• 木田 厚瑞 医師

No.37 COPDの成因についての研究


2020年3月4日


COPD (慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)がどのような原因で発症するかについては、FletcherとPetoの研究(1977年)が嚆矢とされています。

彼らは、ロンドンで働く若い労働者たちの追跡調査から原因が喫煙であることをつきとめました。

以来、50年以上が経過し、COPDがどのようにして発症するかの基礎研究は著しく進歩しました。


ここでは、COPDの成因について最近の論文をもとに解説します[1]。

著者の一人、Hoggは病理学者で肺の構造のどの部分から病変がスタートするかを明らかにしました。この論文は、米国で臨床医学雑誌として評価の高い雑誌にCOPDの臨床的な問題をまとめた論文[2]とセットとして掲載されています。(No.32をご参照ください)




Q.COPDについての古典的な考え方?


  • 発症しやすい人たちがあり、長年の喫煙により肺組織に治りにくい炎症を起こす。

  • 炎症は細い気管支、(細気管支)から始まり、その結果、細気管支の先の方に進行し、肺胞が広く崩壊する肺気腫ができる。細い気管支の病変が起こっているかどうかは検査でも分かりにくく、サイレント・ゾーンと呼ばれている。初期のCOPDが診断できにくい理由となっている。

  • 他方、呼吸に関わる肺の機能は加齢と伴に低下し、その結果、気道の中を空気が流れにくくなる気流閉塞を起こす。その結果、息切れや咳、痰の症状が起る。

  • これらの変化は治療によっても元に戻ることはなく、経過中にカゼなどを契機に一時的な症状の悪化が起る(増悪)。これを繰り返すと次第に肺機能はさらに低下していく。

  • 治療は、基本的には吸入薬の気管支拡張薬を使い、必要に応じて吸入ステロイド薬を使う。




Q.COPDについての新しい考え方?


  • COPDの1/3は非喫煙者である。その発症原因は、廃棄物や家事の煮炊きで煙状物質をくり返し吸入することにより発症する。

  • 心血管疾患を含む多数の併存症が知られており、COPDは全身性の疾患と考えられている。

  • COPDの一部は、肺の成長発育の障害が原因となり肺機能の低下を起こしている。発育の遅延あるいは障害は他の臓器にも影響が及んでいる可能性がある。

  • 診断は肺機能検査(スパイロメトリー)に拠るが症状、過去の増悪、などによるが胸部CTで肺組織が広範に壊れた肺気腫の存在から診断されることがある。

  • COPDの分類は、経過からみた肺機能の低下の様式により分類される。

(図1)

出典:Agusti A. et al. Update on the pathogenesis of chronic obstructive pulmonary disease

N Engl J Med 2019;381:1248-56.より改変



Q.COPDとタバコ煙との関係?


  • タバコ煙には原料の葉タバコ、香、味などを付けブランド力を高める目的で加えた化学物質が混入し、平均0.45 μmの微粒子が数百万個、含まれている。大粒子は鼻粘膜、口腔粘膜、喉頭や気管の粘膜面に付着する。中間サイズの粒子は、太い気道粘膜に付着。微粒子は細気管支(終末細気管支、呼吸細気管支)や肺胞の表面に付着する。

  • 気道の広い範囲に炎症病変を起こす。この時に関係する炎症細胞は好中球、マクロファージ、リンパ球である。




Q.COPDは進行するか?


  • COPDは多種の病態を含む症候群であり、その中に増悪を繰り返す一群の患者がいる。増悪を反復する場合は次第に悪化していく可能性がある。

  • COPDと併存する多彩な疾患が知られており、これが全体としてCOPDを悪化させる要因となりうる。これらには心血管疾患、悪性腫瘍、骨粗しょう症など多彩な慢性疾患がある。

  • 成人期にCOPDが発症した場合には高齢者では多彩な状態がありうる(図1)。一部では進行することがある。

  • 肺機能検査で分類された軽症、中等症のCOPDは、重症、最重症のCOPDとは異なる進行状態を呈するのではないか、という仮説がある。




Q.COPDは肺の老化と関係する。


COPDが老化過程と関係するという多くの研究データがある。


  • 高齢化とともに遺伝子が不安定となり異常を起こしやすい。

  • 老化に関係するテロメアの異常が起こりやすい。

  • タンパク質の異常を起こしやすくなる。

  • オートファージーを起こしやすい。

  • 気道や肺胞を構成する上皮細胞、内皮細胞のアポトージスが増加する。

  • 細胞内のミトコンドリアの異常を起こしやすい。

  • 細胞外マトリックスの異常が起こりやすい。


最も注目されている研究は、成長発育期に起こした肺の機能低下が、潜在的に全身におよぶ様々な臓器の障害を伴い、これに細胞老化などの加齢変化が加わりCOPDが発症するという仮説である。




COPDに関する基礎研究は急速に進んで来ています。

注目すべき点は、COPDは喘息に類似した疾患といわれた時期がありましたが、基礎研究の結果は両者が異なる病気であることを示しています。これを受けてCOPDの国際的なガイドライン、GOLD2020は、ACO (喘息-COPDオーバラップ)という疾患は認めないという方針を打ち出しました。これは別稿で解説します。




参考文献:

1. Agusti A. et al. Update on the pathogenesis of chronic obstructive pulmonary disease

N Engl J Med 2019;381:1248-56. DOI: 10.1056/NEJMra1900475


2. Celli, BR. et al. Using the peripheral blood eosinophil count to manage patients with chronic obstructive pulmonary disease

Ann Am Thorac Soc 2019; 16: 301–303.



※無断転載禁止


0回の閲覧

臨床呼吸器疾患研究所

呼吸ケアクリニック東京

​〒104-0031 東京都中央区京橋1-12-5京橋YSビル1階

​​☎ 03-6263-2143