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No.289 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の合併症としてみられる病気の機序とは何か?

2025年2月4日


 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、睡眠中に気道が狭くなったり虚脱したりし、いびきをかいたり、呼吸が停止する状態を繰り返す病気です。OSAの有病率は、若年成人期(20~39歳)から60歳代、70歳代にかけて増加し、その後、横ばい状態となります。女性では閉経後に頻度が高くなります。また、最近、妊婦のOSAが問題となってきています[1]。

罹患率の高い国は、中国、米国、ブラジル、インドの順です。わが国は米国と同じ程度です。中国人に多い理由は、遺伝的に起こしやすいこと、人種的な特徴、解剖学的に上気道が狭くなりやすいことです。さらに生活習慣としてアルコール摂取、喫煙が悪化要因です。

ここで紹介する論文[2]は、OSAの総説であり、疫学、発生率、病態生理学的な機序について概説しています。注目すべきは、睡眠中に生ずるいびき、無呼吸により生ずる低酸素血症が、二次的に全身にどのような悪影響を及ぼすかについて分子生物学的な知見を詳細に検証しています。引用文献数は760編という大部です。OSAを臨床的な見地から解説した文献は数多く知られていますが、分子生物学的な意味づけを解説した論文は多くありません。推論による部分も多々、みられますが著者たちが強調している繰り返し、睡眠中に起こる低酸素血症が、身体の臓器にどのような悪影響を及ぼすかの基礎的情報は貴重で

す。




Q. OSAで知られている概要は?


・OSAは低呼吸と換気時の無呼吸を特徴とする。その結果、断続的な低酸素症(IH)、高二酸化炭素血症を引き起こし、血中酸素飽和度の低下、睡眠の断片化、夜間の覚醒の繰り返し、呼吸努力の亢進、交感神経活動の増加を起こす。結果として、いくつかの病気が発症するリスクを高める。


・30歳~60歳の一般集団におけるOSAの発生率は男性で24%、女性で9%である。世界中で約10億人が罹患していると推定されている。




Q. 肥満との関連性は?


・OSAのリスクは肥満の程度と相関する。Body mass index(BMI)の増加とともにリスクが増大する。肥満は肺活量の低下、肺の換気と血流の比、肺および胸郭の運動制限を起こす。


・肥満による上気道への脂肪沈着により狭くなること(相対狭窄)や上気道虚脱を起こす顎顔面構造の異常(絶対狭窄)が原因となる。


・心不全、腎不全がある場合には日中には下肢の浮腫を起こした水分が、夜間の仰臥位では下肢から首にかけて下肢の体液量が移動し、上気道の虚脱を起こす可能性がある。

後述のようにOSAが虚血性心疾患や高血圧の原因となるが、結果として生じた下肢の浮腫がさらにOSAを悪化させる。




Q. 睡眠覚醒閾値の変化を起こす原因は?


・OSAの2/3では睡眠中に目を覚ましやすくなる低覚閾値となりやすい。しかし、覚醒現象は、覚醒させることにより気道閉塞の状態を終わらせる生体にとっては重要な反射運動である。睡眠を深くするために習慣的に睡眠薬を服薬したり、アルコール摂取は危険な状態を作り出し、持続させることになる。




Q. 吸気相と呼気相にみられる問題点は?


・OSAでは心血管病変のリスクの頻度が高くなり、しかもこれは、OSAの重症度と深く関連する。


・非アルコール性の脂肪肝の発症原因に関係する。


・吸気相から呼気相を繰り返す呼吸運動はループゲインとも表現されている。ループゲインは呼吸の不安定性の尺度であり、OSAの約36%でループゲインが高いことが報告されている。




Q. OSAにおける酸素濃度の重要性は?


・細胞が正常な機能を営むためには酸素が重要である。低酸素への適応は特定の酸素感受性遺伝子の活性化に依存する。さまざまな酸素還元感受性転写因子が知られているが、中でもHIF(低酸素誘導因子)ファミリー(HIF-1, HIF-2, HIF-3など)が主な因子である。そのなかでもHIF-1に関する基礎研究が進んでいる。


・HIF-1αは100種を超える標的遺伝子が関与している。これらは炎症と免疫、代謝、血管新生、細胞の生存(アポトーシス)、癌の転移に関係する。従って、広い意味ではOSAはこれらの背景要因として重要である。

 



Q. 低酸素症と腸内細菌の関係は?


・OSAでは腸内細菌叢の異常をきたす。


・正常な生理学的な状態では、宿主(身体)と腸内細菌叢は密接に関係している。

腸内細菌叢には少なくとも1500種の微生物と100兆以上の細菌がいる。また、リンパ組織の70%が腸組織に存在し、腸に関連する免疫に関与している。結腸に生息する多い細菌では、放線菌、バクテロイデス、プロテウス、など5種類が知られている。


・腸内は低酸素であるが細菌叢の維持にはそれぞれに必要な酸素量が知られている。最近の動物実験によりIHが動脈血と小腸の内腔に周期的な酸素欠乏、再酸素化パターンを誘発することが判明した。


・宿主は腸内のバクテリア類に栄養と生活環境を提供する。他方、細菌は宿主の免疫状態を維持し、有害な微生物にはバリアをして機能し、宿主に栄養素を提供する。




Q. OSAと新型コロナウィルス感染症の関係は?


・OSAは男性、肥満者、糖尿病に多いことが知られているがこれらは新型コロナウィルス感染症リスクファクターでもある。




 OSAの基本的な治療はCPAP療法です。CPAPはオーストラリアの医師、コリン・サリバンにより発明された治療法です(コラム No.3 参照)。

本論文の特徴は、OSAが腸内細菌へ影響し、これがさらに心血管病変や発癌に至るまで全身のさまざまな病気の発症に関わる可能性を、これまでの研究報告をもとに仮説として提唱しています。

 著者の所属は中国ですが、基礎医学研究が急速に進歩してきた実態を示すものであり、また中国人に多い、OSAを基礎、臨床の研究者が協力して解決しようとする意気込みが感じられる論文です。




参考文献:


1.これからの時代の「新しい呼吸ケア」、木田厚瑞著、法研、2023。


2.Lv R. et al.  Pathophysiological mechanisms and therapeutic approaches in obstructive sleep apnea syndrome.

Signal Transduction and Targeted Therapy 2023; 8:218


※無断転載禁止

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