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No.366 生まれつき肺のサイズが小さめの人

  • 2 時間前
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2026年8月15日


 「小顔ですっきり見える」というキャッチコピーを目にして、小顔が美人の代名詞なのか、と妙に納得した覚えがあります。肺はどうか。体格に比して肺のサイズが小さい、「小さな肺の人」という論文を読んで考えさせられました [1]。著者のPeter Burneyは、英国のNational Heart Lung Institute, Imperial College Londonに所属する呼吸器病学の研究者ですが、一貫して「小肺症候群」という病変の重要さを主張しています。肺の病気についてはCOPDがその代表であるように膨らみ過ぎ(過膨張肺)と逆に病気により元のサイズより小さくなる間質性肺炎・肺線維症が問題とされてきました。これに対し、Burneyは、肺のサイズが生まれつき小さめであることを問題としています。例として、肺移植を行う際、体格を基準に適合を選んでいるのに時に合致しない、などがあると指摘しています。さらに、「小さな肺の人」は、寿命の長さに関係するという主張は、注目すべき提言です。その理由として、肺と心臓が不調和となる小肺症候群では心血管病変を起こしやすく、それが死亡原因となりうるのではないか、という仮説は重要です。肺と心臓は、ともに、いのちの長さに深く関係する臓器であり、しかも両臓器は「胸腔」という同じ空間にあり、互いに接した状態で存在する臓器です。

 Burneyのいう、「小肺症候群」とはどのような病態なのか、周辺の問題点として肺の容積をめぐる研究史から考えてみます。




Q.  「生存の容積」すなわち「vital capacity」 とは?


・現在、臨床現場で行われている肺機能検査(スパイロメータ)ならびにvital capacityという用語を作り出したのは、19世紀半ばのJohn Hutchinson である。


・呼吸を測定し、病気や職業に与える影響を定量化する装置を作ったのは彼が初めてではないが、水封式の装置を作製し、これをスパイロメータと命名した。ラテン語のSPIRO(呼吸する)とMETER(測定する)に由来する。

 ➡歴史的には、いのちの大きさを測定するという研究が今日の肺機能検査の源流だと考えられる。


バイタルキャパシティ (vital capacity, VC) とは、最大吸気後に最大限に呼気できる空気の量をさす。これは肺の拡張性と機能を示す重要な指標であり、通常はリットル単位で測定される。

 ➡「バイタル (vital)」は、ラテン語の「vitalis」(生命の、活力の)から派生し、「キャパシティ (capacity)」は、ラテン語の「capacitas」(受容能力、容量)に由来する。これらの単語は、合わさることで「生命のために必要な容量」という意味を持つようになる。

 ➡現在、日本語では肺活量と呼ぶが歴史的には「生命の容量」が語源。

 ➡肺活量の測定から派生した肺機能検査は、現在では複雑に分けられ、当時とは異なる電子機器として発達し、COPDや喘息、間質性肺炎など呼吸器疾患の評価方法では欠くことができない大切な検査方法となっている。

 ➡バイタルキャパシティは、肺の健康状態や呼吸機能の評価にとって重要である。特に呼吸器疾患を細分化して治療計画を立てる際に重要な指標となる。

 

肺活量(vital capacity、VC)とは、息を最大限、吸い込んだ後に肺から吐き出せる空気量のことである。肺の全肺気量(Total lung capacity、TLC)から残気量(residual volume、RV)を引いた値と一致する。単位はmLが用いられる。肺気量は性別や年齢によって異なる。


・ヒトは普段の肺呼吸において、肺活量の全てを換気しているわけではなく、せいぜい1回の呼吸において500 ml程度を換気しているに過ぎない。




Q. 肺の機能とは?


・肺機能とは気道内の空気の流れ、その体積と容量、そして酸素供給などを含む生体の機能を指す。


・肺と心臓や血管の解剖学的・生理学的連続性は、肺機能のどこかの部分の障害が心血管の健康に影響を与える可能性があることを示唆している。

 ➡過去の病態生理学的研究から、閉塞性換気障害(例:COPDなど)および拘束性換気障害(例:間質性肺炎など)が心血管疾患(CVD)と共存していることが明らかになった。

