来あるべき状態への回復」させるためにはリハビリテーションは必須の治療です。
わが国では、在宅で暮らしている患者さんが呼吸リハビリテーションを続けるのは難しい環境にあります。病院では、主に入院中の患者さんにしか、呼吸リハビリテーションをする余裕がないからです。外来で呼吸リハビリテーションを継続して実施している施設は限られています。リハビリテーション教室のような形で開いているところはありますが集団教育は、欧米ではリハビリテーションとみなされていません。あくまでも個人ごとに指導、教育しているものでなくてはなりません。
欧米では学会や患者会、NPOなどが中心となり実施しているところがあります。
ここでは、そのような組織から発信している呼吸リハビリテーションの基本的な考え方、注意事項を紹介します。
Q. リハビリテーションが必要な呼吸器疾患は?
・呼吸器症状が長く持続する慢性呼吸器疾患の全てが対象である[1]。具体的には以下の場合。
・COPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)
・気管支拡張症
・重症の喘息
・肺高血圧症
・間質性肺炎
・肺がん、および術後
・その他、肺移植後
Q. 呼吸リハビリテーションで必要な内容は?
・呼吸リハビリテーションは、「運動」と「患者教育」から成り立つ。
・患者教育には以下の項目が含まれる。
▶ 薬について正しく理解する:薬の作用、副作用、吸入薬の使い方、自分で行うべきセルフケアの内容。
▶ 在宅酸素療法、在宅人工呼吸療法を実施している場合には正しい使い方を理解する。
▶ 栄養療法:栄養バランス、体重のコントロール。
▶ 効率的な呼吸法の習得。
▶ 運動の重要さ。
▶ 呼吸器症状をコントロールする方法。
▶ 自分が持つ呼吸器症状の増悪についての理解。
・運動について
▶ 運動療法の内容は、その人の生活に必要な処方が必要である。
▶ 運動により持久力を高め、筋力を増強することができ、日常生活を快適に変えることができる。
・さらに必要な項目は精神的な支えである
▶ 慢性の呼吸器疾患では、不安神経症、うつ病など精神的な悩みが多い。リハビリテーションのプログラムは心理的なサポートまで含めた治療内容にすべきである。
Q. 自分で行う運動療法の注意点は?
米国のNPO法人、肺気腫財団は、運動療法の継続の大切さを指摘し、継続するときの問題点をまとめている[2]。特に、近くに運動療法を指導してくれる場所がない場合には以下に留意すべきである。
・まず、運動療法について熱意をもって指導や、勧めてくれる主治医を探すべきである。単に薬の処方だけでなく、症状のコントロールや、増悪の予防など必要な情報を与えてくれることが必要である。
・呼吸法を体得することが必要である。
呼吸法は「口すぼめ呼吸」(pursed lip breathing: PLB)を習得することが大切である。
▶ PLBの方法:鼻から息を吸い、30㎝程度、離して手のひらに口笛を吹くように口から息を強く吐く。このとき、手のひらに息が感じられるように強く吐くことが大切である。息を吐き時は、なるべく時間をかけて(5秒くらいの時間をかけて)吐くのがコツである。
▶ 椅子に座った状態で、これを練習する。座った状態でできるようになれば立った状態でこれを練習する。息を吐くときに時間をかけて吐くのがコツである。
▶ 立った状態でできるようになれば、平地を歩きながらこれを行う。歩くときには歩行のリズムに一致して息を吐くのがよい。「吸って、吸って、吐いて、吐いて、吐いて」というように呼気に時間をかける。
▶ 平地を歩きながらPLBができるようになれば短い階段を上りながらこれを行う。
・運動を始めるには:平地をゆっくり歩くことから始める。
運動習慣がつくまでは、週に3~5回、各5~10分間の歩行練習から始める。歩くときは必ずPLBをおこなう。
Q. 運動の基本的な考え方は?
以下の各項目に留意して運動を行う。これらは、英語の単語の最初の文字を連連ねたFITTEを基本とする。以下がその内容である。
F:Frequency 頻度
➡ 毎週3回で週に5-7日間を日課とする
I: Intensity 強度
➡ 中等度から始める。運動中に話すときは、苦しくなるのでなるべく短い単語で話すようにする。
T: type
➡ 自分で行うときは歩行がもっとも安全である。運動に慣れてきたら水泳やバイクを使った運動に広げてゆく。
T: Time
➡ 最初は数分間から開始し、1週ごとに1~3分間くらいずつ運動時間を延ばしていく。利用が簡単で、安上がりで、便利な方法を選ぶ。
E: Enjoyment
➡ 運動は楽しみという部分がなければ長続きしない。音楽を聞きながら、テレビを見ながらなど、楽しむという要素を組み込むように工夫する。
Q. 運動の3要素とは?
以下の3要素が運動の中に入っていることが必要である。
▶ Aerobic: 有酸素運動
▶ Resistant training:筋に負荷をかけたトレーニングのことをレジスタンス運動という。
▶ Flexibility:ストレッチ運動や四肢の関節や筋肉を使うような運動とする。
COPDのような慢性の呼吸器疾患を治療ではリハビリテーションを組み込んだ治療にすることが大切です。自分だけで運動を行う場合にはしばしば、その病気の治療では強すぎることがあります。強すぎる運動は心臓に過度の負担をかけ危険なことがあります。できれば呼吸器専門の理学療法士の指導を受けながら開始することにより、自己流を避けることができます。当院では、中村病院(墨田区曳舟)、要町病院(豊島区要町)と連携しながら呼吸リハビリテーションを実施しています。
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