No.373 治療を難しくする複数の病気が共存する場合の喘息治療
2026年10月14日
高齢者を含む、成人の喘息患者では、呼吸器以外にも、少なくとも1つの非呼吸器併存疾患とよばれる合併症があることが一般的です。例えば、高血圧や糖尿病、コレステロールが高い脂質異常症の治療と喘息の治療を同時に行う必要がある場合などです。
いくつかの病気が重なり、治療を受ける医療機関が多くなれば、薬の重複、あるいは他院での投薬が喘息を悪化させるようなことが起こる可能性があります。むかし、数人の患者さんで経験したことがありますが、緑内障で使われる点眼薬の一つ、βブロッカー薬が喘息や、COPDの息切れを悪化させることが疑われたため眼科医と連絡をとり、薬を変更していただき、症状が劇的に改善したことを経験しています。一人ひとりの患者さんが持っている、お薬手帳は患者さん、薬剤師、担当医をつなぐための大切な情報源となります。
喘息の治療が、担当する医療者による意見の相違を防ぐため、グローバル・イニシアティブ、GINA(ジーナ)という国際組織があり、新しい医療情報に基づき推奨される喘息のコントロール、喘息悪化や副作用のリスク要因の評価や標準的な治療法を呈示しています。しかし、加齢変化、複数の疾患がある多重疾患、日常生活での活動性の低下など、高齢者の喘息治療では、治療に並行して加わる呼吸器以外の条件が増え、複雑化していくことは避けられません。
難治性喘息における多疾患併存の負担は大きく、患者さんの様々な側面において深刻な悪影響を及ぼします。全ての患者さんに均等に時間をかけることは日常の診療の中での実現は不可能です。しかし、簡単な質問と検査を重ねることにより、有害事象のリスクが最も高い患者を特定することにより有効性、危険性を判別できればとても便利です。
英国の研究グループは、難治性喘息の多疾患併存スコア(MiDAS)を開発しました。
ここでは、高齢者の喘息治療で複数の病気が重なり合う多重疾患に焦点をあてた論文[1]を紹介していきます。
Q. 高齢者喘息の治療全般に対する目配りとは?
治療の全般では、以下の各項目に注意することが必要である。
・主に気道病変の種類、重症度の評価➡喘息の診断が正しいかどうかの判断。
・薬物の使用に関する注意点を明確にしておく。
・喘息がアレルギー性であるタイプ2の炎症を伴っているか、あるいはそうではないかの判断。
・喘息症状の悪化を来たす曝露の原因の究明。
Q. 高齢者喘息の併存症に関する注意点とは?
・以下の併存疾患について注意しながら治療を行う➡肥満、胃食道逆流症(GORD)、
不安、うつ病、食物アレルギー、アナフィラキシー、アレルギー性鼻炎、慢性鼻副鼻腔炎
Q. 治療が困難な喘息とは?
・喘息の評価の基礎には、併存症など喘息転帰に悪影響を及ぼす要因の体系的な評価が含まれる➡しかし、現在、そのような評価に含まれる併存疾患はごくわずかしか明らかにされていない。
・著者らの提案するMiDASはパラダイムシフトを提供する➡治療困難な喘息の臨床評価に多重疾患が組み込まれることが重要である。
Q. 喘息治療の目標と問題点は?
・治療目標➡問題点の解決を待つ細かく複数の部分に分けないこと➡患者の全体像として評価・治療することが必要である。
・現在の診療ガイドラインにより喘息がコントロール不良や、悪化した場合は、治療の強化を推奨している➡この推奨は通常、吸入コルチコステロイドの用量増加を勧めている ➡しかし、吸入薬の増量による効果はこれらの薬剤の平坦な投与-反応曲線をみると増量しても必ずしも改善しない、という理由で効果が制限されることが多い。
・最近の臨床エビデンス(証拠)では、高用量の吸入コルチコステロイドが肺炎、骨粗鬆症、白内障、肥満、2型糖尿病、心房細動、心不全などの併存症のリスク増加と関連していることを示唆している➡治療効果には至らず副作用発現が懸念される。