 ➡これら二つの臓器系の病理を結びつける可能性のあるメカニズムは不明であったが、喫煙を含む共通のリスク要因は深く認識されてきた。

 ➡冠動脈疾患だけでなく肺疾患と心機能障害との関連はよく認識されている。

 ➡スパイロメトリーは、肺機能を評価するための最もシンプルで広く利用されている方法の一つである。

 ➡測定項目の強制肺活量 (FVC)、1秒内の強制呼気量(FEV1)、およびFEV1/FVC比の異常は、いずれも心血管リスク因子およびその増加と関連している。




Q. 肺と心血管系が関連して起こる病気とは?


肺疾患と心臓疾患の密接な関係は長らく認識されてきたが不明の点が多い

 ➡病理解剖による研究では、進行した肺気腫患者の死因として気づかれていないサイレント心筋梗塞や冠動脈が石灰化を伴う強い動脈硬化が示されている。

 ➡最近の医療検査の技術と疫学的アプローチの進歩により、肺疾患と心血管疾患が中等症から後期に共存することが多いことが明らかになった。

 ➡FVC, FEV1、FEV1/FVCのデータから、これらの指標が高血圧、肥満、糖尿病などでの心血管リスク、脳梗塞の発症リスク、左心不全や心房細動などの心血管疾患の発症リスクを示している。

 ➡FVC, FEV1、FEV1/FVCの減少幅が大きいことは、心血管の罹患率、死亡率の増加と関連している。

 ➡しかし、肺機能障害と心血管機能障害を結びつける生物学的経路は明確ではないが、全身性慢性炎症は重要な基礎的な病態生理学的関連の一つと考えられている。

 ➡肺機能障害が心血管リスク因子として増えている証拠があるにもかかわらず、スパイロメトリー評価は臨床現場で特に、心臓患者において依然として十分に活用されておらず、最適な治療法や予防的戦略も依然として明確ではない。




Q. COPDの名称が提案されるまでの問題点は?


・1958年に開催されたCIBA国際シンポジウムは、今日に至るCOPDの出発点に近いと考えられている[2]。そこでは、「非特異的肺疾患というカテゴリーが定義され、肺がんなどの腫瘍、肺炎などの感染症、その他、職業性に起こる珪肺など働いている環境の影響で発症するそれまでに知られている呼吸器の病気はすべて除外した後に残る疾患グループとした。

 ➡このグループには、気管支炎(症状によって定義)、肺気腫(組織学的所見によって定義)、可逆性(喘息)および不可逆性(後に慢性閉塞性肺疾患[COPD]と呼ばれる気流閉塞が含まれていた。

 ➡非特異的肺疾患という用語は現在では一般的に使用されていないが、国際疾病分類第8版(ICD‑8、1965年発行) 以降、このグループはまとめて「特定の下気道疾患」というタイトルで掲載されている。

 ➡しかし、ICDはシンポジウムの方針に従い、間質性肺炎など拘束性と分類される肺疾患をすべてこのグループから除外した。




Q.  「小肺症候群」の病名を提唱する理由は?


・拘束性障害を非特異的肺疾患から除外すると、努力肺活量(FVC)の低下は、分類で特定の肺疾患(ICD‑11、CA60‑CA8Z、CB00‑CB0Z)にのみ見られるという誤った印象を与える。

 ➡しかし、特定の診断ができない場合、あるいは COPDと誤診された場合のFVCの低下は広く見られ、死亡率の上昇と関連している。

 ➡すなわち小さな肺が問題とされた。

 ➡この状態は、特に南アジアおよび東アジアの低所得国でよく見られ、さらにサハラ以南のアフリカ、喫煙率が非常に低い国々も含まれる。


・肺活量のこうした地域差は、しばしば正常な変動として無視されてきたが、例えば、米国では、FVCが低いことがアフリカ系アメリカ人は、死亡率の上昇を含む健康状態の悪化と関連していた。


・1980年代、Barker、Osmondは、イングランドとウェールズにおける気管支炎と肺気腫による死亡率は  50年前の生下時の肺炎と気管支炎による乳児死亡と関連しているが、肺がん率との関連性は弱いと指摘した[3]。

 ➡この見解は、喫煙習慣がCOPDと肺がんを結びつける近年の見解に隠されてしまった。

 ➡しかも、FVCが低い状態で死亡する多くの人がCOPDによる死亡と誤分類された可能性がある。


FVCが低い人のほとんどは、気流閉塞でよく見られる、息切れなどの症状を呈している。ほとんどの人はスパイロメトリー検査を受けていないが、検査を受けた人はFEVが低いが、これをCOPDと誤診されている可能性がある。他方、ICDにはこれらの人を分類するための代替の病名がないため、COPDによる死亡と認定される理由がある。


➡以上が小肺症候群の病名を提唱する理由である。


 


Q. 小肺症候群の臨床的な意義は?


・FVCと FEV1/FVCの間には相関関係はなく、  FVCの低下はむしろ総肺容量の低下を反映している可能性が高い。総肺容量の低下は、動脈硬化の増加と死亡率の増加の両方と関連しているため重要である。総肺容量の低下の指標であるFVCの低下は、死亡率の増加および心血管系および代謝系の異常とも関連付けられている。これらの併存疾患は関連していると頻繁に主張されているがこの病態を正しく認識するためには、新たな診断名が必要である[1]。




Q. アジア人の小肺症候群は?


小肺症候群という用語を用いることで、基本的な異常(総肺容量の低下)とそれに伴う合併症の両方を包括的に捉えることができる。


・ほとんどの調査では、小肺症候群はFEV1に関係なく、低いFVC(すなわち、正常な無症状の非喫煙者集団の5パーセンタイル未満)として定義されるが、臨床現場では、肺活量の遅延、あるいは疑わしい場合には低い全肺容量からより正確に特定される可能性がある。


・小肺症候群の頻度は、40歳以上の人口のうち、FVCが正常値の下限(ヨーロッパ系アメリカ人の場合)を下回る人の割合は、ヨーロッパと北アフリカでは10~20%であるが、アジアとサハラ以南アフリカの低所得国および中所得国では20~80%とかなり高い。

 ➡白人よりも体格が小さな人種でみられる病態である可能性が高い。




Q. 「小肺症候群」という新病名の提案によるメリットは?


・この病態に新病名を付けることで、医師がそれを認識しやすくなり、医療の質や日常的な統計データの収集が改善される可能性がある。


・逆に、この問題を認識しないと、小肺症候群の患者がCOPDであると誤解する誤った認識が続き、不適切な治療や管理につながる可能性がある。

 ➡現時点では、小肺症候群は肺の発達異常である可能性が高いが、その病態についてはほとんど分かっていない。




Q. 「小肺症候群」はどのような臨床問題を引き起こす可能性があるか?

 

・いくつかの遺伝子変異がこの疾患と関連付けられているが、その変動のごく一部しか説明できない➡遺伝子診断が応用できない可能性がある。


特異的な治療法はなく、さまざまなケアパッケージの有効性は検証されていない。


・無批判にCOPDの診断群に入れられた場合に、現在、診療ガイドラインで示されている治療法の中に入れられてしまい、しかも効果の乏しい薬物治療が行われる危険性がある。


・しかし、新しい診断方法、治療方法が確立されるまでのケアパッケージでは、少なくともこの疾患を特定する必要性がある。


心血管リスクを監視および管理する必要性を強調すべきである。


・貧困国で負担が大きいことから、研究の主な場所は低所得国および中所得国であるべきである。




 昭和20年から25年に生まれた人たちが後期高齢者に入ってきています。この時代は、発育期に貧困な栄養状態が問題とされた時代です。肺の成長発育は胎児期、乳幼児期を経て思春期の終わりころまで気管支➡細気管支と枝分かれが進み、細気管支の発育がゴールに近づくとその先に肺胞が形成され始め、20歳前後で完成し、その後は一転して老化が始まる臓器です。発育期に低栄養であったり、肺炎など重篤な疾患を経験するとその後の発育に支障をきたし、その間に発育期が過ぎてしまいます。加齢変化は、一様に進むので樹木でいあえば小枝や葉を十分に付けない枝が出てきます。

ここで紹介した「小肺症候群」は、現在のわが国の後期高齢者に見られる可能性があることを示唆しています。しかも、体格の良い、現世代が高齢化したときにはあまりみられなくなる可能性があります。

 

 COPDでは、病的な肺の過膨張状態が問題とされてきましたが本論文で指摘する「小肺症候群」は、サイズが小さな状態も同じ問題点が生ずる可能性を指摘しています。「小肺症候群」の正確な診断方法は今後の研究の進歩を待ちたいと思いますが、すでにこの時期に入っている人たちに向けての適切な診断、治療方法、あるいは適切な呼吸リハビリテーションの開発は急ぐ必要があります。また、論文は、患者さんを受ける医療者側では、呼吸器科医、循環器内科医の互いの連携作業が必要であることも示唆しています。




参考文献:


1.Burney P., Knox-Brown B., Amaral AFP. et al.

Small lung syndrome: the need to reclassify chronic lung disease. Lancet Respir Med 2023; 11:405-406.


2.Fletcher CM, Gilson J, Hugh-Jones P, Scadding JG.

 Terminology, definitions, and classification of chronic pulmonary emphysema and related conditions: a report of the conclusions of a CIBA guest symposium.

Thorax 1959; 14: 286–299.


3.Barker DJP, Osmond C.

Childhood respiratory infection and adult chronic bronchitis in England and Wales. Br Med J (Clin Res Ed) 1986; 293: 1271–75.


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