Q. 中高年の喘息の問題点は?
・糖尿病など代謝性や心不全など狭心症などの併存疾患は、遅発性喘息や高強度治療を受けている患者、または頻繁に悪化する喘息患者で頻度が高い。
・長期治療として経口コルチコステロイドを処方されることがあるが経口コルチコステロイドはこれらすべての併存症のリスクを高め、安全な用量範囲が設定されていない。
➡したがって、多重疾患が問題の原因であることを認識しないと、患者は経口コルチコステロイドや高用量吸入コルチコステロイドによる不必要な治療にさらされる➡全てではないが、これらはほとんど効果がなく、さらなる問題を引き起こす可能性がある。
Q. 紹介論文の要旨は?
研究の背景:
・難治性喘息における多疾患併存の負担は大きく、患者の様々な側面において深刻な悪影響を及ぼす。
・現在までに喘息と「多疾患併存症」を組み合わせた文献検索 ➡治療困難な喘息における併存疾患の複合的な影響を分かりやすく理解する多疾患併存症スコアが発表されていない。
研究の目的:
・喘息の重症度を総合的に評価した指標と関連のある指標を特定し、それらを用いて有害な転帰と関連する記述的な多疾患併存スコアであるMiDASを作成した➡これを使って喘息の臨床現場で安定状態を知る。
研究方法:
・英国を拠点とする難治性喘息のウェセックス喘息コホート(WATCH研究、n=500、2015年4月22日から2020年4月1日の間に収集されたデータ)のデータを使用して、難治性喘息の多疾患併存スコア(MiDAS)を開発した。
➡以下のプロセスで開発した➡最初に、WATCH研究で修正喘息重症度スコアリングシステム(m‑ASSESS)を作成した➡次に単変量関連分析を実施して、WATCH研究で最も一般的な13の併存疾患とm‑ASSESSとの関連性をテストし、分岐限定法を使用して、MiDASに含める最も関連性の高い併存疾患を選択した。
・次に、WATCH研究で完全な情報を持つすべての患者(n=319)についてMiDAS値を計算して、m‑ASSESSの構成要素、炎症誘発性バイオマーカー、および生活の質(QOL)の尺度であるセントジョージ呼吸器質問票(SGRQ)スコアとの相関を評価した。
・4つの国際コホートにおいて、MiDASと複数の臨床転帰との関連性を評価した。
オーストラリアで収集されたデータ(n=140)、東南アジアのコホート1つ(n=151)、および米国のコホートで7つの併存疾患を特定し、3つの異なる大陸でMiDASを同じように診療現場で使用できるかどうか、を検討した。
・MiDASの質問、配点、相関係数は以下の通りである。

図説明:
BPD=呼吸パターンの異常、GORD=胃食道逆流症、NERD=否ステロイド性抗炎症薬による呼吸器症状悪化、OSA=睡眠時無呼吸症候群
各併存症と著者らが開発した修正喘息重症度スコアとの関係の間の相関係数を示す。
方法:
・英国を拠点とする難治性喘息のウェセックス喘息コホート(WATCH、n=500、2015年から2020年の間に収集されたデータ)のデータを使用し難治性喘息の多疾患併存スコア(MiDAS)を開発した。
・最初に、WATCH研究で修正喘息重症度スコアリングシステム(m‑ASSESS)を作成した。次に、単変量関連分析を実施して、WATCH研究で最も一般的な13の併存疾患とm‑ASSESSとの関連性をテストし、分岐限定法を使用して、MiDASに含める最も関連性の高い併存疾患を選択した。
WATCH研究で完全な情報を持つすべての患者(n=319)についてMiDAS値を計算して、m‑ASSESSの構成要素、炎症誘発性バイオマーカー、および生活の質の尺度であるセントジョージ呼吸器質問票(SGRQ)スコアとの相関を評価した。
・次に、4つの国際コホートにおいて、MiDASと複数の臨床転帰との関連性を評価した。
オーストラリアのコホート2つ(n=236、2014年から2022年までに収集されたデータ、およびn=140、2012年から2016年までのデータ)、
東南アジアのコホート1つ(n=151、2017年から2024年までのデータ)、
および米国のコホート1つ(n=100、2021年から2023年まで のデータ)。
結果:
・分岐限定法分析に基づいて、7つの一般的な併存疾患 (すなわち、鼻炎、胃食道逆流症、呼吸パターン障害、肥満、気管支拡張症、非ステロイド性抗炎症薬で悪化した呼吸器疾患、および閉塞性睡眠時無呼吸) を MiDASに含める対象として選択し、多変量線形回帰を使用してそれらを組み合わせて、WATCHのm‑ASSESSに関連するMiDASモデルを導出した。
研究結果:
・MiDASのスコアが高いほど、喘息コントロールの悪化、生活の質の低下、不安や抑うつの悪化、炎症プロファイルの悪化など、多くの有害な患者転帰と関連していた。
・MiDASスコアと喘息悪化の相関は有意ではなかった。
・MiDASスコアの範囲は9.6~16.2。WATCHメンバーでは、平均MiDAS値は11.97であり、MiDASは、喘息コントロール不良 (=0.31 [95% CI 0.24~0.38])および悪化 (=0.16 [0.08~0.24])のm‑ASSESSコンポーネントと名目上相関していた。MiDASは、WATCH試験において、SGRQ総スコアの悪化(r=0.39 [95% 0.28–0.49]、p<0.0001
・MiDASは、WATCH試験において、SGRQ総スコアの悪化(r=0.39[95% 0.28‒0.49]、p<0.0001)および炎症誘発性血漿サイトカインであるインターロイキン(IL)‑4 (r=0.19 [95% CI 0.06‒0.31]、p=0.0036)、IL‑5(r=0.35 [0.24‒0.46]、p<0.0001)、レプチン(r=0.29 [0.17‒0.40]、p<0.0001)とも相関していた。
・4つの国際コホートにおけるMiDAS値は、WATCH(英国コホート)の値と類似しており、オーストラリアのコホートでは平均値が12.33(標準偏差1.47)と12.31(1.37)、米国のコホートでは11.80(1.20)、シンガポールのコホートでは11.55(1.23)であった。これらのコホートでは、MiDASは喘息コントロールの悪化、生活の質の低下、不安、抑うつ、炎症の増加と相関していた。
考察:
・MiDASは臨床的に適用可能で使いやすいと考えられており、喘息転帰が悪化するリスクが最も高い患者を特定するためにとして活用できる。
・難治性喘息における多疾患併存の負担は大きく、患者の様々な側面において深刻な悪影響を及ぼす。MiDASは、有害事象のリスクが最も高い患者を特定することで、臨床的に直接的な有用性を発揮する。
・MiDASの主な欠点は、元のコホートに対して包括的な併存疾患のデータが不足していたことである。多くは治療困難な喘息と分類される。
・7つの一般的な併存疾患 (すなわち、鼻炎、胃食道逆流症、呼吸パターン障害、肥満、気管支拡張症、非ステロイド性抗炎症薬で悪化した呼吸器疾患、および閉塞性睡眠時無呼吸) は、MiDASに含める対象としたことで精度を上げることができた。
この研究は、中高年の重症の喘息の治療方針を決める過程で、7項目(鼻炎、胃食道逆流症、呼吸パターン障害、肥満、気管支拡張症、非ステロイド性抗炎症薬で悪化した呼吸器疾患、および閉塞性睡眠時無呼吸)を合わせて判断する妥当性を検討し、さらに喘息の悪化に関わる血液中のサイトカインの値とも相関することを統計的に明確にしました。地域的な差異が生じないことを英国以外の国の患者で証明しています。7項目は、日常の診療の中では、ほぼ既に関与が示唆されている項目ですが改めて具体的に指摘されることにより日常の診療に反映させることができます。
また、ここで、肥満と閉塞性睡眠時無呼吸症候群が中高年の重症喘息の悪化要因と判明したことは、改めて喘息治療が呼吸器系だけの問題にとどまらず、解決の難しさを示すものであり、長期の治療ではこれらを含めて治療すべき、ことを示唆しています。
参考文献:
1.Kurukulaaratchy, RJ. , Freeman A, Bansal, ATB. et al.
Evaluation of the effect of multimorbidity on difficult-to-treat asthma using a novel score (MiDAS): a multinational study of asthma cohorts.
Lancet Respir Med 2025;13: 821‒32
https://doi.org/10.1016/ S2213-2600(25)00135-3
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